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絶体絶命

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 「なんだここは。真っ暗じゃないか」
 どうやら強盗達は、簡単な日常魔法さえ使えないらしい。つまり、一般的な平民ということになる。

「辛気臭い部屋だな。なにもないよ、ジャック。上へ行こうぜ」
もう一人の男が促す。

「なんだ、お前。怖気ついたのか?」
「ばかな。お前も見てたろ。隣の村で、俺は5人殺したんだぜ」
「俺は7人だ」
「だがその前の村では、俺の勝ちだ。俺は10人殺した」
「半分が女で、残り半分が子どもだったがな」

 聞いていて、俺は吐きそうになった。
 こいつらは最低の強盗だ。

 壁に沿って歩いていた男が躓いた。

「いてっ! なんだ、これは?」
「燭台だ。それに太鼓もある」
「もっと金目のものはないのか」
「みろよ。戸棚がある」

 二人がこちらへ近づいてきた。まずい。カーテンにくるまり、俺は身を固くした。
 ちょうどその時、窓から月の光が差し込んだ。部屋の中が照らされ、テーブルに乗せられたガラスがぼう、と光った。

「見ろよ、ジャック。部屋の真ん中で、何か光ってるぜ」
「なんだ、あれは。お宝かな」
「だとしたら、すごい」

 俺は息を呑んだ。
 そろそろと二人は、部屋の中央、ガラスの柩に向かっていく。
 あの中には、ヴァーツァが、青い薔薇に囲まれた美しい男が眠っている。

「止まれ!」

 思わず俺は、カーテンの陰から飛び出した。柩の乗ったテーブルに走り寄り、立ち塞がる。
 男たちは立ち止まり、目を見開いた。

「なんとまあ、人がいたとは」

 しまったと思った。だが、ヴァーツァを守ろうとしたことに後悔はしていない。
 守りたいと思った。本当に美しい男だから。

「俺の名は、シグモント・ボルティネ。浄霊師エクソシストだ。ここは、お前らのような者が来るところではない」

「浄霊師? 坊主ではないのか? だが、まあ、同じことだ」
ジャックと呼ばれた男がにやりと笑った。
「話を聞かれたからには生かしちゃおけねえ。気の毒だが、あんたには死んでもらうぜ」
 おもむろに背中に背負った銃を取り出した。狩猟用の散弾銃だ。

「ここは礼拝堂だ。銃は止めろ」
 ヴァーツァに当たってしまう! 薔薇に包まれた美しい男に。

「おっと、俺だって善良な皆さんの信仰の場で銃をぶっ放すのは気が乗らねえさ。音も凄いしな。だが、こっちのニコラは幅広のナイフを持っていてな」

 ジャックが手で指し示すと、ニコラと呼ばれた男がにまりと笑った。抜き身のナイフが、月明かりを受けて、ぬめりと光った。

「どっちかっていうと、銃よりナイフの方が俺の好みに合ってる」
「ナイフなら、俺だって持ってるぜ」

 猟銃を背負い直し、ジャックが腰に下げた革袋から大ぶりのナイフを取り出した。刃渡りは狭いが、剣のように鋭い切っ先をしている。





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