上 下
13 / 33
第3章「一発、ぶちかましにいくか!」

第13話「不運な事故」

しおりを挟む
(UnsplashのAndriyko Podilnykが撮影)

 スミレの嘘つきカレシ、石原さんは目を白黒させて答えた。

「いや、なんでも……ないけど……?」
「あ、この子たち? 俺の友だちで、名古屋を案内してくれるっていうからさ。これから観光なんだよ」
「そう……カンコーへ……」
「名古屋城とかな、あ、一緒に行くか? ついでにナンパとか?
 おっといけねえ、もうそういうのダメだよなー、ヨメがいるんだもんなあ」
「……そう、よめが……」

 するとスミレはじろりと男をにらんで、

「奥様がいるんじゃあ、ナンパなんてできないですよね」
「そ……そそそ……そです……ね」
「月に3回、女の家に来て、ご飯食べて、やることやって帰るっていうのが、せいぜいですよねー」
「あの……あのあのあの……」

 スミレはズイズイと男に近づき、顔を突き合わせて言った。

「あんた、最低! セフレ扱いも腹立つけど、嘘つかれていたっていうのが一番ムカつくわ!」

 そう言うとスミレは男の真っ白なスニーカーを踏みつけた。男が驚いて下を向いたタイミングで、顎へ見事な頭突きをかました。

「かはっ!?」
「あらっ、すみませーん。ぶつかるつもりじゃなかったんですけどお。
 やだ、あたし足を踏んでますね、ごめんなさああい」

 スミレは男の足からパンプスの足をどけた。
 しゃがみこんで、ぱたぱたとスニーカー上の足跡をはたく。
 男はあわてて一歩下がろうとしたけど、十分に距離を取る前にスミレが突然急に立ち上がった。

 また……頭突き。
 
 でも、今度は顎にぶちかます程度じゃすまなかった。だって、スミレの頭突きがねらった場所は……ああ、きのどく……。

「うぎゃあああああああ!!」

 男はひっくり返って悶絶した。山中さんがつぶやいた。

「うわ、こりゃとうぶん使いもんにならねえわ」
「あっらあああ。ごめんなさーい。またぶつかっちゃったみたい。大丈夫ですかあ?」

 スミレは股間を押さえてヒクヒクとけいれんしている男の横にしゃがんで、どすの利いた声で、

「女に『ごめん、結婚しているんだ』とも言わずに浮気するサイテー男のモノなんて、切り取って口に突っ込むくらいしてもいいんだけど。
 奥さんの顔を立てて、ここまでにするわ。
 二度と顔を見せるな……ウラーナー!」

 と言った。

 男は白眼になってうめいたまま。
 スミレはひらりと身をひるがえすと、あたしたちに向かってぺろりと舌を出した。

「なんかちょっと、不運な事故があったみたいね」
しおりを挟む

処理中です...