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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編
第7話「”サラトガクーラー”」
しおりを挟む(UnsplashのEdward Howellが撮影)
清春は佐江に背を向けて階段を下りた。そして父親の家の広すぎるリビングに入って、いつもきれいに整えてある髪の毛に指を突っ込む。
なんだか、まずいことになりそうな気がした。
こういう時は、あまりいろいろと考えこまずに身体を動かしていたほうがいい。清春はリビングのすみにあるバーカウンターから酒の瓶とグラスを取り出した。
佐江には、あまり強い酒を飲ませないほうがいいだろう。ノンアルコールのカクテルにしようと決めた。
酒に甘さを求めない女だという気がするので、”サラトガクーラー”のための材料をバーカウンターに並べていった。
辛口のジンジャーエールにライムジュース、それにシロップ。
細長いコリンズグラスに氷をつめて、上からライムジュース、シロップ、ジンジャーエールの順番で注いでいった。
自分には同じレシピからシロップを抜いて、かわりにアドボカートというオランダのリキュールを入れた。これで”スノーボール”というカクテルになる。
”アドボカート”という変わった酒の名前は、オランダ語で「弁護士」を意味する言葉に由来する。この酒を飲むと弁護士のように口がなめらかになることから、名付けられたというものだ。
清春は、自分のグラスのリキュールも減らした。怜悧な岡本佐江を相手にして、余計なことをしゃべってしまわないようにするためだ。
できあがった酒に口をつけたとき、佐江が軽やかな音で階段を下りてくる音が聞こえた。
「こんばんは」
リビングに入ってきた佐江は、白い男もののような大きめのシャツをはおり、ほっそりした脚にストレートのデニムをはいていた。その姿を見て、清春は内心にやりとする。
これほど美しい女が、男の誘いを受けないためにあえて色気のない格好をしている。
佐江がいかに男からの誘いをめんどうがっているのかを、如実《にょじつ》に伝えてくる服装だった。
同時に、色気を求めないことでかえって、すがすがしい色気が佐江の全身から匂いたっていた。
それに気づかないところがまだまだ彼女の幼いところだ。
佐江が軽く来たシャツからは、きゃしゃな手首がのぞき、その先の小さな手まで含めて、男をそそる愛らしさがある。
ウエストをおおうように着たシャツはシミひとつない白さで、佐江の色白の肌と漆黒の髪を引き立てていた。
もう五年たったらどれほど美しい女になるだろう、と清春はバーカウンターに佐江のためのグラスを置きながら思った。
「きみのはアルコールが入っていないから」
「そうなんですか?」
佐江はバーカウンターを挟んで、清春の向かい側にするりと腰をおろした。
ふんわりと甘い花の香りがする。彼女には似つかわしくないような甘すぎるトワレだった。
この匂い、どこかでかいだことがある。
清春に近い人間の匂いだ。いったい、誰が使っている香りだったか――?
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