「何もない、静かな部屋」 キスを待つ頬骨シリーズ2.5

水ぎわ

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第13章「姫の逆襲」

第111話「若い男の不埒な指先」

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(UnsplashのM Ashraful Alamが撮影)


 環はやわらかい太ももの間にはさまっている今野の手をくすぐったがりながら、尋ね返した。

「ジェームス・ボンドの時計……映画のことですか」
「そう。初代ボンドはスコットランド出身の俳優、ショーン・コネリーだった。
 映画の中でボンドが使っている腕時計が、これなんだ。はっきりと映っている場面が多くて、ボンドファンや映画マニアのあいだじゃあ、ロレックスのサブマリーナ、Ref.6538だって特定できているんだ。
 時計のでかいリューズとかデイトのないところとか、特徴的な要素が多いから」
「あまり難しいことはわかりませんが……つまりこの時計は珍しいものなんでしょうか? 持ち主はわかるでしょうか」

 環が勢い込んで聞いてくるのが今野にはかわいくて、またしても若い男の不埒《ふらち》な指先はゆっくりと環の脚の奥に向かって進んでゆく。

「持ち主まではわからないだろうなあ……人気があって高価な時計だけど、数が出ているからね。Ref.6538だというだけじゃ、持ち主は特定できないよ。
 あれっ、この時計は裏にイニシャルが刻印してあるじゃないか」

 今野は時計を裏返し、

「K・Sって……K……紀沙おくさんのイニシャル?」
「そう思ったのですが、苗字がSなので、合いません。松ヶ峰ならMですし、旧姓の『古橋《ふるはし》』もちがいますし」
「ほかにKって言うと誰がいる? か……き……く……いねえか」

 環はため息をついた。大きく息を吐いたはずみに、ふっくらした胸が柔らかく揺れた。
 環は全体的にぽっちゃりと肉づきの良い身体で、胸のサイズもかなりある。ほんの数時間前に初めて今野が見たところによれば、おそらく目視でEカップ。
 ひょっとしたらFでも行けるかもしれない。

 この胸に食いつきてえ、と今野は思う。
 しかし環は今野の欲情にまったく気づかず、

「ずっと、誰の名前だろうって考えていたんです。心あたりがなくて。
 それでね、私は思ったんですけど」
「ん?」
「これ、普通のイニシャルと違ってKが苗字なんじゃないでしょうか」
「Kが苗字のひと? 誰がいるよ」

 今野が言うと、環はにっこりした。

「まず、今野さん」
「……俺のじゃねえよ」
「分かっています。候補として、ですよ。だって今野さんじゃあ、下の名前が違うでしょう」
「ちがうよ。っていうか、環ちゃんは俺の名前をきちんと知っているの?」
「知っていますよ、当然です」
「何で知ってるの? 意外と俺に興味があった?」

 今野が思い切って指を奥に進めると、環は頬を赤らめてますます足をきつく閉じた。

「サト兄さんの事務所の方の名前くらいは、全部ぞんじております。
 なにも今野さんの名前だけじゃありません」
「そんなもん、苗字だけ覚えればいいじゃん。なあ、ホントは前から俺が気になっていたんだろ」
「違いますって……それにKが苗字のひとって、本当に多いんですよ。
 音也さんだって、Kでしょう」

 今野はムッとした声で答えた。

「……くすのき、か」
「ね? でも音也さんは、名前がOだからだめです」
「俺は?」
「今野さんは”哲史《てつし》”さんでTだから、違います」

 今野は思わず環を抱き寄せた。ふんわりした胸に顔を突っこむ。

「”哲史《てつし》さん”。うわ、それイイわ」
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