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8話「息子の部屋で……」

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 珍しく夫の鷲が夕方に帰宅したので、3人そろって夕食をとった。
 食べ慣れた俺の飯を何度も美味しいと言って、食べる夫。あのセックスが未遂に終わっても、それを引きずることはしてない様子だった。こういうところが、色んな人に好かれる要因なんだろう。
 息子の鵠はというと……明らかに避けられている。学校から帰ればすぐ自室にこもるし、目が合いそうになればわざと逸らしてくる。


「喧嘩してんのかぁ?」
「なんで? 誰と?」
「とぼけんなよ。くーちゃんと、だよ。なーんかさぁ、よそよそしいんだよねぇ。5年前に戻ったかんじ」


 リビングのソファで晩酌をしていた夫の不意打ちな言葉。
 否。鵠が夕食を終えて足早に風呂に入ったタイミングだから、こいつは間違いなく確信犯だ。


「別に喧嘩なんてしてねぇよ。俺も鵠ももともと口下手なの。お前がよく分かってるだろ」
「まぁどっちにせよ、二人とも仲良くしてくれないと悲しいわぁ、家族なんだからさ」


 俺と鵠はわりと共通しているところが多い。鵠は俺と違って人気者だが、根は大人数でワイワイやるのが苦手で、どちらかというと一人が気楽なタイプ。
 だから自然と読書が好きだし、本の趣味も合う。(たまに本の話題に盛り上がっている俺たちに、鷲が仲間に入れなくてふてくされる時があるが)
 三角家の関係を一言で言うなら、コミュ力オバケの鷲が口下手な俺と鵠の手を繋いでくれている感じだ。


「くーちゃんはもう15歳だ。いつ発情期がきてもおかしくない。俺と琴で支えてやらないと」


 カウンター越しに見える酒で赤くなった夫の横顔が、ひどく寂しそうだった。
 息子がαと知ってしまった俺はどう返したらいいか分からなくて、ただ黙っていた。
 すると鷲は流れる重い沈黙をかき消すように持っていたビールを一気飲みした。


「琴の石頭っ! いいよ、俺だけでくーちゃんとイチャイチャしちゃうもんね!」


 何の脈絡もなく叫んだと思ったら、フラフラした足取りで鵠のいる風呂場へと直行した。
 せめて後片付けくらいしろやと叫ぶ俺の声ももう酔っ払いには届いていないらしい。
 そんなに酒強くないくせにこんなに飲みやがって……と呆れてため息が出た。
 渋々リビングに散らかった缶ビールやスナックの片づけをしていると、甲高い悲鳴が轟いた。
 夫の嬉しそうな声と息子の心底嫌がっている声が騒音となってリビングまでだだ漏れだった。
 息子よ憐れ。以前は3人で風呂に入ったりもしたが、鵠ももうお年頃だ。アラサーのおっさんと裸の付き合いをするほどお人好しではないということだ。
 そろそろ黙らせないと、お隣さんからクレームきそうだなぁと考えていた時、ハッと思い出した。

 鵠の寝間着とパンツ、風呂場に置いておくの忘れてた。

 今日はあいにくの雨だったから、ギリギリまで乾かなかったのだ。
 俺は慌ててそれらを持って、まだ揉め合っている風呂場へと向かった。
 風呂場は鵠の部屋の真向かいにある。
 いつもはピッタリと閉じられたあの子の部屋が半開きになっていることに気づいた。
 そこから漂う雄の匂いに、思考が停止する。


――――なんか、すげぇいい匂い。ヤバい、ムラムラしてきた。


 俺は目的を忘れ、息子の部屋に入った。
 薄暗い部屋の中は濃い雄の匂いが充満していた。
 鵠のαのフェロモンが以前より強くなっているとすぐに理解する。
 この匂いを嗅いでいると、自分が支配される側なのだと嫌でも思いしらされる。その証拠に触っていないのに股間がジクジクと疼いて、下半身が下着越しに濡れていくのを感じた。


くそ、くそ、くそ、イきたい、イきたい、この穴に突っ込まれたい……!


 気づけば息子のベッドに頭を埋め、後ろの穴に指を突っ込んでいた。
 穴の中は慣らしてもいないのにグチュグチュと卑猥な音を発している。
 俺はどうしようもできない体の疼きを鎮めるため、後ろは自分の手で、前は息子の寝間着を使って扱いた。
 一心不乱だったから気づかなかった。鵠が部屋に入ってきたことも。


「――――母さん、僕の部屋で何してるの?」


 水に濡れた裸体の鵠が俺を見下ろす。あんなに華奢だった体がすっかり俺より逞しくなっていて、自分より一回り大きい性器にゴクリと喉を鳴らした。


「おねがい、たすけてぇ…………」


 恥も外聞も捨てて、目の前の息子に精一杯懇願した。
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