石川五右衛門3世、但し直系ではない

せりもも

文字の大きさ
35 / 43
花瓶の穴

12 海の向こうの金細工

しおりを挟む
 そこへ、お多福に似た、福々しい娘が、徳利を運んできた。
 大喜びで、三助は、彼女に酌をさせた。

「有田から岡津へと渡り歩いたくらいなら、あんた、焼き物に詳しいだろ。なら、知ってるか? あちち!」

 一緒に運ばれてきた田楽を口に放り込み、男が悶絶した。
 意地汚く、すぐに箸をつけるからだ。

「俺が何を知ってるって?」
酔っ払い特有のしつこさで、三助は絡んだ。

「おお、熱かった。いや、孔だよ。買った磁器に、小さな孔があるんだ」

「買った」を、いやに強調して、男は言った。

「孔?」
「小っこい、丸い穴だ。なんでも……」

ぐい、と、男は膝を乗り出した。

「なんでもよ。後から、金の蓋や、取っ手をつけるんだと。その孔にうまく、こう……」

 言葉が追い付かないのか、右手の人差し指を、左手で作った拳の間に差し込む仕草をする。なんだかひどく、卑猥に見えた。

「お前さん、欲求不満と違うか?」
「弥勒菩薩が相手にしてくれねえもんで」
「弥勒菩薩だと? 高望みしすぎだ」
「そんな、叩きつけるように言わなくたって……」

 男は、泣きそうな顔になった。他人の色恋沙汰を聞かされるほど、つまらぬものはない。まして若い男の。三助は、鼻で笑った。

「だいたいな、この日の本の国から、そんなに大量の金が出土るかよ」
「そうだよな……」

 この答えは、男の想定内のようだった。
 それが、三助の気に障った。ぐい、と、三助は、膝を乗り出した。

「だが、海を越えた向こうでは、そうでもないらしい。海の向こうの国々には、金細工を手掛ける名工がいるそうだ」
「金細工?」

「手先の器用な奴らが、日本や清から運ばせた陶磁器に、金で、取っ手や蓋や、注ぎ口なんかを作って、くっつけるんだそうな」
「そりゃ、豪儀だな」

「そういや、有田にいた頃、出来上がった甕や壺に孔を開けてくれって、注文が、たまにあったっけ。そういうのは、出島に運ばれてった」
「出島?」
「知らねえのかよ。海の向こうのお国へは、出島からしか、持ち出せねえのさ」 
「あ? ああ、そうだね……知ってるさ、もちろん」

 怪しいもんだと、三助は思った。
 気の毒に、この男の知能は、相当、低いらしい。
 そこで、親切に解説してやる気になった。

「焼きあがった磁器に、孔を開けるのは、とても難しい作業なんだ。大陸の……景徳鎮の奴らは、それほど得意じゃない。そういうのは、やっぱり日本人でないとな。俺の親方は、得意だったんだ」

「親方は、朝鮮人だろ?」
「何代前の話をしてるんだ。もう立派な日本人さ。ま、磁器に孔を開けるのは、俺だって得意だが。親方よりうまかったくらいだ」
「ふうん」

「そこを見込まれて、引き抜かれたようなもんさ。富久豆の岡津へな、な。岡津の窯元が、陶器に穴を開けなくちゃならなくなったから。岡津でも、割れやすい形の磁器は、俺の所に持ち込まれてきたもんだ」
「へえ! 岡津でも、孔を空けてたんかい」
「ああ、俺は重宝されてたんだぜ」

「すげえな」
素直に、男は目を輝かせた。
「技術のあるやつって、すげえ!」

「……結局、クビになったがな」
「それで、江戸の白野屋に再就職したってわけか」
「そうだよ。そもそも岡津の窯元に、出来上がった陶磁器に穴を開けるよう依頼したのは、白野屋だからな。結果、俺は佐賀から引き抜かれ、岡津へ来たわけだ。だから、窯元を首になっても、岡津には、頼れる親戚も知り合いもいやしねえ。白野屋は責任を感じたんだろうよ。まあ、江戸でもクビになったわけだけど」

 自嘲的に、三助は答えた。悔しさがこみ上げ、付け加える。

「後輩は窯元に残った。俺が技術を教えてやったやつだ。人減らしで、給料の高い俺だけが追い出された。はるばる佐賀から呼んでおいて、結局は使い捨てってやつよ」

 三助が嘆くと、宥めるように男は言った。

「そりゃ、ひでえ話だ。そんなあこぎな窯元のことなんか、忘れちまうがいいさ。その後でクビになったお店も、相性が合わなかっただけだろ。そんなところに居続けても、いいことなんか、ひとつもねえ」
「そうだな……」

 なんだか、陶芸にこだわっていた自分が、あほらしくなってきた。

「お江戸はいいぜ。探せば、何かしら仕事がある」
「……うむ」
「ま、呑みねえ呑みねえ」

 男の注いでくれた盃を、三助は、ぐいと、飲み干した。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

処理中です...