石川五右衛門3世、但し直系ではない

せりもも

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花瓶の穴

15 夜はまだ長い

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 「殺っちまったのかい!」
思わず大声を、白野屋春兵衛は出した。
「矢八郎、お前、堀田三助を、殺したと?」

「あの男は、旦那さんに手を出しました。あの男は、旦那さんに……」
 番頭の矢八郎が繰り返す。憑かれたような目をしていた。


 彼が春兵衛から託された客は、好奇心が強かった。店の外の大騒ぎにつられ、客は、表へ出ていった。

 客を追いかけて店の外へ出た矢八郎は、三助が店主春兵衛を突き飛ばしたのを見た。


 「馬鹿だね。言ったろ。尻もちをついただけだよ」
宥めるように春兵衛は笑った。番頭への愛しさがこみ上げる。
「それより、大丈夫かえ? まさか、疑いが……」

「おたなに迷惑のかかることはありません」
矢八郎は、自信たっぷりだった。
「誰にも見られませんでしたし、すでに、しょっぴかれたやつがいるそうです」

 それが誰かまでは、わからない。
 とりあえず、下手人が上がったのは、慶事だと、彼は言った。

「これで、あっしに疑いが掛かることはありません」
「そうだね」

 春兵衛も安堵した。
 誤認逮捕など、番屋が認めるわけがない。そいつには気の毒だが、このまま矢八郎の罪を被って斬首、さらし首になってもらおう。

「で、あの客の正体はわかったのかい?」
「それが、ちょっと目を離した隙に……」
「逃げられたのかい」
「旦那さんに気を取られてしまって。もっ、申し訳ありません」

 春兵衛は舌打ちした。

 客が口にした、孔空きの花瓶の話は、剣呑だった。数日前、隠しておいた蔵の中から、花瓶がひとつ、盗まれている。

 しかし、たとえあの男が下手人だったとしても、騒ぎ立てる気遣いはなかろうと、春兵衛は考えた。そんなことをしたら、白野屋に盗みに入ったのは自分だと、白状するようなものだ。

 だいたい、磁器に孔が空いていても、犯罪ではない。穴の開いた陶器は、
 盗む方が悪いのだ。

 だが男は、不満だったようだ。穴から水が漏れて、友人が、女に袖にされたと、不平たらたらだった。

 大方、捨てられたのは、あの男自身だろう。それで、文句を言いに来たわけだ。なんともお粗末な話だ。だいたい、磁器を虫が喰うわけがないではないか。


「いいよいいよ。あんたは、あたしの心配をしてくれたわけだ。ありがとよ」

 打って変わって優しい声を、春兵衛は出した。
 あれは、ただの阿呆だ。
 あんな阿呆に関ずらわっていて、このひと時を、無駄にしたくない。

「それより、もそっと近う、お寄りよ」
 甘えた声で囁いた。

 夜はまだ長い。
 矢八郎は腕を回し、春兵衛を抱き寄せた。





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