完結『まず、キスから始めよう~キスを待つ頬骨② オトナの恋愛小説です

水ぎわ

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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編

第4話「では、佐江はどこにいる?」

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 クリスマスイブの前日。
 清春は異母妹・真乃《まの》との約束どおり、父親の本邸にいた。夕方からやってきて、ついさっき食事を済ませたところだ。
 冷たい風の吹く二階のベランダで煙草に火をつけながら、食卓での様子を思い出していた。

 真乃が心配するようなことは何もなく、父親は清春から見て腹が立つほど上機嫌だった。
 一人娘の真乃と真乃の親友の岡本佐江《おかもとさえ》を前にして、直近の海外出張での出来事を笑いながら話した。

 真乃は、父親によく似た華やかな顔をほころばせてよく笑った。そのかたわらで、岡本佐江は怜悧な美貌のまま静かに微笑んでいた。

 佐江はほっそりした長身をカーキ色のワンピースに包み、相づちを打っては、清春の父親からうまく話を引き出していた。
 時おり少女のように真乃といたずらっぽく視線を交わす。そのアンバランスさが十九歳という彼女の年齢に似つかわしかった。

 岡本佐江は美しい。

 清春の妹の真乃も華やかな容姿で幼いころから人目を引いたが、純粋に顔立ちの良さからいえば、佐江のほうが勝《まさ》っているかもしれない。
 ただ真乃には周囲を引きつけるパワーがあり、岡本佐江はもっと控えめだという違いがある。

 ベランダで寒風にふるえながら煙草を吸っていた清春は、ふと自宅の前に車が止まったのに気が付いた。黒いアウディは、たしか父親の秘書のものだ。
 清春はベランダにずらりと並んでいる鉢植えの隙間から、路上を見おろした。

 案の定、スーツ姿の父親が玄関から出てきて、秘書と話しながら車に乗り込んだ。これから仕事があるらしい。

 清春は不機嫌な顔で、煙草の煙を吐き出した。
 父親がいないのなら、今夜、本邸に来る必要はなかったと思い、このまま泊まらずに帰ろうと決めたとき、路上に音もなくもう一台、小ぶりなトヨタ車がやってきて停まった。
 清春はいぶかしげに車を見た。
 車からは誰も降りないので、二階のベランダから見ている清春には誰が運転しているのかわからない。ただ車種と鮮やかなカラーリングから見て、若い男が乗っているような気がした。

 ——誰だ?
 ベランダの手すり越しに身体を伸ばしていると、玄関を出る真乃の姿が見えた。真乃はブルーのコートを着て玄関を出て、門扉《もんぴ》を開けるとまっすぐに車に向かった。
助手席に乗り込む。
 真乃が乗り込むと同時に、車は走り去っていった。

 清春は首をかしげた。
 あの車は、ひょっとして岡本佐江のものだっただろうか?
 だとしたら真乃と佐江は二人一緒に家を出るはずだろうし、この距離で清春が佐江の姿を見落とすとは思えなかった。


 清春には、ふたつ目の質問はすぐに答えが分かるような気がした。
 つまり真乃は誰にも知られぬように出かけたかったのだ。多分、男と。

 では、佐江はどこにいる?
 清春はそっとベランダを歩き始めた。
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