石川五右衛門3世、但し直系ではない

せりもも

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花瓶の穴

11 岡津の磁器

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 「凄く熱いんだ。普通の竈の、何千倍も熱い。そんな火で、3日3晩、焼かなくちゃならねえ。もちろん、見張りが必要だ。火が弱くなっちゃ、おしめぇだからな」

 男は、親切だった。三助に酒を奢ってくれた。富久豆を出てきてから、初めて口にする酒だ。三助は、陶然となった。

「自分で言うのもなんだが、俺ぁ、腕のいい陶工でよ」


 富久豆の国、岡津村で、硝子質を含む良質な土が発見された。明(今では清に代わっていたが)の景徳鎮や、佐賀の有田のような、磁器が作られるようになった。

 最初は高根の花だった陶磁器も、当節は、頑張れば、なんとか、庶民の手にも届く値段になっていた。

 芙蓉や麒麟などの中華風の絵だけではなく、たおやかで繊細な日本風の絵柄を焼き付けた岡津の陶磁器は、瞬く間に、大変な人気を博した。

 特に岡津の陶磁器は、幕府に納められることはなく、専ら、国内販売に活路を見出した。


 一方で磁器は、高温で長時間焼かねばならない。大量の薪が必要だ。里山や森林の伐採を意味する。山が荒れるということで、藩から、樹木の伐採を禁じられてしまった。

 地元岡津は、磁器のおかげで潤っていた。多額の運上金(税)を藩に納めることで、なんとか、その場を切り抜けた。しかし、窯元の縮小を余儀なくされた。多くの陶工たちが解雇され、その中に、三助も含まれていた。

 窯元の紹介で、三助は、江戸のお店に引き取られた。白野屋という、窯元と繋がりのある陶器問屋だ。店主の春兵衛や、番頭の矢八郎は、ちょくちょく、岡津の窯元の家に、顔を出していた。


 しかし、白野屋では、三助は、何をやってもうまくいかなかった。客あしらいはもちろん、荷師(焼き物の梱包作業をする専門職)を手伝えば、包み方が悪く、せっかくの焼き物が壊れるし、ならばと、荷担ぎをすれば、足が遅いと怒られる始末だ。


 「おらぁよ! 12の時に親方に弟子入りしてからというもの、陶芸一筋だったんだ! 今更、他の仕事なんか、できるもんじゃねえ!」

 だん! と、三助は、盃を宅に打ち付けた。厚手の無粋な盃だ。まるで子どもの粘土細工のようだ。こんな盃で飲んだら、せっかくの酒がまずくなる。

「そうだろそうだろ。白野屋の番頭さんから聞いたぜ。お前さん、有田から引き抜かれたんだろ?」

 三助を助けてくれた男は、話のわかる男だった。おまけに、三助のことを、良く理解してくれている。

「ああ、そうだ。はるばる佐賀から引き抜かれてきた。俺の親方は、よ。朝鮮から来た、李参平の末裔だ。その親方から、こいつは優秀だって、太鼓判を押されてな!」

「李参平?」
せせりを頬張り、不明瞭な発音で、男は繰り返す。

「なんだよ。李参平も知らねえのか。慶長の役でよ、おい、慶長の役。知ってっか?」
きょとんとした顔の男に問い質す。

「えと、……」

 どうやらこいつは馬鹿だな、と、三助は思った。日本人のくせに、日本の歴史をなにひとつ、知っちゃあいねえ。

「かの太閤秀吉が、朝鮮半島へ攻め入った戦いだ。覚えておきやがれ」
「へえ」
まさに、青菜に塩と言った感じで、男は、しゅん、と項垂れた。

「その慶長の役でよ、道案内とか、いろいろ日本軍の役に立ったのが李参平だったわけよ」
「……ほえええ」

あんまり感服しているような顔ではなかった。三助は、気を悪くした。

「日本軍について、佐賀まで来た李参平は、有田の土を見て、これなら高価な磁器が作れるって、踏んだ。李参平の目論見は当たり、有田は、焼き物で、栄えるようになった」

「あんたの親方が、その、李参平の子孫なのかい?」
「自称な。李参平三世を名乗ってるぜ」

「それは素晴らしい」
なぜか突然、男が喰い付いてきた。
「あんたの親方は、直系じゃないな」
「そもそも自称だからな」

「李参平の、弟の子孫に違いない」
「知るかよ。おい、姉さん、酒!」


「……まだ飲むのかい」
男は眉を顰めた。大方、支払いが心配なのだろう。

「飲む。おあしが足りなくなったら、さっきみたいに、走って逃げればいい」
「しっ、声がでかい!」

小心者なのか、男は辺りを見回した。心配そうに、小声で囁く。
「そんなに飲んで、走れるのかよ?」


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