夫には言えない、俺と息子の危険な情事

あぐたまんづめ

文字の大きさ
10 / 20

9話「弱い大人」

しおりを挟む
「く、ぐい……おれ……もう我慢できないよぉ」
「――――っ、母さん!!!」


 鵠(くぐい)に両手首をつかまれ、ベッドの上にぬいとめられた。
 手首から伝わる風呂上りの熱。濡れた髪先からポタポタと落ちる水滴。上気した頬。
 どれもが俺の性欲を上昇させた。


「ひどいよ、僕は必死で耐えてたのにっ……! 前みたいに襲わないように母さんのこと避けて……それでも辛くて、我慢できなくて、ここでずっとオナニーして気を紛らわせてた。ねぇ、今までどおりでいようって言ったのは、母さんの方だよね?」
「……ごめん」


 息子を見上げると、抑えきれない本能を、わずかな理性で耐え忍んでいるようにみえた。
 ギリギリと歯を食いしばり、苦しそうに眉間に皺を寄せている。
 俺はただ謝るしかできなかった。


「お前は何も悪くない。だから、頼む。こんな惨めな母さんを抱いてくれ」
「――――っ!」


 俺の言葉が起爆剤になったのか、鵠が獣のように貪りついてきた。
 じんわりと熱い息子の体温を肌で感じながら、俺は身をゆだねた。


「ンンッ……んむっ」


 何度も繰り返されるディープキス。
 互いの唾液で口内はベチャベチャ。もはや喰われているんじゃないかって思える。
 突然口を離したかと思うと、ズルン、とズボンと下着をはぎ取られる。
 鵠が俺の尻の孔を凝視し――――――


「っひゃ……ああっ!」


 生温かい、濡れた物体が孔に侵入した。
 それはすぼまった入口を少しづつ押し広げ、俺の秘部を開拓していく。

 その正体は息子の『舌』だった。


「ンン、や、めて……汚い、だろぉ……」


 抗議はするが抵抗はしない。これは同意の上のセックスだから。鵠もそれを分かっているからやめなかった。
 クチュクチュと卑猥な水音を発しながら、とろけきった後孔は、まるで事後だ。


「――――――ここ、パクパク収縮してる。僕のを欲しがってるみたいだね。もう、挿れるね」
「んっ……んあ……あ、あ―――――」


 何回かも忘れてしまった、ここに息子を受け入れるのは。
 稲妻のような脳天を揺さぶる衝撃、全身からアドレナリンを出す感覚。
 鵠でしか味わえない、快楽だ。

 隣の部屋からはシャワーの音が聞こえる。夫の鷲がいる。
 まさかパートナーが、息子の部屋で、息子とセックスしているなんて、夢にも思わないだろう。

 ――――俺は何て汚くて卑しいんだ。


「っ、ふ――――ううぅっ!!!」


 突かれる度に声を発しそうになって、自分の手首をグッと噛んだ。
 それを見た鵠は嫌そうに眉をひそめた。


「母さん、傷になっちゃうから、やめて」
「っでも……こうでもしねぇと、鷲にバレる」
「いいじゃん、バレても。もういっそのこと全部さらしちゃおうよ、父さんに」


 鵠が間髪入れずに言ったので、俺は驚いて目を見開いた。


「本気で言ってんのか? そんなことしたら、今までみたいな日常は送れない。幸せな家族に戻れないんだぞ!?」
「じゃあ質問するけど、母さんは今幸せ?」
「え――――――」
「父さんに隠し事をして、後ろめたい気持ちを抱えながら息子とセックスして、次の日にはいつも通りの母親を演じる。それが母さんの望む幸せなの?」


 それ以上答えられず、俺は真剣な眼差しで、言葉で、訴える息子から目を逸らした。


「今までどおりの家族でいられないことは分かっている。だから、父さんに認めてもらえるよう努力するよ。愛の形は違うけど、父さんのことは大好きだし尊敬してる。今は納得してもらえなくても、僕たちには強い絆がある。少しずつ、これから新しい家族の形を築いていこうよ」


 「ねぇ、母さん」と訴える表情は、若者らしい根拠のない自信に満ちあふれていた。
 鵠の言う通りだ。このままこの関係を隠していけるはずがない。だからといって誰かがこの家族の輪から抜けるなんてありえない。俺たちにとって鷲はなくてはならない存在だし、鷲も同じ気持ちだと思う。

 でも―――――――今、カミングアウトすれば、確実に鷲は壊れる。あのトラウマを甦らせてしまう。

 鵠の頭を撫でながら、振り絞るように言った。
 期待に満ちた息子の顔が次の言葉でみるみる色を失っていった。


「ごめんな、鵠。お前が思っているより、俺も鷲も弱いんだ」


 ああ、カッコ悪いったらありゃしない。息子にこんな悲しい顔させるなんて。
 ――――その後は、自分で扱きながら早めに射精した。もちろん、声を抑えるためにベッドのシーツを口に咥えて。
 そしてシャワーから出た後の鷲に、いつも通りの妻の顔を向ける。何事もなかったかのように。



 鵠は……あれからさらに俺を避けるようになった。
 思いつめたような顔だから心配にはなった。だけど時が解決してくれるのを待つしかない。
 もう少し、あと少し。
 鷲の担当しているΩの事件が一段落すれば、三人でちゃんと話し合う。その時に俺たちの抱えるトラウマを鵠に話す。
 もう少し、あと少し。


――――そして、そのタイミングは最悪な形で、訪れる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

処理中です...