6 / 6
8月15日 その2
しおりを挟む
気がつくと、衝撃でドアから弾き出されたのか、僕は仰向けに地面に横たわっていた。見ると僕達がぶつかった物が、祖母の家の庭木であったことがわかった。
横を見ると、努さんも僕と同じように外に転がっている。あの音も止まったようだ。
「努さん、大丈…」
そう声をかけようとした時、僕は努さんの様子が明らかにおかしいことに気がついた。少なくとも僕には、あの音はもう聞こえていない。それなのに努さんは、地面の上でうずくまっていた。
「なんであいつが…俺のせいで…」
震える声でそう呟いている彼は、酷く衰弱しているように見えた。
「なんの…こと…?」
その言葉を遮るように、努さんは
「そもそも三年前…夏雄が死んだのは、俺のせいなんだ…。」
と言った。
…え?その言葉は、僕を混乱の中に突き落とした。どういうことだ?何かあるとは思っていたけども、まさかそんなことが…?
混乱している僕を無視して、努さんは話し始めた。
「三年前のお盆直前の地域集会で、俺と夏雄は知り合った…。お互い他に同い年の奴がいなかったからかな、俺たちはすぐに打ち解けたんだ…。でも、夏雄は親に帰るよう言われた。だからあの時誘ったんだ、峠の道で競争しないかって…。
でも、それがいけなかったんだ。山道を二人でバイクで走ってたら、夏雄が急に速度を上げてきて、俺も負けたくなかったから速度を上げた。…そしたら俺のバイクがあいつのバイクに当たったらしくて、夏雄はバランスを崩してガードレールに突っ込んでった…。引き返した時には、もうあいつは下に落ちてたんだ…。」
努さんは浅い息をしながら一気にそう話した。僕はただ呆然と座ってそれを聞いていた。…でも、なんで彼はそれを黙っていたのだろう。聞く限りじゃあ、単なる事故に思えるのに…。
「でも、俺が悪かったんだ!」
努さんは、まるで僕の考えた事を読んだかのように言った。
「あの時…あの時…。引き返した時、夏雄はまだ息があったんだ!…でも、俺は怖くて逃げ出した。まだ間に合ったかもしれないのに…!
…それ以来、俺は色々な言い訳を作ってここに来ないようにしていた。それでも時折思い出してしまったんだ、あの時、血にまみれた手の平を俺に向けて、助けを求めていたあいつの…こと……を………」
そう言いながら、努さんは目の前を凝視した。僕もそれにつられて同じ方を見てしまった。
そこには、ヘルメットを被った誰かがいた。その誰かは、バイクを押しながらゆっくりと努さんに近づいていった。
「あ…あぁ………」
努さんは呻きながらその誰かを見つめ、そして後ずさりしようとした。しかしその誰かは、右手を伸ばして努さんを指差し、何かをいった。その手は鮮やかな赤色に染まっていた…。
次の瞬間、誰かは消えていた。努さんは今までより一層青ざめ、そして叫び始めた。その叫び声に混じって、僕は確かにバイクのエンジン音を聞いたのだった。
翌朝目が覚めると、努さんは既に東京に帰った後だった。あの出来事について詳しく聞きたかったが、その後僕が彼と言葉を交わすことはなかった。
あれから何年も経った後も、僕はあの夜の出来事を思い出しては、恐怖に苛まれることがある。その度に思い出す。
お盆には死者が帰って来ると
横を見ると、努さんも僕と同じように外に転がっている。あの音も止まったようだ。
「努さん、大丈…」
そう声をかけようとした時、僕は努さんの様子が明らかにおかしいことに気がついた。少なくとも僕には、あの音はもう聞こえていない。それなのに努さんは、地面の上でうずくまっていた。
「なんであいつが…俺のせいで…」
震える声でそう呟いている彼は、酷く衰弱しているように見えた。
「なんの…こと…?」
その言葉を遮るように、努さんは
「そもそも三年前…夏雄が死んだのは、俺のせいなんだ…。」
と言った。
…え?その言葉は、僕を混乱の中に突き落とした。どういうことだ?何かあるとは思っていたけども、まさかそんなことが…?
混乱している僕を無視して、努さんは話し始めた。
「三年前のお盆直前の地域集会で、俺と夏雄は知り合った…。お互い他に同い年の奴がいなかったからかな、俺たちはすぐに打ち解けたんだ…。でも、夏雄は親に帰るよう言われた。だからあの時誘ったんだ、峠の道で競争しないかって…。
でも、それがいけなかったんだ。山道を二人でバイクで走ってたら、夏雄が急に速度を上げてきて、俺も負けたくなかったから速度を上げた。…そしたら俺のバイクがあいつのバイクに当たったらしくて、夏雄はバランスを崩してガードレールに突っ込んでった…。引き返した時には、もうあいつは下に落ちてたんだ…。」
努さんは浅い息をしながら一気にそう話した。僕はただ呆然と座ってそれを聞いていた。…でも、なんで彼はそれを黙っていたのだろう。聞く限りじゃあ、単なる事故に思えるのに…。
「でも、俺が悪かったんだ!」
努さんは、まるで僕の考えた事を読んだかのように言った。
「あの時…あの時…。引き返した時、夏雄はまだ息があったんだ!…でも、俺は怖くて逃げ出した。まだ間に合ったかもしれないのに…!
…それ以来、俺は色々な言い訳を作ってここに来ないようにしていた。それでも時折思い出してしまったんだ、あの時、血にまみれた手の平を俺に向けて、助けを求めていたあいつの…こと……を………」
そう言いながら、努さんは目の前を凝視した。僕もそれにつられて同じ方を見てしまった。
そこには、ヘルメットを被った誰かがいた。その誰かは、バイクを押しながらゆっくりと努さんに近づいていった。
「あ…あぁ………」
努さんは呻きながらその誰かを見つめ、そして後ずさりしようとした。しかしその誰かは、右手を伸ばして努さんを指差し、何かをいった。その手は鮮やかな赤色に染まっていた…。
次の瞬間、誰かは消えていた。努さんは今までより一層青ざめ、そして叫び始めた。その叫び声に混じって、僕は確かにバイクのエンジン音を聞いたのだった。
翌朝目が覚めると、努さんは既に東京に帰った後だった。あの出来事について詳しく聞きたかったが、その後僕が彼と言葉を交わすことはなかった。
あれから何年も経った後も、僕はあの夜の出来事を思い出しては、恐怖に苛まれることがある。その度に思い出す。
お盆には死者が帰って来ると
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
若者同士らしい競い合いがまさかああなるとは、気の毒というも哀れです。合掌。
感想ありがとうございます。今後も精進いたします。
早く続きが読みたいです。
言葉のチョイスが上手で個人的に好き(タイプ)だということもあり、スラスラと読めちゃいます。
なんと言っても最後の終わり方ですね、早く次を知りたいという気持ちを駆り立てられます。
これからも自分のペースで頑張ってほしいです!