はい、こちらは『異世界行き課』です。ご用件をどうぞ。

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さて、こちらは『異世界行き課』です。

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「ね、ね♪ 眼鏡ちゃん♪」
 浮き浮きと話しかけて来る女神様。

 ――ああ。きっとまた『掛け声』に関してでしょう。
「はい」と返事を返す眼鏡。

 最近の女神様は変わった掛け声作りにハマっているようで、時折意見を求められる。

「こうね。ワープする掛け声で、いいのないかしら~」
「ワープ……。 ルー……」
 思わず口走りそうになったが、あくまで女神様はオモシロオカシクをご所望だ。

「こう~、更にカッコ悪い感じがイイのよね~~。ダサいってやつね♪」
「カッコ悪く、ダサい……。ああ、そうしましたら『死語』っぽいのが良さげですね」
「『死語』?」
 何かしらと女神様はキョトンとし、宙に指先で円を描き鏡のようなモノを顕現させる。

「ふ~~ン。なるほど~~。いいじゃない、いいじゃな~~い♪ うふふ♪ 『ドロンします』ですって♪」
 その鏡には検索機能も付いているそうで、楽しげに閲覧している。

「『死語』…… 『オノマトペ』…… 『ドロン』ねぇ……」
 画面を見ながら呟く女神様。
「ン、ん~~。ワープというよりも、逃げ帰るって感じがイイかしら~」

「逃げ帰る……。『オノマトペ』……。『死語』……。『ドロン』……。 ……スタコラサッサ」
 眼鏡もつられて呟き、閃く。
「ああ、『スタコラサッサ』はいかがでしょうか」

「『スタコラサッサ』! イイわね♪ イイわね♪」
 目を輝かせる女神様。

「『スタコラサッサホイサッサ』」
 やや調子づく眼鏡。

「!! やっだ~~♪ いいじゃない、いいじゃな~~い♪ 『スタコラサッサホイサッサ』!これで確定ね!!」
 ふふふ~んと画面に指先をクルクルとあてる女神様を眺めながら、今日は終了かなと、通常業務を再開する眼鏡。

 ――女神様のお考えなどわかりはしませんが、楽しそうなら何よりです。

 そんなこんなで毎日を過ごし、さて、いよいよ明日が蕪木萌香かぶらきもえかの異世界送りとなった日、意を決した眼鏡は女神様へ向かう。ダメ元だが構いはしない。

「蕪木萌香さんの代わりに、私を異世界へ送ってください」

 目をまん丸にし眼鏡を見つめる女神様。
「あら~…… あらあらあらあら~」

「私も『異世界行き』候補者です。萌香さんの代わりに私を送ってください!」
 女神様を真っ直ぐに見つめ、強く発言する眼鏡。

「……。そうね。あなたも『異世界行き』候補者だわね。でも、代わる事は出来ないわ」
 いつもと違い、真摯に応える女神様。

 茶化される事を想定していたので、あーだこーだと言葉を用意していたが、真摯な女神様の対応に、願いは叶わない事を理解する。

 暫しの沈黙の後、眼鏡は頭を下げ非礼を詫びる。
「大変失礼いたしました。お時間いただきありがとうございます」

 席へと戻り業務を再開する眼鏡を見つめる女神様。
「切ないわね~」
 眼鏡に聞かれない音量で呟く。

 ――代われれば、どんなに良かった事か……
 遂に明日、お別れを迎えてしまう。
 ――今夜会おうか……。会ってどんな顔をすれば良いのか……。会いたいのに、苦しい……。
 萌香に連絡をしようかと逡巡する。決心付かぬママ終業の時間を迎えた。

「じゃ、明日は萌香ちゃんで、ヨロピクね~♪」
「はい。失礼いたします」
 心ここにあらずといった様子で、フラリと職場を後にする眼鏡。

 ――本当に何もしてあげる事が出来なかった……。せめて一目会いたいが……。どんな顔で会えば……。いえ、どんな顔を見せてしまうか……。こちらの表情で『異世界行き』を察知してしまうのではないか……。別れの日は知っていたのに、ただただ萌香さんと会う事を楽しむだけで……。

 自身の愚かさを痛感し、険しい表情になる眼鏡。役所の玄関を出たところで強い衝撃を受ける。
 ――なっ!?

 正面からガバッと首に腕を回され抱きつかれる。
「も、萌香さん!?」
 萌香は腕をほどきながらニコリと笑う。
「エヘヘ。来ちゃった」

 突然の事態に言葉を失う眼鏡。

「会えて良かった! もしかしたら前日は会っちゃいけないとか言われるかもと思って、突撃する事にしちゃった」
「そ、そんな事は……っ」
「どうしようかなとも思ったんだけど、やっぱ来て良かった!」

 萌香は眼鏡の両手を両の手で握りしめる。
「眼鏡さん。アタシは大丈夫だから! 心配しないで!」
「……っ」
「それだけ!」

 パッと眼鏡から離れる萌香。
「それじゃ。また明日!」

 照れ臭そうな笑顔を見せて、駆け足でその場を立ち去っていく。
 ハッと我に返り、慌てて後ろ姿に向け大きな声を掛ける眼鏡。
「も、萌香さん! また明日!」

 その声に萌香は振り返り、手を大きく振って見せた。

 ――……。
 ぎゅっと目を閉じ、そして空を見上げる眼鏡。
 ――泣くな、、、泣くな、、、っ 泣くな!!
 萌香の心遣いに涙が溢れそうになるのを必死に堪える。


 そんな様を女神様はデスクから鏡で覗いていた。
「…‥ほ~んと。おばかちゃん♪ なんだから~……」
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