はい、こちらは『異世界行き課』です。ご用件をどうぞ。

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ええ、こちらは『異世界行き課』です。

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 始業のチャイムと同時に登場する強めの美人。
「おっはようございまーす!」
 毎朝元気に明るい声で出社してくる女神様。カツカツとヒールの音が響く。
 女神のママの姿だと悪目立ちするとの事で、日本人に扮しているが美人である事に変わりはない。

「おはようございます」
 チラリと目を向け挨拶を返す。

「ン~~。眼鏡ちゃんはいつも通りね~」
「はぁ」
 気のない返事を返すが『どう!?』と言わんばかりに髪をかきあげこちらを見てくる。

「今日も変わらずお綺麗ですよ」
 適当に返す。

「ん、ん、ん~♪  それはそう! だ・け・ど!! どお♪ 少し髪の色を明るくしたの~!」
「ああ、お似合いですよ」
「ん、もぉ~~。つまんない人ねッ」
「はぁ」

 毎度飽きもせず、ああしてみた、こうしてみたと。この女神様は、大層俗世を堪能しておられる様で、合コンへもしょっちゅう参加している。

 女神様はドカリと『課長席』へと座る。
 そう。このお方、この『異世界行き課イセカイユキカ』の課長なのである。

「さて、早速だけど昨日の件」
「はい、異世界送りですね」
「そそ。名前は『蕪木萌香ちゃん』」
 眼鏡はパソコンに名前を打ち込み情報を出す。

「この子はね~。ちょーっと面白いのよ~♪」
 ウフフと笑って見せる女神様。

「準備よろしくね♪ あっと、来週末にタナカちゃん送る事になるから。当日は残業になるかもねー」
「承知いたしました」

蕪木萌香かぶらきもえか』眼鏡は資料にサクッと目を通し、次の『異世界行き』送りとして準備を始める。

 ――それと、まずは「田中一郎タナカイチロウ」さんっと。
 田中一郎氏の最終確認を始める。身寄り無し。不動産も無し。車も無し。借金も無し。大きな趣味も無し。アパートに一人暮らし。アパート一室分なので荷物もそんなに多くはないと見た。ナイナイづくしである。後処理も滞りなく進むであろう。
 仕事関連は、まぁこちらの管轄ではないので問題ないといいですね。といった具合だ。

「異世界行きが決まっているのなら先に教えてくれ!」という苦情が発生する事は明白なので、選定作業は秘密裏に運ばれている。なのでこの街の住人たちはある日突然『異世界行き』という憂き目に合うのだ。

 ただし、条件に合う者だけだが――

『田中一郎』の後処理に向け手筈を整える。後は異世界行き後に連絡・実行へと移すのみだ。

「さて、お次はと――」
『蕪木萌香』さん。この子は覚えている。少し前に自分が異世界行き対象者としてピックアップした子だ。
 だがこうも早く異世界送りになるとは想像していなかった。

 ――身寄り無し。不動産はあり。戸建て、と……。
 この場合は処理に時間がかかる。
 家は売却となるが買い手が付かねばまずは更地とする。といった手続きなどが発生するのである。
 賃貸の方が手間がかからない。空っぽにすればいいだけなので。

 18歳……
 まだまだ明るい未来がありそうだが……
 人生イロイロだ……

「よし」と気合を入れ仕事を進める。

 件の女神様は宙に浮かんでいる鏡のような物を見て、うふふふと楽しそうにしている。

 世の中を見通せる鏡だという事です。神器という物なのでしょうか。
 日々人智を超えている様を目の当たりにし、神っているのだなーと。薄らぼんやりと思うのでした。


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