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千山万水五行盟(旅の始まり)
029:陰森凄幽(四)
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「お二人の仰る通り、原因は我々の不手際にあります。見張り役は門弟ではなかったため、誤って鬼門の方角に棺を置いてしまいました。おまけに空き家だったことで元々良くない気が溜まっていたため……このようなことが起こってしまったのです。死んだ上にそのような目に遭わせてしまい、死者になんと詫びて良いか……」
頷く清粛の肩は震えている。清林峰はもとより争いを好まぬというが、この青年も同様に優しく誠実な人柄なのだろう。それ故に、かつての仲間にこのようなことをしなければならないのが耐えられないのだ。
煬鳳は清粛に少しだけ同情した。
(そういえば……)
こうしたことは特別なものでも何でもなく、ちょっとした切っ掛けで起こるものだ。恨みあるなし、場所の善し悪しもそこまで関係はない。確か先日揺爪山で生き埋めになった者がいると言っていたが、ああいう状況も同様の現象を生み出しやすいと聞く。
万が一生き埋めになったものたちが妖邪になったとしたら少し厄介だ。しかも場所が場所だから、狭くて動きづらい。迂闊に戦おうものなら自分たちも生き埋めになってしまう。五行盟の者たちが行くのを渋っていたのは大方そのような考えもあったのかもしれない。
もちろん助けられることが一番望ましいのだが。
そこは彼ら――五行盟次第ということになるだろうか。
清粛は目元に薄っすら浮かんだ涙を拭うと煬鳳たちに向き直る。
「すみません。感傷的になってしまいました。……六番目の被害者のことを説明しましょう」
暗がりの先の突き当たりは通路より少しだけ広い。そこには白い木棺が横たわっているのがぼんやりと見える。近づいた清粛が棺の縁に手をかけると、凰黎が反対の縁を支え、ゆっくりと脇へ蓋を降ろした。
「一番最後に殺された彼が発見されたのは森の中です。それも森の奥ではなく清林峰からそう遠くない場所でした。彼が二人で森へ出ていくのを他の門弟たちが見ています。彼はその日の巡回担当ではなかったので、何故清林峰を出て森に行ったのかは謎のままです」
棺で眠る青年の顔は傷一つなく、眠っているようにも見える。
――いくつかの不自然な点を除いて。
「なんの毒です?」
青年の首元を確認しながら、凰黎が訊ねた。清粛は驚いて目を丸くしながら凰黎を見る。
「驚きました……! いまご説明しようとしたのですが、まさかお気づきになるとは……」
「我々も人並み程度には生死にかかわる場所にいるのです。これくらいは当然のこと。……清公子は先ほど五人目まではっきりとした死因を我々に話してくれました。六人目は倒れていた、と言いましたが刺されていた、とは言っていませんでしたね。類推するに恐らく五人目の方も毒でしょう」
確かに清粛がはっきり死因を言わなかったのは二度だ。そして五人目の被害者は広場で倒れていたと言っていた。いくら夜だとはいえ、時間をかけていたらいつ誰かに見られるとも分からない。
「五人目の被害者は、致死性の高い猛毒を塗った刃か何かで殺されたのではないでしょうか? 広場というからには、誰かと待ち合わせしていたのかもしれませんね。……相手が万が一警戒していたとしても即死性の毒ならば剣でなくとも、それこそ欠片ほどの刃物だって殺せることでしょう」
「驚きました……仰る通りです。五人目の被害者は首に付けられた傷から毒が入り、助けを呼ぶ間もなく死んだようでした。ここにいる被害者も毒は毒ですが、こちらは……」
「服毒ですね」
「そ、その通りです」
説明する前に次々見抜いていく凰黎を、煬鳳も雷靂飛も、そして清粛すらも唖然とした顔で見ている。共に暮らしはじめて暫く経つが、どうやら凰黎が天才なのは料理や武術だけに留まらないようだ。しかし驚く皆をよそに、当の凰黎はけろっとした顔で言う。
「なに、いまの話し方から別の手口だろうと予想して言ったまでです」
果たしてその言葉の、どこまでが本当なのか?
天才の考えることは、よく分からない。
「使われた毒はいずれも刹曾飲[*1]という猛毒です。刹曾、というのはかなり限られた地域にしか自生しないという珍しい毒草で、巷ではそう出回るものではありません。効果は恐ろしいほど強力で凶悪。経口でも傷口に塗り込んでも効果のある代物です」
「ちなみに、清林峰でその毒草は……?」
凰黎が問いかけると清粛は目を伏せた。
「……はい、薬草園の中でも極秘の場所で。もちろん、研究のためにです。毒草も解毒薬を作るには毒草がなければ手段を探すこともできません。ですから薬草園では身体に良い草、悪い草、果ては幻覚作用のある草に至るまで、多種多様な効能の薬草を育てているのです」
しかし、どう考えても手に入りにくい強力な毒薬を使って殺されたというのなら、やはり犯人は普段から毒草、薬草を手に入れることが容易い清林峰の人間という可能性が高い。
「次は薬草園に案内しましょう。一番初めに門弟が死んだ場所でもあります」
清粛は洞窟の外側を道なりに進んでゆく。住居が立ち並ぶ場所から遠ざかっていくのは、おいそれと人の立ち入らぬ、最適な状態に管理された場所境に薬草園を作っているから、ということのようだ。
「清粛、そちらは?」
四人で進んでいると、どこからか男の声が聞こえてきた。ゆったりとした話し方は老人のものであろうか。
「先生!」
清粛の声が跳ね上がる。『先生』が誰かであるかを直感して、煬鳳と凰黎も清粛が向けた視線の先を見た。
「こんにちは。先生は往診の途中ですか?」
「いやいや、孫が久しぶりに戻ってきてね。土産を配っていたところだよ。見ない顔が沢山いるね。お客さんかい?」
立っていたのは白髪交じりの老人だ。真っ白になるほどの年齢ではないし、背筋も真っすぐ伸びている。声と同様に穏やかな表情と整えられた身だしなみは、見る者に清潔な印象を与えた。そして手には何やら紐で結わいた包みを携え、どうやらどこかに行く途中だったようだ。
「こちらは五行盟からいらした方々です。皆さん、こちらは榠聡檸先生と仰って、いわゆる世間が『神医』と噂する凄腕の先生です!」
「五行盟?」
その言葉を聞いて榠聡檸の表情が僅かに変化した。しかし一瞬のうちに元の柔和な表情に戻ると彼は言葉をつづけた。
「森の向こうからよくぞおいでくださいました。この件は我々も困り果てているのです。どうぞ皆様の力をお貸しください」
「先生」
言い終えた榠聡檸に間髪入れず、凰黎が進み出た。どうやらこの機会を逃すわけにはいかないと思ったようだ。それまであまり神医のことを積極的に口にすることはなかった凰黎だったが、静かな言葉の中に逃がさないという執念を煬鳳は感じ取ってしまった。
(すごい気迫だ……)
それもこれも、煬鳳のため。
そう思うと、申し訳ないやら、嬉しいやら、こそばゆい気持ちになってしっまう。
そんな煬鳳の内心はさておき、凰黎は榠聡檸に手を合わせ、丁寧に頭を下げる。
「初めてお目にかかります。榠先生。私は蓬静嶺の凰霄蘭と申します。実は先生がどのような病でもたちどころに治すほどの名医だとお伺いして、ぜひ御助力を賜りたく、こうして参りました」
「なんと、それは本当ですか? して、いったいどのような……」
「お言葉は大変ありがたく思います。しかし、見たところ先生はまだご用事の途中。落ち着いた後に必ず、お願いいたします」
しかし、凰黎は先ほど榠聡檸が「土産を届けに」と言っていたことを忘れた訳ではなかった。凰黎の反応は煬鳳にとって少々意外ではあったが、凰黎は榠聡檸の用事のほうを優先させたようだ。孫との時間を邪魔してまで急ぐのは野暮だと判断したのだろう。
丁寧な言葉を交わしたあと、榠聡檸は「では私はこれで」と言って去って行った。
「勤めを果たさずしてこちらの希望を聞いて頂くわけにはいきません。さ、薬草園へ行きましょう」
再び歩き始めた一行は、だんだんひんやりとした場所へと歩みを進めてゆく。凰黎が何を考えているのか、その表情からは読み取ることができない。本当はすぐにでも聞きたかったのだろうか、どうなのだろうか。しかし凰黎の性格を考えれば周りの都合も顧みずに煬鳳のことばかり優先させはしないだろう。
「先ほど榠聡檸先生はお孫さんが帰ってきたと仰ってましたが」
前を進む清粛に向かって凰黎は呼び掛ける。
「ああ、先生のお孫さんの榠曹はいま、清林峰を出て呪禁博士として王宮に出仕しているそうです。住まいも王宮の傍なので、最近はなかなか会えないのが悩みだとか。もちろん先生が教えた弟子たちは本当にみんな優秀で、榠曹だけでなくほとんどの弟子がこの森から出て、それぞれに人を助け、病を治|し、人々に『神医』だと言われているのです」
「つまり、榠先生が『神医』として代表に挙げられるのは、それらの高い技術を持った方を育て上げた、さらに上位の方であるからなのですね」
「そういうことです!」
嬉しそうに清粛は頷いた。
「清粛様、大変です!」
崖と崖のあいだを通り抜け、薬草園に辿り着いた一行を待っていたのは、清林峰の門弟たちだった。周囲を崖に囲まれた薬草園の壁面には夜明珠が取り付けてあり、広大な薬草園ながらも全体の様子は一望することができる。薬草は種類ごと綺麗に区画ごとに分けられており、ぱっと見ただけでもかなりの数がこの場所で育てられていることが理解できた。
そして弟子たちがなぜ薬草園にいたのかというと、決して煬鳳たちを歓迎するつもりだったからではない。
「心配になって少し前から栽培している薬草の数と、保管している薬草の種類と残量を調べさせていたのですが、どうやら嫌な予感は当たったようです」
「盗まれた薬草で気になるものは?」
頭を抱えた清粛を覗き込むようにして、凰黎が尋ねる。
「刹曾と、相当貴重な霊薬をいくつか。それに……現在改良を重ねているところだった新しい品種の薬です」
「新しい品種?」
それは初耳だ。煬鳳は堪らずに清粛へ聞き返した。
――――――
[*1]刹曾飲……刹曾、が毒草の名で刹曾飲が薬の名前。それっぽい語感でつけた架空の毒。
[*2]夜明珠……光る珠。
頷く清粛の肩は震えている。清林峰はもとより争いを好まぬというが、この青年も同様に優しく誠実な人柄なのだろう。それ故に、かつての仲間にこのようなことをしなければならないのが耐えられないのだ。
煬鳳は清粛に少しだけ同情した。
(そういえば……)
こうしたことは特別なものでも何でもなく、ちょっとした切っ掛けで起こるものだ。恨みあるなし、場所の善し悪しもそこまで関係はない。確か先日揺爪山で生き埋めになった者がいると言っていたが、ああいう状況も同様の現象を生み出しやすいと聞く。
万が一生き埋めになったものたちが妖邪になったとしたら少し厄介だ。しかも場所が場所だから、狭くて動きづらい。迂闊に戦おうものなら自分たちも生き埋めになってしまう。五行盟の者たちが行くのを渋っていたのは大方そのような考えもあったのかもしれない。
もちろん助けられることが一番望ましいのだが。
そこは彼ら――五行盟次第ということになるだろうか。
清粛は目元に薄っすら浮かんだ涙を拭うと煬鳳たちに向き直る。
「すみません。感傷的になってしまいました。……六番目の被害者のことを説明しましょう」
暗がりの先の突き当たりは通路より少しだけ広い。そこには白い木棺が横たわっているのがぼんやりと見える。近づいた清粛が棺の縁に手をかけると、凰黎が反対の縁を支え、ゆっくりと脇へ蓋を降ろした。
「一番最後に殺された彼が発見されたのは森の中です。それも森の奥ではなく清林峰からそう遠くない場所でした。彼が二人で森へ出ていくのを他の門弟たちが見ています。彼はその日の巡回担当ではなかったので、何故清林峰を出て森に行ったのかは謎のままです」
棺で眠る青年の顔は傷一つなく、眠っているようにも見える。
――いくつかの不自然な点を除いて。
「なんの毒です?」
青年の首元を確認しながら、凰黎が訊ねた。清粛は驚いて目を丸くしながら凰黎を見る。
「驚きました……! いまご説明しようとしたのですが、まさかお気づきになるとは……」
「我々も人並み程度には生死にかかわる場所にいるのです。これくらいは当然のこと。……清公子は先ほど五人目まではっきりとした死因を我々に話してくれました。六人目は倒れていた、と言いましたが刺されていた、とは言っていませんでしたね。類推するに恐らく五人目の方も毒でしょう」
確かに清粛がはっきり死因を言わなかったのは二度だ。そして五人目の被害者は広場で倒れていたと言っていた。いくら夜だとはいえ、時間をかけていたらいつ誰かに見られるとも分からない。
「五人目の被害者は、致死性の高い猛毒を塗った刃か何かで殺されたのではないでしょうか? 広場というからには、誰かと待ち合わせしていたのかもしれませんね。……相手が万が一警戒していたとしても即死性の毒ならば剣でなくとも、それこそ欠片ほどの刃物だって殺せることでしょう」
「驚きました……仰る通りです。五人目の被害者は首に付けられた傷から毒が入り、助けを呼ぶ間もなく死んだようでした。ここにいる被害者も毒は毒ですが、こちらは……」
「服毒ですね」
「そ、その通りです」
説明する前に次々見抜いていく凰黎を、煬鳳も雷靂飛も、そして清粛すらも唖然とした顔で見ている。共に暮らしはじめて暫く経つが、どうやら凰黎が天才なのは料理や武術だけに留まらないようだ。しかし驚く皆をよそに、当の凰黎はけろっとした顔で言う。
「なに、いまの話し方から別の手口だろうと予想して言ったまでです」
果たしてその言葉の、どこまでが本当なのか?
天才の考えることは、よく分からない。
「使われた毒はいずれも刹曾飲[*1]という猛毒です。刹曾、というのはかなり限られた地域にしか自生しないという珍しい毒草で、巷ではそう出回るものではありません。効果は恐ろしいほど強力で凶悪。経口でも傷口に塗り込んでも効果のある代物です」
「ちなみに、清林峰でその毒草は……?」
凰黎が問いかけると清粛は目を伏せた。
「……はい、薬草園の中でも極秘の場所で。もちろん、研究のためにです。毒草も解毒薬を作るには毒草がなければ手段を探すこともできません。ですから薬草園では身体に良い草、悪い草、果ては幻覚作用のある草に至るまで、多種多様な効能の薬草を育てているのです」
しかし、どう考えても手に入りにくい強力な毒薬を使って殺されたというのなら、やはり犯人は普段から毒草、薬草を手に入れることが容易い清林峰の人間という可能性が高い。
「次は薬草園に案内しましょう。一番初めに門弟が死んだ場所でもあります」
清粛は洞窟の外側を道なりに進んでゆく。住居が立ち並ぶ場所から遠ざかっていくのは、おいそれと人の立ち入らぬ、最適な状態に管理された場所境に薬草園を作っているから、ということのようだ。
「清粛、そちらは?」
四人で進んでいると、どこからか男の声が聞こえてきた。ゆったりとした話し方は老人のものであろうか。
「先生!」
清粛の声が跳ね上がる。『先生』が誰かであるかを直感して、煬鳳と凰黎も清粛が向けた視線の先を見た。
「こんにちは。先生は往診の途中ですか?」
「いやいや、孫が久しぶりに戻ってきてね。土産を配っていたところだよ。見ない顔が沢山いるね。お客さんかい?」
立っていたのは白髪交じりの老人だ。真っ白になるほどの年齢ではないし、背筋も真っすぐ伸びている。声と同様に穏やかな表情と整えられた身だしなみは、見る者に清潔な印象を与えた。そして手には何やら紐で結わいた包みを携え、どうやらどこかに行く途中だったようだ。
「こちらは五行盟からいらした方々です。皆さん、こちらは榠聡檸先生と仰って、いわゆる世間が『神医』と噂する凄腕の先生です!」
「五行盟?」
その言葉を聞いて榠聡檸の表情が僅かに変化した。しかし一瞬のうちに元の柔和な表情に戻ると彼は言葉をつづけた。
「森の向こうからよくぞおいでくださいました。この件は我々も困り果てているのです。どうぞ皆様の力をお貸しください」
「先生」
言い終えた榠聡檸に間髪入れず、凰黎が進み出た。どうやらこの機会を逃すわけにはいかないと思ったようだ。それまであまり神医のことを積極的に口にすることはなかった凰黎だったが、静かな言葉の中に逃がさないという執念を煬鳳は感じ取ってしまった。
(すごい気迫だ……)
それもこれも、煬鳳のため。
そう思うと、申し訳ないやら、嬉しいやら、こそばゆい気持ちになってしっまう。
そんな煬鳳の内心はさておき、凰黎は榠聡檸に手を合わせ、丁寧に頭を下げる。
「初めてお目にかかります。榠先生。私は蓬静嶺の凰霄蘭と申します。実は先生がどのような病でもたちどころに治すほどの名医だとお伺いして、ぜひ御助力を賜りたく、こうして参りました」
「なんと、それは本当ですか? して、いったいどのような……」
「お言葉は大変ありがたく思います。しかし、見たところ先生はまだご用事の途中。落ち着いた後に必ず、お願いいたします」
しかし、凰黎は先ほど榠聡檸が「土産を届けに」と言っていたことを忘れた訳ではなかった。凰黎の反応は煬鳳にとって少々意外ではあったが、凰黎は榠聡檸の用事のほうを優先させたようだ。孫との時間を邪魔してまで急ぐのは野暮だと判断したのだろう。
丁寧な言葉を交わしたあと、榠聡檸は「では私はこれで」と言って去って行った。
「勤めを果たさずしてこちらの希望を聞いて頂くわけにはいきません。さ、薬草園へ行きましょう」
再び歩き始めた一行は、だんだんひんやりとした場所へと歩みを進めてゆく。凰黎が何を考えているのか、その表情からは読み取ることができない。本当はすぐにでも聞きたかったのだろうか、どうなのだろうか。しかし凰黎の性格を考えれば周りの都合も顧みずに煬鳳のことばかり優先させはしないだろう。
「先ほど榠聡檸先生はお孫さんが帰ってきたと仰ってましたが」
前を進む清粛に向かって凰黎は呼び掛ける。
「ああ、先生のお孫さんの榠曹はいま、清林峰を出て呪禁博士として王宮に出仕しているそうです。住まいも王宮の傍なので、最近はなかなか会えないのが悩みだとか。もちろん先生が教えた弟子たちは本当にみんな優秀で、榠曹だけでなくほとんどの弟子がこの森から出て、それぞれに人を助け、病を治|し、人々に『神医』だと言われているのです」
「つまり、榠先生が『神医』として代表に挙げられるのは、それらの高い技術を持った方を育て上げた、さらに上位の方であるからなのですね」
「そういうことです!」
嬉しそうに清粛は頷いた。
「清粛様、大変です!」
崖と崖のあいだを通り抜け、薬草園に辿り着いた一行を待っていたのは、清林峰の門弟たちだった。周囲を崖に囲まれた薬草園の壁面には夜明珠が取り付けてあり、広大な薬草園ながらも全体の様子は一望することができる。薬草は種類ごと綺麗に区画ごとに分けられており、ぱっと見ただけでもかなりの数がこの場所で育てられていることが理解できた。
そして弟子たちがなぜ薬草園にいたのかというと、決して煬鳳たちを歓迎するつもりだったからではない。
「心配になって少し前から栽培している薬草の数と、保管している薬草の種類と残量を調べさせていたのですが、どうやら嫌な予感は当たったようです」
「盗まれた薬草で気になるものは?」
頭を抱えた清粛を覗き込むようにして、凰黎が尋ねる。
「刹曾と、相当貴重な霊薬をいくつか。それに……現在改良を重ねているところだった新しい品種の薬です」
「新しい品種?」
それは初耳だ。煬鳳は堪らずに清粛へ聞き返した。
――――――
[*1]刹曾飲……刹曾、が毒草の名で刹曾飲が薬の名前。それっぽい語感でつけた架空の毒。
[*2]夜明珠……光る珠。
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