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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編
第10話「いっそ、憎いほどだわ」
しおりを挟む「真乃(まの)を好きになる理由なんて、山ほどあるでしょう。あれほどきれいな人を見たことがありますか?」
「おれは兄貴だからね。あいつがきれいかどうかなんて、考えたこともないよ」
「そうでしょうね……」
佐江はスツールに座ったまま、下から清春を見あげた。
「あなた自身も驚くほどきれいなんですから。でも真乃とはタイプのちがう美しさですね」
「きみにキレイと言われても困るな。おれは女性じゃない」
「男性だってきれいなほうがいいですよ。さぞかし、もてるでしょう?」
清春は気恥ずかしくなって、つるりと顔を撫でた。
「もてないよ」
「そうやって照れるところなんて、真乃にそっくりです。おじさまの遺伝だわ、きっと」
「よせ」
清春はやや荒い声で言った。父親との関係を触れられるのは、むき出しになった神経にじかに触れられるのと同じことだ。痛く、冷たく、腹立たしい。
しかしすぐに我に返り、佐江の前から手早くカラになったグラスを引き上げた。ゆっくりと、佐江に気づかれないように深呼吸をする。
「そうだな……もう一杯、いる?」
「ええ。でも、つぎはアルコールもいただきたいんです」
清春は渋い顔で顎をなで、バーカウンターを挟んで座る佐江を見おろした。
「こんな深夜に、男と二人で酒を飲むなんて感心しないな」
佐江はおかしそうに笑った。今度は本気の笑いだ。
「まるでバーの会話みたい。そういえば、バーでアルバイトをなさっているんですって?」
清春は眉毛を片方あげて、佐江を見る。佐江はまだ笑っていて、その声はまるで鈴が鳴っているようだ。
「働いているよ。バーテンの修行中なんだ」
「じゃあ、大学を卒業なさったらバーテンになるんですか? 今はたしか経済学部にいらしたと思いましたけど」
「なぜ、きみがおれの専攻まで知っているんだ。おれに興味があるって、うぬぼれてもいいかな」
清春がそう言うと、佐江はもう一度軽い笑い声をあげた。
「どうとでも、お考えくださいな。だって、真乃がしょっちゅうあなたのことを自慢そうに話すんですから。
なんだかあたしまで、あなたについて良く知っているような気がするんです」
「真乃が、おれのことをきみに話す?」
清春は面食らって尋ねた。いったい、妹は清春について何を彼女に話しているんだろう。
「真乃にとっては、あなたはとても大事なお兄さんなんですよ。
あなたの大学のこと、アルバイトのこと、お料理が得意でときどきランチを作ってくれること。なんだって、飽きることなく話してくれます。ご存知ありませんでした?」
清春は、またつるりと顔を撫でた。異母妹がそれほど自分について話しているとは、考えたこともなかった。
「あなたほど、真乃が大事にしている男性は他にいません――いっそ、憎いほどだわ」
岡本佐江は静かにそう言った。
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