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こちらは『異世界行き課』です。
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何故なのか……
職場の窓から外を眺め、自身の境遇に思いを馳せる。
――いい天気
ややまったりしていると電話が鳴った。
――おや……。
『はい。こちらは異世界行き課です。ご用件をどうぞ』
電話先は騒がしい。これはよくあるパターンだなと、電話機の転送ボタンへ指を伸ばす。
『あ! 今! あのー、目の前で車がぶつかってー! 多分異世界行きだと思うんですよーー!』
電話先の男性は若干興奮気味のようだ。だが――
チラリと課長席に鎮座している美人へと目を向けるも、美人はこちらに見向きもせず、新しく施したネイルの出来栄えに見惚れている。
『落ち着いて聞いてください』
一呼吸おき、続ける。
『そちら普通の交通事故になりますので、これから救急へと取次ぎいたします』
ポンと転送ボタンを押し受話器を戻す。
発足当時よりはだいぶ減ったが、今だに勘違いでの電話はある。
逆もまた然り……。
事故か異世界行きかで、当初救急への通報はかなり混迷を極めた様だが、今は双方小慣れたものだ。
そして本日『異世界行き』の予定は無い。
『異世界行き』は、この課の課長として君臨している女神様が決めている。
もしかしたら自分が把握していない『異世界行き』が……と、チラリと頭をよぎったので女神様に目を向けたが、素振りからまったくそんな予定がない事を確信した。
日が入り、ネイルの石がキラキラとしている様をうっとりと眺めている女神様。
――何故なのか……
こちらの視線に気付き、婚約指輪を見せるかの様に指先を向けてくる。
「どぉ♪」
「ああ、素敵ですよ」
いつものように気のない返事を返す。
「ん、もぉ。つまんないんだからー」
女神様の希望に添えない応答ではあるが、解答としては最適解ではないだろうか……。
いつもよりまったり目な日はついつい思ってしまう。
――何故、自分がこの課に配属となったのか。
いつかは聞いてみようと思いつつも、何だかよくわからない怖さも感じている。
誰にも気付かれぬくらいの力でふぅと一息付き、事務仕事を再開する。
――さて、今日も定時で上がれそうだ。
「ねね、眼鏡ちゃん!」
何やらプリントした用紙を持ち、ヒールをカツカツ鳴らしながらこちらにやって来る女神様。
「どっちがいいかな! 今度の合コン!」
二枚の用紙にはモデルさんが印刷されている。ん?となったが思い至る。
「ああ、どちらの衣装もお似合いになりますよ」
「ん、ん、ん~♪ それはそう! だ・け・ど!!」
――これはどちらかを示さねば解放されなそうだ。
「そうしましたらネイルに合わせて、こちらの水色がよろしいのでは」
「! な・る・ほ・ど~! 眼鏡ちゃんっ、やるじゃな~~い♪」
「いえいえ」
適当である。自分は合わせなど分かりはしない。だが理由を示すのは最適解であろう。
さてソロソロといったところで終業のチャイムが鳴る。
「それでは」
と、席を立ったところで女神様がそうそうと話しかけてくる。
何故上司という生き物は終業後に仕事の話をしてくるのか。
「ソロソロあの子、異世界へ送ろうかなって♪」
「承知いたしました。詳しくはまた明日。それではお先に失礼いたします」
《あの子》が誰の事かは明確ではないが、ここで聞き返すと長くなる為、退出へと全力を出す。
「ハイハイ。おつかれちゃ~ん♪ 明日よろしくね♪」
女神様も特に気にする事なくさよならの挨拶を交わす。
――普通の交通事故って……????
帰り道、昼間発した自分の言葉に今更ながら不思議さを見出し、変な世になったなーと空を仰ぎ見た。
――明日もいい天気っぽいですね。
明日の忙しさを思い、ふうぅと息をつくのであった。
職場の窓から外を眺め、自身の境遇に思いを馳せる。
――いい天気
ややまったりしていると電話が鳴った。
――おや……。
『はい。こちらは異世界行き課です。ご用件をどうぞ』
電話先は騒がしい。これはよくあるパターンだなと、電話機の転送ボタンへ指を伸ばす。
『あ! 今! あのー、目の前で車がぶつかってー! 多分異世界行きだと思うんですよーー!』
電話先の男性は若干興奮気味のようだ。だが――
チラリと課長席に鎮座している美人へと目を向けるも、美人はこちらに見向きもせず、新しく施したネイルの出来栄えに見惚れている。
『落ち着いて聞いてください』
一呼吸おき、続ける。
『そちら普通の交通事故になりますので、これから救急へと取次ぎいたします』
ポンと転送ボタンを押し受話器を戻す。
発足当時よりはだいぶ減ったが、今だに勘違いでの電話はある。
逆もまた然り……。
事故か異世界行きかで、当初救急への通報はかなり混迷を極めた様だが、今は双方小慣れたものだ。
そして本日『異世界行き』の予定は無い。
『異世界行き』は、この課の課長として君臨している女神様が決めている。
もしかしたら自分が把握していない『異世界行き』が……と、チラリと頭をよぎったので女神様に目を向けたが、素振りからまったくそんな予定がない事を確信した。
日が入り、ネイルの石がキラキラとしている様をうっとりと眺めている女神様。
――何故なのか……
こちらの視線に気付き、婚約指輪を見せるかの様に指先を向けてくる。
「どぉ♪」
「ああ、素敵ですよ」
いつものように気のない返事を返す。
「ん、もぉ。つまんないんだからー」
女神様の希望に添えない応答ではあるが、解答としては最適解ではないだろうか……。
いつもよりまったり目な日はついつい思ってしまう。
――何故、自分がこの課に配属となったのか。
いつかは聞いてみようと思いつつも、何だかよくわからない怖さも感じている。
誰にも気付かれぬくらいの力でふぅと一息付き、事務仕事を再開する。
――さて、今日も定時で上がれそうだ。
「ねね、眼鏡ちゃん!」
何やらプリントした用紙を持ち、ヒールをカツカツ鳴らしながらこちらにやって来る女神様。
「どっちがいいかな! 今度の合コン!」
二枚の用紙にはモデルさんが印刷されている。ん?となったが思い至る。
「ああ、どちらの衣装もお似合いになりますよ」
「ん、ん、ん~♪ それはそう! だ・け・ど!!」
――これはどちらかを示さねば解放されなそうだ。
「そうしましたらネイルに合わせて、こちらの水色がよろしいのでは」
「! な・る・ほ・ど~! 眼鏡ちゃんっ、やるじゃな~~い♪」
「いえいえ」
適当である。自分は合わせなど分かりはしない。だが理由を示すのは最適解であろう。
さてソロソロといったところで終業のチャイムが鳴る。
「それでは」
と、席を立ったところで女神様がそうそうと話しかけてくる。
何故上司という生き物は終業後に仕事の話をしてくるのか。
「ソロソロあの子、異世界へ送ろうかなって♪」
「承知いたしました。詳しくはまた明日。それではお先に失礼いたします」
《あの子》が誰の事かは明確ではないが、ここで聞き返すと長くなる為、退出へと全力を出す。
「ハイハイ。おつかれちゃ~ん♪ 明日よろしくね♪」
女神様も特に気にする事なくさよならの挨拶を交わす。
――普通の交通事故って……????
帰り道、昼間発した自分の言葉に今更ながら不思議さを見出し、変な世になったなーと空を仰ぎ見た。
――明日もいい天気っぽいですね。
明日の忙しさを思い、ふうぅと息をつくのであった。
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