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心臓が苦しくて、横っ腹が痛い。
人生で初めての全力疾走は、運動音痴の凛にとって、まさに『死にものぐるい』だ。
体育の授業や運動会なんて比にならない速さで、足が高速回転している。
海から流れてくる潮風を真横に浴びながら、海翔の背中を探して走った。
潮と汗と涙で、きっと顔はぐちゃぐちゃだ。
それでも、足は止まらない。
一度だけ聞いたことのある海翔の家までの道順を、記憶から引っ張り出してひたすら足を動かす。
たしか、このガソリンスタンド……曲がって、公園が見えたら……すぐそばの──
短い息を繰り返し吐き出していると、見間違うことのない背中が、公園の手前を歩いているのを見つけた。
足の裏に力を込め、凛はアスファルトを思いっきり蹴る。
もう、心臓が裂けて破裂してもいい。
今、あの後ろ姿を引き止めないと、一生後悔する。
点滅信号に引っかかり、足踏みしながら左右を確認する。
まるで短距離選手のように、無意識に体が前傾した。
後ろ姿へ近づくごとに、凛の鼓動が大きな音を生み出す。
そして、輪郭を至近距離に捉えた瞬間、凛は足を止めて息を吸った。
「一ノ瀬、くんっ!」
絞り出した声は、夜の静けさに乗って一直線に、海翔まで飛んでいった。
公園の入口に差しかかった背中が、ピタリと止まる。
そして──ゆっくりと、海翔が振り返った。
「佐伯……?」
名前を呼びながら近づく海翔の顔が、公園の外灯で浮かび上がった。
信じられないものを見たような眼差しで、凛を見つめてくる。
「い……ちのせ……くん。お、れ……話が……あって」
荒い息で、言葉が途切れ途切れになる。
それでも、どれだけ不格好でも、情けない姿でも、この気持ちを伝えなきゃ。
よろよろと歩み寄る途中、段差もないのに躓きそうになって、転ける寸前で踏ん張った。
「どうしたんだ……その、まる……は」
「海岸……で、別れた……よ」
ようやく海翔の前まで来ると、一気に疲労が押し寄せ、横隔膜が萎縮して腹が痛くなった。
前屈みになって痛みを庇っていると、海翔が抱えるように肩を抱き寄せてきた。
「どんだけ必死で走って来たんだよ」
言葉は冷たいのに、声は温かい。
その声音に、少しの安心と不安が生まれる。
そのまま公園まで連れていかれ、ベンチに座らせてもらうと背中を撫でてくれた。
ようやく息がまともに吸えるようになると、目の前に海翔が屈んでいることに気付く。
「ぷはっ。お前、髪も顔もぐちゃぐちゃになってるぞ」
笑いながら、長い指が優しく髪を整えてくれる。
汗で濡れた頬に触れようとしたから、恥ずかしくて咄嗟に下を向いた。
すると、凛の頭の上に海翔のため息が落ちてくる。
「……心配しなくても、まるとのことは誰にも言わないから」
李仁……とのこと──?
頭の中が真っ白になる。
まさか、俺が李仁に告られたことを口止めしに来たとでも思ってる?
違う! それは違う、誤解だ!
「そ、そんなこと言いに来たんじゃないっ!」
思わず声が大きくなった。
驚いたように目を見開いた海翔が、凛を見つめている。
「……佐伯? お前、どうし──」
「お、俺が言いたいのは……」
喉が渇いて、声が震える。
でも、ちゃんと伝えなきゃ。
子どもの頃、一緒に過ごしたあの夏の一週間。
あのときから変わらず、想い続けてきた気持ちを。
あの夏から、俺は……カイトだけを……。
「い、いちのせくん……俺、一ノ瀬くんが──」
一度だけ深呼吸をして、目を逸らさずに叫んだ。
「好き……好きなんだっ」
真っ直ぐ海翔の目を見て言った。
見た目も、告白の言葉も、情けなかったかもしれない。
それでも、想いだけは込めた。
今の凛に、もう迷いはない。
海翔の瞳が瞬きもせず、まっすぐ凛を射抜いてくる。
人生で初めての全力疾走は、運動音痴の凛にとって、まさに『死にものぐるい』だ。
体育の授業や運動会なんて比にならない速さで、足が高速回転している。
海から流れてくる潮風を真横に浴びながら、海翔の背中を探して走った。
潮と汗と涙で、きっと顔はぐちゃぐちゃだ。
それでも、足は止まらない。
一度だけ聞いたことのある海翔の家までの道順を、記憶から引っ張り出してひたすら足を動かす。
たしか、このガソリンスタンド……曲がって、公園が見えたら……すぐそばの──
短い息を繰り返し吐き出していると、見間違うことのない背中が、公園の手前を歩いているのを見つけた。
足の裏に力を込め、凛はアスファルトを思いっきり蹴る。
もう、心臓が裂けて破裂してもいい。
今、あの後ろ姿を引き止めないと、一生後悔する。
点滅信号に引っかかり、足踏みしながら左右を確認する。
まるで短距離選手のように、無意識に体が前傾した。
後ろ姿へ近づくごとに、凛の鼓動が大きな音を生み出す。
そして、輪郭を至近距離に捉えた瞬間、凛は足を止めて息を吸った。
「一ノ瀬、くんっ!」
絞り出した声は、夜の静けさに乗って一直線に、海翔まで飛んでいった。
公園の入口に差しかかった背中が、ピタリと止まる。
そして──ゆっくりと、海翔が振り返った。
「佐伯……?」
名前を呼びながら近づく海翔の顔が、公園の外灯で浮かび上がった。
信じられないものを見たような眼差しで、凛を見つめてくる。
「い……ちのせ……くん。お、れ……話が……あって」
荒い息で、言葉が途切れ途切れになる。
それでも、どれだけ不格好でも、情けない姿でも、この気持ちを伝えなきゃ。
よろよろと歩み寄る途中、段差もないのに躓きそうになって、転ける寸前で踏ん張った。
「どうしたんだ……その、まる……は」
「海岸……で、別れた……よ」
ようやく海翔の前まで来ると、一気に疲労が押し寄せ、横隔膜が萎縮して腹が痛くなった。
前屈みになって痛みを庇っていると、海翔が抱えるように肩を抱き寄せてきた。
「どんだけ必死で走って来たんだよ」
言葉は冷たいのに、声は温かい。
その声音に、少しの安心と不安が生まれる。
そのまま公園まで連れていかれ、ベンチに座らせてもらうと背中を撫でてくれた。
ようやく息がまともに吸えるようになると、目の前に海翔が屈んでいることに気付く。
「ぷはっ。お前、髪も顔もぐちゃぐちゃになってるぞ」
笑いながら、長い指が優しく髪を整えてくれる。
汗で濡れた頬に触れようとしたから、恥ずかしくて咄嗟に下を向いた。
すると、凛の頭の上に海翔のため息が落ちてくる。
「……心配しなくても、まるとのことは誰にも言わないから」
李仁……とのこと──?
頭の中が真っ白になる。
まさか、俺が李仁に告られたことを口止めしに来たとでも思ってる?
違う! それは違う、誤解だ!
「そ、そんなこと言いに来たんじゃないっ!」
思わず声が大きくなった。
驚いたように目を見開いた海翔が、凛を見つめている。
「……佐伯? お前、どうし──」
「お、俺が言いたいのは……」
喉が渇いて、声が震える。
でも、ちゃんと伝えなきゃ。
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あの夏から、俺は……カイトだけを……。
「い、いちのせくん……俺、一ノ瀬くんが──」
一度だけ深呼吸をして、目を逸らさずに叫んだ。
「好き……好きなんだっ」
真っ直ぐ海翔の目を見て言った。
見た目も、告白の言葉も、情けなかったかもしれない。
それでも、想いだけは込めた。
今の凛に、もう迷いはない。
海翔の瞳が瞬きもせず、まっすぐ凛を射抜いてくる。
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