完結『まず、キスから始めよう~キスを待つ頬骨② オトナの恋愛小説です

水ぎわ

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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編

第8話「何もかも、はぎ取ってしまってからのほうが美しい」

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(UnsplashのTing Tianが撮影)

 佐江はちらりと清春のグラスを見た。

「そちらには、お酒が入っているんですか」
「少しだけね。きみ、真乃《まの》と飲みに行ったりするの?」
「ええ」

 佐江はゆっくりとグラスに口をつけた。ついさっき泣きかけてゆがんだ唇には、口紅が控えめに塗られている。
 唇には、何もないほうが色っぽかったな、と清春は思った。

 清春の知る限り、女には二種類ある。

 メイクや服、アクセサリーで着飾ると一気に華やぎが増す女と、何もかもはぎ取ってしまってからのほうがより美しい女だ。
 そして清春は、飾りを奪われてから美しくなる女が好きだ。

 ふだんはおとなしく地味な服装をしていながら、コットンのシャツの下に繊細なレースの下着を身に着けている女。仕事中は暗い色のスーツにかっちりと身を固め、ベッドの上でだけ甘い顔を見せる女だ。

 それほどの手練手管《てれんてくだ》を使いこなす力は、年齢とともに女の身にそなわってくる。
 だから、清春は年上の女とばかり付き合っているのだ。

 佐江は背筋をまっすぐに伸ばしたまま座り、おだやかに言った。

「真乃とは、よく飲みますよ。こちらにおじゃまして、こうやって飲むことも多いんです」
「そのたびにきみは、真乃に放っておかれている?」

 清春がうっかりそう言うと、岡本佐江は大きな二重《ふたえ》の目をきっと清春の顔に据えた。

「こんなこと、そうありません。真乃はしっかりした人ですから」
「いいんだよ。おれは真乃の兄だ。あいつがもっと若いころから、遊びまわっているのは知っている」
「しょせん、全部遊びです。心配いりません」
「真乃の心配は、していないよ。おれはきみが―――」

 と言いかけて、清春は口をつぐんだ。
 今夜はろくでもない事を言ってしまわないようにあえてアルコールも減らしたのに、もうこのざまだ。

 佐江は大きな目をきらりとさせて、清春を見た。

「私が――何ですか? 哀れにみえると、言いたいんですか?」

 大きく張った綺麗な目が、青みがかって清春をにらみつけた。
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