完結『まず、キスから始めよう~キスを待つ頬骨② オトナの恋愛小説です

水ぎわ

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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編

第25話「いつかおれが、きみを手に入れるまで」

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(UnsplashのCan Şerefoğluが撮影)

 佐江は小さな手を清春の肩に乗せ、ぎゅっと力を入れた。清春は目を閉じて、その感覚を味わう。
 佐江の手には魔法がかかっているようで、清春は抱きしめられるだけでたまらなく感じる。
 この手に始終《しじゅう》抱きしめられたら、どんなに気持ちいいだろう。
 セックスだけでなく、朝の目覚めた時や、ふとした瞬間に佐江の小さな手が清春の身体を包んでいたら、どれほど気持ちが落ち着くだろう。

 だけど、それはかなわない夢だ。

 夜が明ける前に佐江は正気に戻り、シャツのボタンを閉じて真乃の部屋で惚れた女を待つ。そして清春は、夜が明ける前に父親の家を出ていく。

 だからこれは、はかないまでの夢。

 その証拠に、清春の身体は佐江にふれて昂《たか》ぶっているのに、まだコントロールが出来ている。清春自身がこれを現実だと思っていないからだ。
 ぐっと、佐江の身体が清春に近づく。気が付くときれいなアーモンド形をした佐江の瞳が、清春を見上げていた。

「……キヨさん」

 佐江の身体は熱を持ち、清春の指を濡らしていく。

「きよさん」

 清春は軽く佐江の身体に覆いかぶさり、その柔らかな耳たぶを噛んだ。

「いって、いいんだ、佐江ちゃん」

 佐江はかぶりを振り、唇をかみしめてささやいた。

「キヨさんも、一緒でなくちゃ、だめ」

 清春は微笑み、

「今日は、おれはいけないよ。これはリハーサルだからな」
「もうそんなこと、どうでもいいじゃないですか」
「どうでもよくない。どうでもいいと言うのなら、おれはもっと前にきみを好きなようにいたぶっているよ。
今日はきみのためのトレーニングで、リハーサルだ。
おれのためのものじゃない」


 こういいながら、清春の身体はまったく別のことを言っている。

 『この悦楽を、忘れるな、佐江。
きみの身体を最初にひらいた男は、他の誰でもない、おれだ。
おれの指とキスと体温を、きみの身体に刻み込んでおいてくれ』

「……キヨさんっ」

 佐江の身体は、清春の指でつつましやかに昇り詰めた。そして佐江の泣きそうな声と表情と息は、清春の中に眼がくらむほどの不発弾を埋め込んだ。
 奥歯を噛んで、抱いてもいない女が与える悦楽の予兆を堪えしのぐ。

 佐江。
 おれを、忘れるな。
 いつかおれが、きみを手に入れるまで――忘れるな。
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