シブシブ異世界!!

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始まり始まり

異世界行きだし!!

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 ――どんなに頑張ろうと、この子は異世界行きは免れない。その事実をぶち撒ける事も自分には出来ない……。
 ファミレスで、事実を打ち明ける事が出来ない不甲斐無さに、ただただ頭を下げる『異世界行き課イセカイユキカ』職員の眼鏡。そんな姿に恐縮してしまう萌香。

「あ、あ、そうだ!」
 萌香か勢いよく頭を下げる。
「止めてくれてありがとうございます!!」
 照れ笑いを浮かべながらお礼を述べる。
「ちゃんと言えてなかったなって!」

 えへへと可愛い笑顔を向けてくる萌香に眼鏡の顔も緩む。
「いえ、いいえ――」

「あーっと。ホッとしたらお腹減ってきました! ゴチになります!」
 押っス。と、手をクロスさせて見せる。

「――ええ。ええ。 食べましょう。食べましょう」
 こちらに気を遣ってくれているのであろう。優しい子だなと眼鏡はしみじみ思う。

 あれやこれやと注文し、なんやかんやと話し込む。
 表情豊かに一生懸命お話してくれる萌香に愛おしさを感じる。
 ――これが末っ子力か……

 連絡先を交換し、何かまた決断する時は必ず連絡するように伝える。暴走していないかを確認する為でもある。
 それ以外でも何かあればと。また別れ際に「無茶はせず、自分の為に毎日を楽しんで」と伝える。


 話せて嬉しかったと、いい笑顔で応える萌香。
 じゃあと別れ、後ろ姿を見送る。途中こちらを振り返り、手を振ってくる。
 ――なんとも愛くるしい…… 妹とはこんな感じなのか……。

 伝えたいのに伝えられないもどかしさ――。
 ただただ萌香の未来が幸多からん事を、眼鏡は願うのであった。


 一方萌香は小走りで家路へと向かう。
 ――いい人! 理想のお姉ちゃん像! ……経費でって言ってたけど、領収書貰ってなかったし、……多分自腹なんだろなぁ。今度何かお礼したいな!
 優しさに触れ、ご機嫌である。

 ――また明日からガンバロ!
 決意を新たに、また励むのである。

 その後も何度か眼鏡と夕食を共にし、穏やかな時間を共有する。
 ――――そしてまた運命の日がやって来る。


 その日、萌香は「うっし!」と気合いを入れて起きる。そしてふとした疑問が。
 ――女神はどう来るのだろう…… 家に来るのかな? それとも……?
 なんとなしに今日はずっと家にいとくかと思っていたのが、
 日暮れになってから「そうだ。コンビニ行こ」と、フラリと家を出た。

 コンビニへ向かう途中「ハテ……? 特に買うものは無いんだけど……」と、自分の行動に疑問が生まれる。

 刹那――
 どこからともなく、トラックが自分目掛けて突っ込んできた。

 ――な!?

 眼前に迫ったライトの光で目が眩み、ギュッと目を瞑る。
 トラックに突っ込まれる事への恐怖で身体が硬直したが、特に何事も起こらず…… 恐る恐ると目を開けると、そこはまた真っ白な空間であった。

 ――あー……。
 力がどっと抜ける。

「ぱんぱかぱーん!」
 能天気な明るい声が響いた。
「おめでとうございますー! 異世界行きでーす!」

 声の方を見やると女神様と異世界行き課イセカイユキカの職員、眼鏡さんがいた。
 萌香は力なく女神を見やる。

「お久しぶりね~~♪ 萌香ちゃん♪ 元気にしてて何よりだわ♪ ま、眼鏡ちゃんとは逢瀬を重ねていたみたいで~、やけちゃうわ~~」
 うふふと女神。その後ろで眼鏡がやや憂いた表情を滲ませている。
「萌香さん……」

「あー……」
 ――女神は「異世界行き」と言っていた……。 そうか…… そうか……
 異世界行きを免れない事を悟る萌香。両の手で頬をパシっと叩く。

「うっし!! 覚悟は出来てます。一年間いただきありがとうございます!」
 頭を深く下げる萌香。

「あら~。あらあらあら~。 な~に~。潔い良いじゃな~い♪ もっと駄々こねるかと思ったわ♪」

 萌香自身もそう思っていたが、この一年でかなりたくましくなった様だ。
「異世界行きに納得してるわけじゃ無いけど! ……まぁ、心の準備は出来たし、眼鏡さんにはお世話になったし……」

「あら、そ。じゃ、早速だけど、送っちゃうわね~~!」
「ちょ、待って、待って!!」
 慌てて声を掛ける萌香、

「あら、な~に?」
「アタシの財産! 寄付出来るって、前に……」
「あらあらあら~。 寄付したい先が出来たのね♪ 構わないわよん♪」
「そこの眼鏡さんに! 全部……!」

 ん?となる女神と眼鏡。
「え、いや。いやいやいや―― それは寄付とはならない……のでは……」
 戸惑う眼鏡。

「んんん~~~♪ 良いわよ! 良いわよ!! いいじゃな~~い♪」
 一瞬思案したが両手を宙に広げて喜びを現す女神。

「え、いや……、しかし……っ」
「いや、 ですか……?」
 拒否気味の眼鏡を上目遣いで見上げる萌香。
「いや、嫌という話ではなく……」

「ハイハイハ~イ♪  万事オッケーよ♪ この場合相続税や贈与税なども無しとしまーす! 所有権が移るだけ、といった方向で進めるわね~~♪」
「え、いや――」
「ほらほら~ 時間もなくなってきちゃうからっ」
 動揺している眼鏡をよそに、早く早くと事を進める女神。

「やった! 良かった!! 眼鏡さんッ、リビングのテーブルに手紙置いてあるから読んでね!!」
 萌香の体が宙に浮いていく。

「え、ちょっ――待っ……!」
 焦り気味の眼鏡を見下ろし、感謝の意を伝える萌香。
「眼鏡さん! 親切にしてくれてありがとう! 家の事よろしくね!! 大好きだよ!!!」

どんどん離れていく萌香を見上げ、急いで応える眼鏡。
「あ、あ、どうか、どうか気をつけて! 私も大好きです!!」
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