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番ってなんぞや!
第五話
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何種類もの大理石のモザイクで象られた床の上を、父親にエスコートされた花嫁が、一歩、また一歩と花婿に向かって歩いていく。
華やかで柔らかな雰囲気に包まれたこのチャペルは、レオンハルトを始めとする国の重鎮が参列するにはいささか威厳が足りないが、クラシカルなドレスを纏う花嫁の美しさを引き立てていた。
礼装用の白い軍服に身を包んだバルドゥルは、父親から美しき花嫁の手を受け取る。
「バルドゥル様、逆です。左手です。」
薄いベールから見える顔をバルドゥルに向けたままディアナが囁く。右手と右手では握手だ。
緊張の極みにいたバルドゥルだったが、ディアナの声で何でもないように、左手でディアナをエスコートすると、祭壇に向かった。
祭壇の前で婚姻証明書にサインし婚姻を宣誓する。そして花嫁と花婿は婚姻が認められた証として、指輪を交換して、誓いのキスを交わすのが、カヒル国の一般的な結婚式である。
ディアナのベールを上げると、列席者から一瞬どよめきが起きる。流石、王妃教育を受けたディアナは、好奇の視線や値踏みするような視線など、全て受け止め、ニッコリ微笑み返す。
あまりに堂々とした所作にあちこちから「ほうっ」とためいきがでる。
「ディアナ。」
「んっ…、」
バルドゥルはディアナの細い顎を手をかけると、自分の方に向かせその唇を塞いだ。
「「「おおぉ~!!」」」
「タイラー閣下、手順を守ってくださーい。」
進行役のエーリクが呆れた声を出すが、堅物と言われるバルドゥルのご乱行に会場は大盛り上がりだ。
「俺…いや私はここに婚姻の誓いをする。」
ようやっと唇を離したバルドゥルが、ディアナと共に誓いの言葉を述べる。
「「私達はいつ、いかなる時でもお互いを愛し、いたわり、助け合うことを誓います。」」
ワッとばかりに大きな拍手で会場が包まれ、その後はまあまあ大きな失敗はなく、結婚式は進行したのである。
**************
チャペルの広々とした庭で、ビュッフェスタイルの披露宴が始まった。
バルドゥルは軍の高官であるが、現場からの支持が非常に高いため、軍の階級や身分などをあまり感じないよう選ばれた会場だ。
「タイラー閣下、おめでとうございます!」
バルドゥルの同僚や部下が入れ替わり立ち替わり祝いの言葉を述べに来る。
始めはディアナと共に挨拶を受けていたが、気がつくとディアナは遠く離れたところで女性隊員達に囲まれていた。
「それにしてもタイラー閣下の奥さん美人ですねー。」
「だよな!ちょっと愛想なしに見えるけど、美人だよな!!」
ディアナを褒める言葉を自慢に思いながらも、誰にも見せたくない衝動に駆られる。
そんな事を考えていたら、昨年結婚した部下が笑いながら、バルドゥルの心境を言い当てる。
「タイラー閣下、今、奥さんを見せたくないって思ったんじゃないですか?」
「?!」
「俺も思いますからね。番は誰にも、特に他の男には見せたくないって。
自分がこんなに独占欲強いなんて思わなかったんですけどね。」
ちょっと照れ笑いしながら言う男に共感する。
「そういえば、クリスティーン侯爵令嬢ってレオンハルト様の結婚相手の候補に入っていたよな。」
「あー、バルド王国の王太子との婚約が解消された後、そんな議題が出たな。」
少し離れた所で文官達が話す内容が、嫌でも耳に入ってきた。
軍務部ではそんな話聞いた事は無い…はずだ。
「バルド王国と国交樹立のシンボルみたいな話だったよな。」
「そうそう、次期王位継承のレオンハルト様とバルド王国宰相の娘との結婚なら両国の友好の証としてふさわしいって、典礼部が騒いでいたからな。」
「お、噂をすれば。」
ディアナに視線をやれば、女性達は離れ、レオンハルトがディアナの隣にいる。
ドレス姿のディアナと礼服のレオンハルトはとてもお似合いだ。姿も、身分も。
カヒル国では貴族の地位は世襲制だが、要職は世襲では無い。唯一世襲制なのは王位だが、その継承権を持つ者は政務や軍務などの仕事に自分の実力で付き、王に指名された者が議会の承認を得て、王位に付くのである。
レオンハルトは次期王位に最も近い者である。
平民から叩き上げた今の身分を恥じる事はなにも無いが、生まれながら貴族として教育されたディアナとは格差を感じることがある。
それは身分のせいなのか、それとも種族の違いなのか。それとも……
「タイラー閣下の奥さんて人族なんですよね。」
ディアナとレオンハルトの方に向いていた意識を、無理やり戻す。
「ああ。」
「だからですかね。奥さん割と淡白ですよね。」
「俺も思った!人族はやっぱり本能が弱いせいなのかな。」
「人族同士だと番が解らないらしい、し……」
「………」
押し黙ったバルドゥルの様子に、短く挨拶すると男達は慌ててバルドゥルから離れて行った。
華やかで柔らかな雰囲気に包まれたこのチャペルは、レオンハルトを始めとする国の重鎮が参列するにはいささか威厳が足りないが、クラシカルなドレスを纏う花嫁の美しさを引き立てていた。
礼装用の白い軍服に身を包んだバルドゥルは、父親から美しき花嫁の手を受け取る。
「バルドゥル様、逆です。左手です。」
薄いベールから見える顔をバルドゥルに向けたままディアナが囁く。右手と右手では握手だ。
緊張の極みにいたバルドゥルだったが、ディアナの声で何でもないように、左手でディアナをエスコートすると、祭壇に向かった。
祭壇の前で婚姻証明書にサインし婚姻を宣誓する。そして花嫁と花婿は婚姻が認められた証として、指輪を交換して、誓いのキスを交わすのが、カヒル国の一般的な結婚式である。
ディアナのベールを上げると、列席者から一瞬どよめきが起きる。流石、王妃教育を受けたディアナは、好奇の視線や値踏みするような視線など、全て受け止め、ニッコリ微笑み返す。
あまりに堂々とした所作にあちこちから「ほうっ」とためいきがでる。
「ディアナ。」
「んっ…、」
バルドゥルはディアナの細い顎を手をかけると、自分の方に向かせその唇を塞いだ。
「「「おおぉ~!!」」」
「タイラー閣下、手順を守ってくださーい。」
進行役のエーリクが呆れた声を出すが、堅物と言われるバルドゥルのご乱行に会場は大盛り上がりだ。
「俺…いや私はここに婚姻の誓いをする。」
ようやっと唇を離したバルドゥルが、ディアナと共に誓いの言葉を述べる。
「「私達はいつ、いかなる時でもお互いを愛し、いたわり、助け合うことを誓います。」」
ワッとばかりに大きな拍手で会場が包まれ、その後はまあまあ大きな失敗はなく、結婚式は進行したのである。
**************
チャペルの広々とした庭で、ビュッフェスタイルの披露宴が始まった。
バルドゥルは軍の高官であるが、現場からの支持が非常に高いため、軍の階級や身分などをあまり感じないよう選ばれた会場だ。
「タイラー閣下、おめでとうございます!」
バルドゥルの同僚や部下が入れ替わり立ち替わり祝いの言葉を述べに来る。
始めはディアナと共に挨拶を受けていたが、気がつくとディアナは遠く離れたところで女性隊員達に囲まれていた。
「それにしてもタイラー閣下の奥さん美人ですねー。」
「だよな!ちょっと愛想なしに見えるけど、美人だよな!!」
ディアナを褒める言葉を自慢に思いながらも、誰にも見せたくない衝動に駆られる。
そんな事を考えていたら、昨年結婚した部下が笑いながら、バルドゥルの心境を言い当てる。
「タイラー閣下、今、奥さんを見せたくないって思ったんじゃないですか?」
「?!」
「俺も思いますからね。番は誰にも、特に他の男には見せたくないって。
自分がこんなに独占欲強いなんて思わなかったんですけどね。」
ちょっと照れ笑いしながら言う男に共感する。
「そういえば、クリスティーン侯爵令嬢ってレオンハルト様の結婚相手の候補に入っていたよな。」
「あー、バルド王国の王太子との婚約が解消された後、そんな議題が出たな。」
少し離れた所で文官達が話す内容が、嫌でも耳に入ってきた。
軍務部ではそんな話聞いた事は無い…はずだ。
「バルド王国と国交樹立のシンボルみたいな話だったよな。」
「そうそう、次期王位継承のレオンハルト様とバルド王国宰相の娘との結婚なら両国の友好の証としてふさわしいって、典礼部が騒いでいたからな。」
「お、噂をすれば。」
ディアナに視線をやれば、女性達は離れ、レオンハルトがディアナの隣にいる。
ドレス姿のディアナと礼服のレオンハルトはとてもお似合いだ。姿も、身分も。
カヒル国では貴族の地位は世襲制だが、要職は世襲では無い。唯一世襲制なのは王位だが、その継承権を持つ者は政務や軍務などの仕事に自分の実力で付き、王に指名された者が議会の承認を得て、王位に付くのである。
レオンハルトは次期王位に最も近い者である。
平民から叩き上げた今の身分を恥じる事はなにも無いが、生まれながら貴族として教育されたディアナとは格差を感じることがある。
それは身分のせいなのか、それとも種族の違いなのか。それとも……
「タイラー閣下の奥さんて人族なんですよね。」
ディアナとレオンハルトの方に向いていた意識を、無理やり戻す。
「ああ。」
「だからですかね。奥さん割と淡白ですよね。」
「俺も思った!人族はやっぱり本能が弱いせいなのかな。」
「人族同士だと番が解らないらしい、し……」
「………」
押し黙ったバルドゥルの様子に、短く挨拶すると男達は慌ててバルドゥルから離れて行った。
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