夏の怪異 夜の峠

池田よしひと

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8月15日 その2

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 気がつくと、衝撃でドアから弾き出されたのか、僕は仰向けに地面に横たわっていた。見ると僕達がぶつかった物が、祖母の家の庭木であったことがわかった。
 横を見ると、努さんも僕と同じように外に転がっている。あの音も止まったようだ。
「努さん、大丈…」
そう声をかけようとした時、僕は努さんの様子が明らかにおかしいことに気がついた。少なくとも僕には、あの音はもう聞こえていない。それなのに努さんは、地面の上でうずくまっていた。
「なんであいつが…俺のせいで…」
震える声でそう呟いている彼は、酷く衰弱しているように見えた。
「なんの…こと…?」
その言葉を遮るように、努さんは
 「そもそも三年前…夏雄が死んだのは、俺のせいなんだ…。」
と言った。
…え?その言葉は、僕を混乱の中に突き落とした。どういうことだ?何かあるとは思っていたけども、まさかそんなことが…?
混乱している僕を無視して、努さんは話し始めた。
「三年前のお盆直前の地域集会で、俺と夏雄は知り合った…。お互い他に同い年の奴がいなかったからかな、俺たちはすぐに打ち解けたんだ…。でも、夏雄は親に帰るよう言われた。だからあの時誘ったんだ、峠の道で競争しないかって…。
でも、それがいけなかったんだ。山道を二人でバイクで走ってたら、夏雄が急に速度を上げてきて、俺も負けたくなかったから速度を上げた。…そしたら俺のバイクがあいつのバイクに当たったらしくて、夏雄はバランスを崩してガードレールに突っ込んでった…。引き返した時には、もうあいつは下に落ちてたんだ…。」
努さんは浅い息をしながら一気にそう話した。僕はただ呆然と座ってそれを聞いていた。…でも、なんで彼はそれを黙っていたのだろう。聞く限りじゃあ、単なる事故に思えるのに…。
「でも、俺が悪かったんだ!」
努さんは、まるで僕の考えた事を読んだかのように言った。
「あの時…あの時…。引き返した時、夏雄はまだ息があったんだ!…でも、俺は怖くて逃げ出した。まだ間に合ったかもしれないのに…!
 …それ以来、俺は色々な言い訳を作ってここに来ないようにしていた。それでも時折思い出してしまったんだ、あの時、血にまみれた手の平を俺に向けて、助けを求めていたあいつの…こと……を………」
 そう言いながら、努さんは目の前を凝視した。僕もそれにつられて同じ方を見てしまった。
 そこには、ヘルメットを被った誰かがいた。その誰かは、バイクを押しながらゆっくりと努さんに近づいていった。
「あ…あぁ………」
努さんは呻きながらその誰かを見つめ、そして後ずさりしようとした。しかしその誰かは、右手を伸ばして努さんを指差し、何かをいった。その手は鮮やかな赤色に染まっていた…。
 
 次の瞬間、誰かは消えていた。努さんは今までより一層青ざめ、そして叫び始めた。その叫び声に混じって、僕は確かにバイクのエンジン音を聞いたのだった。

 翌朝目が覚めると、努さんは既に東京に帰った後だった。あの出来事について詳しく聞きたかったが、その後僕が彼と言葉を交わすことはなかった。
 
あれから何年も経った後も、僕はあの夜の出来事を思い出しては、恐怖に苛まれることがある。その度に思い出す。

お盆には死者が帰って来ると
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感想 2

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みんなの感想(2件)

堅他不願@お江戸あやかし賞受賞

 若者同士らしい競い合いがまさかああなるとは、気の毒というも哀れです。合掌。

2019.06.09 池田よしひと

感想ありがとうございます。今後も精進いたします。

解除
カバオくん
2019.03.27 カバオくん

早く続きが読みたいです。
言葉のチョイスが上手で個人的に好き(タイプ)だということもあり、スラスラと読めちゃいます。
なんと言っても最後の終わり方ですね、早く次を知りたいという気持ちを駆り立てられます。
これからも自分のペースで頑張ってほしいです!

解除

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