完結『まず、キスから始めよう~キスを待つ頬骨② オトナの恋愛小説です

水ぎわ

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第2章「ここから登る、坂の途中」~真乃×洋輔 編

第36話「クズな男ほど魅力的」

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(UnsplashのStepan Kulykが撮影)


 渡部真乃《わたべまの》は軽く酔いが回るのを感じながら、目の前の美しい親友をじっと見た。大きな目が青みを帯びてくる。親友をひっかけてみようと思っているのだ。

「キヨちゃんなんて、くそ真面目なだけでつまんない男なのに。これがまた、あきれるほど女が寄ってくるのよね。
どう思う、佐江?」

 佐江はゆるやかに笑い、

「キヨさんには魅力があるのよ。女性関係は学生時代からすごかったじゃない」

 真乃はうなずいた。

「すごかった。あれはすごかったわね」
「イケメンで優等生、モテるわよね」
「ちがうのよ、佐江。あれは、キヨちゃんがろくでもない男だから女が寄ってくるの。クズな男ほど魅力的だって言うでしょ」
「ひどい言い方ね」
 
 佐江は笑ってたしなめた。しかし真乃は言い返す。

「あたしはね、ろくでもない男を見わける能力だけは、あるの。そりゃ身近にあんな男が二人もいれば、分かるってものよ」
「ふたり?」

 佐江は首をかしげて真乃を見た。
 真乃はため息をつきながら答えた。

「キヨちゃんと、キヨちゃんの親友の深沢洋輔」
「ふかざわ、ようすけ……」

 佐江はやや低い声で、その名前をゆっくりとつぶやいた。
 それから、まるで危険な兆候が出てきた病人を冷静に見る医師のように、真乃をじっと見た。

「ふかざわ、さん?」
「そう」

 真乃は6杯目の酒をオーダーしながら、いい加減に返事をした。

「これがまた、キヨちゃんよりひどい、ろくでなしの男よ」
「その人とどうやって知り合ったの?」

 佐江は、おだやかに尋ねた。
 真乃は酔いが回り、口が軽くなっている。その警戒心を失った口元を、佐江のさりげない質問がやすやすとこじ開けていく。

「知り合うも何も、そのひともコルヌイエで働いているの。キヨちゃんが誘ったんだって。キヨちゃんが大事にしている、たった一人の親友よ」
「キヨさんに近いひとね」
「何だか知らないけど、あのキヨちゃんがあのひとの言うことだけは聞くのよ。腹が立つったら」

 きらっと、一瞬だけ佐江の目が光った。

「どんな男?」
「めちゃめちゃ色気のある男よ。キヨちゃんもきれいな男だけど、あのひとは、その上を行く。きれいって言うより色気がすごい」
「いろけ……」
「そう言えば、初めて会ったときからすごい色っぽかった。あれは、あたしが16の時でしょ。ええと6年前か」
「真乃、その人を6年も前から知っているの?」
「キヨちゃんの子供時代からの親友だもん。ああ、思い出すと腹が立つ」

 ふっと、佐江の視線が真乃から離れた。真乃は顔を上げて親友の完璧なフェイスラインを見る。

「佐江、どうかした?」
「ううん」

 佐江は美しい二重まぶたの目を伏せて、笑った。

「その人とあたし、会うことがあるかしらね?」
「どうかなあ? あんた、キヨちゃんとはあんまり会わないから、深沢さんとも会ってないと思うよ。会いたいの?」

 ふだん男に興味を見せない佐江にしては、めずらしく執着を見せている。
 真乃は無意識のうちに、ネイルをした指を口元に持って行ってカリっと噛んだ。

 しかし佐江は、たった今言ったことなど忘れたような顔で次の酒をオーダーした。

「カミカゼをお願いします」

 佐江は見た目以上に酒が強い。男でもそう飲まないような強い酒を一気に飲み干していく。

「ちょっと、佐江、あんた飲みすぎじゃない?」

 真乃がそう言っても、佐江は頬骨の高い高雅な美貌ににじむような笑みを浮かべたきり、何も言わない。


 佐江には、時々こういう時がある。
 真乃には、絶対に見せてくれない部分がある。どんな質問も笑ったまま終わりにしてしまう。
 この手口、誰かに似ている、と思った真乃は、思わず叫んだ。

「そうよ、キヨちゃんと同じなんだわ! 似ているのね。ということはつまり……」
「真乃?」

 美貌の親友をみて、真乃はほがらかに笑った。
 昔から、似ている男女は付き合うとうまくいくというではないか。
 佐江が清春をコントロールしてくれたら、なにかと便利にきまっている……。



★★★
「……つまりさ、佐江はキヨちゃんに興味があるんだと思うんだけど」

 コルヌイエホテルのスタッフ用喫煙スペースで一緒に煙草を喫いながら、真乃は異母兄の井上清春にそう言った。
 清春は185センチの長身から妹を見下ろした。

「何を言っているんだ、おまえ?」
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