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嫉妬

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「やだ。だって俺はまだ、飽きられるほど貴方を知っていない」
 俺が言うと、ヴァーツァの顔に含み笑いが浮かんだ。

「あんなにたくさんあっても、死体は誰かが操らなければ動かない。彼らが動けば、この館はもっと快適になる。君が料理をする必要はなくなる。トラドやメルルの負担も減る」

 それが何を意味するのか、咄嗟にわからなかった。料理。トラドの負担?
「あれは、使用人達の遺体なの?」

 けど、同じことだ。犠牲者が、行きずりの人から使用人に変わっただけだ。ヴァーツァは片っ端から使用人たちに手を出して、最後には全員殺してしまったに違いない。

 悪びれもせず、ヴァーツァは頷いた。
「そうだよ。地下室で眠っているのは、カルダンヌ家の使用人たちだ」
「貴方はひどい人だ」

 使用人を殺すなんて。それも、皆殺しなんて。きっと、一人一人ベッドに呼んで、そして……。

「そうだな。早く体力を回復しなければ、彼らに恨まれる」
 頓珍漢なことを、ヴァーツァが言う。

「今でも充分恨まれているよ。殺して地下室に閉じ込めておくなんて」

 もしかしたら、一晩で数人を殺したこともあったのかもしれない。つまり、一晩で複数人を相手に……。
 目の前がちかちかした。
 やっぱりこの男は人でなしだ。

 ヴァーツァが首を傾げた。
「ん? 殺したのは俺ではないぞ」
「……え?」

 胸に希望が灯った。
 だめだ。希望を抱くなんて不謹慎だ。とにかく。使用人たちは亡くなったのだから。

「疫病が流行ったの?」

 それなのに希望を抱く自分が忌まわしい。希望……という希望だ。

「死因はさまざまだ。俺もよく知らない。いや、調べればわかるんだけど、書類仕事は苦手で」
 頭を掻く。
「でも、そんなことしなくても、当人に聞けばわかることだ」
「聞く? 死骸に?」
「そうだよ。まさか忘れたんじゃあるまいね。俺はネクロマンサーだ。遺体を蘇生させ、使役することが俺の領分だ」

 ぽかんと口が開いてしまった。俺はヴァーツァを眺めた。朗らかで美しい彼を。

「明日にでも彼らを蘇らせよう。カルダンヌ家自慢の使用人たちだ。きっと君は満足することと思う」

 ゆっくりと頭が回転を始めた。
 メルルは死骸だと、ヴァーツァは言っていた。死骸を使役していると。だから、壁に叩きつけられても、すぐに蘇ったんだ。
 同じことが使用人にも言えるのかもしれない。
 彼らはもともと死体だった。ヴァーツァが使役し、初めて動くことができる。

 見上げる男の顔に笑みが浮かんだ。

「それにしても、女性? 気にしていたのはそこなんだな」
 手を伸ばしてきた。
「俺が彼らを殺したかもしれないという疑惑より、俺が彼らと寝たかもしれないという疑いの方が、君を傷つけたのだろう?」

 図星を刺されて、俺の頬に音を立てて血が上った。

「ち、ちが、ちが、」
 必死で否定する俺を、ヴァーツァがにやにや笑いながら眺めている。

「違わない。嫉妬してくれて嬉しいよ、シグモント。最初のキスの後、君は全然積極的でなかったから。むしろ俺を避けていたろ?」

 理解するのに時間がかかった。
 言葉の意味がわかった瞬間、俺は彼に抱きすくめられていた。






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