【完結】鳳凰抱鳳雛 ~鳳凰は鳳雛を抱く~

銀タ篇

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五趣生死情侣们(恋人たち)

141:震天動地(十)

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「散歩をするのではなかったのですか?」
「散歩のついでに昼寝をしたっていいだろ?」
「もちろんですよ」

 少し意地悪なことを凰黎ホワンリィは言うが、顔は穏やかで幸せそうに微笑んでいる。そんな凰黎ホワンリィの笑顔を見るたび煬鳳ヤンフォンは、

(あぁ、やっぱり今日は恒凰宮こうおうきゅうに泊まることにして良かった!)

 と思うのだ。
 水辺には楊柳がしなだれており、そよぐ風を受け柔らかい動きで葉を揺らす。その脇には煬鳳ヤンフォンたちと共に散歩に出たはずの拝陸天バイルーティエンの姿があった。

(お邪魔虫だったことを自覚して、拗ねてる……)

 気を利かせ散歩に誘ったはずの叔父は、完全にお邪魔虫だったのだ。
 申し訳ないと思ったが、煬鳳ヤンフォンもまだ無茶をしてはいけないので、こうして日向ぼっこしながら寝ているくらいがちょうど良い。
 必然的に拝陸天バイルーティエンが……余ってしまったのだ。

陸叔公りくしゅくこう、ごめん……)

 一応何度か話しかけたりはしたのだ。したのだが、叔父自身、煬鳳ヤンフォンたち二人の幸せを邪魔するほど大人げないことはしたくなかったらしい。
 拗ねながらも大人しく一人遠くから二人の様子を眺めているようだ。

(それもそれで落ち着かないけど……)

 とはいえ、ここまでして貰っているのだから、贅沢は言えない。

「なあ、凰黎ホワンリィ

 煬鳳ヤンフォンは膝の上から凰黎ホワンリィを見上げる。そこには眩しいほどの凰黎ホワンリィの笑顔があった。

「なんですか? 煬鳳ヤンフォン
「あのな、ここまで一緒に来てくれて有り難う」
「どうしたんですか、急に改まって」

 だって、と煬鳳ヤンフォンは言う。

「あの日から、ずっと俺のために一緒に清林峰せいりんほうに行って、黒炎山こくえんざんに行って、魔界まかいにも行って、恒凰宮こうおうきゅうにも戻ってきた。ずっと一緒にいてくれて、俺のために沢山無理もしてくれたよな。ほんとに有り難う。……俺、これからはいっぱい凰黎ホワンリィに今までのお礼をするからさ――」

 言っている途中で恥ずかしくなってしまい、煬鳳ヤンフォンはごろりと寝返りをうつ。表情を見られないようにさりげなく手で顔を隠すと、凰黎ホワンリィに仰向けの状態に戻されてしまった。

「……」

 恥ずかしい。まじまじと見つめられて耳が熱くなるのを感じる。

(もしかして……また体温が!?)

 焦って耳を触ったが、誤差程度の熱さだ。向かい合う凰黎ホワンリィは少しだけ悪戯めいた笑みを浮かべている。それがまた美しくて煬鳳ヤンフォンの顔はさらに熱くなった。

「ふふ、慌ててどうしたんですか?」
「な、なんでもないよ」

 指摘されてもなお、気恥ずかしさに歪む自分の表情が照れくさく、つい顔をそらす。しかし、すぐに凰黎ホワンリィに背けた顔を両手で包まれたまま、抱きかかえられてしまった。

「お礼なら、煬鳳ヤンフォンがこれからもずっと一緒に居てくれたらそれが一番です」
「一緒に居ることは礼とかそういうのじゃなくて、当たり前のことなんだから。お礼にならないだろ? でも、凰黎ホワンリィが俺のために今まで沢山してくれたことは当たり前以上のことなんだからさ」
「一緒ですよ」

 背後から抱きしめたまま、煬鳳ヤンフォンの首筋に凰黎ホワンリィが顔を埋める。

「大切な人のためなら、その人にとって本当に意味があることだとしたら、どんなことだってしてあげようと思うでしょう? だから、おんなじことなんです」
「そうかなぁ……」

 そうなんですよ、と凰黎ホワンリィは微笑む。
 今まで当然のようにそうしてきてくれた彼だからこそ、彼の言葉には説得力がある。

「なら俺も――凰黎ホワンリィのために意味があることなら、どんなことだってするよ。約束する」

 けれど、凰黎ホワンリィがそんなとき煬鳳ヤンフォンに向ける眼差しは喜びではなく寂しさなのだ。

「……でもやっぱり私は、そんなことよりも貴方が側に居てくれることが一番嬉しいですよ」

 浮かべた表情の意味するところは、いったい何なのだろうか。
 答えを聞きたくて、聞けなくて、もどかしさで煬鳳ヤンフォン凰黎ホワンリィの顔を両手で引き寄せた。

「食事をお持ちしました」

 水辺の方から煬鳳ヤンフォンたちを呼ぶ声がして、二人は顔を見合わせる。
 そよぐ楊柳の向こう側、ちょうどちょうど湖の中央にある水榭すいしゃには燐瑛珂リンインクゥが立っていた。卓子たくしの上には幾つかの皿が並べられており、いつでも食べられるよう準備がされている。

(そういえばもっと食べたいって俺、言ったっけ……)

 稀飯きはんだけでは食べたりなかった煬鳳ヤンフォンのために、凰黎ホワンリィが軽い食事を貰えるようお願いをしてくれたのだ。

「行こうか」

 煬鳳ヤンフォン凰黎ホワンリィの手を引いて立ち上がる。
 既に水榭すいしゃには鸞快子らんかいし拝陸天バイルーティエンが座っており、とりわけ拝陸天バイルーティエンは早く来いとばかりに煬鳳ヤンフォンたちを見つめている。そんな叔父の姿に煬鳳ヤンフォンは頬を緩めると、彼に向かって大きく手を振った。

「わあ、美味しそうだ!」

 並べられた食事の数々に煬鳳ヤンフォンは感嘆の声をあげる。汁物や饅頭に鴨肉など、短時間で用意したとは思えない豪華さだ。

「凄いな! こんな短時間で用意したのか!?」
「まさか。鴨肉を煮込んだ汁物は、朝餉を用意したときの残りに手を加えたものです。饅頭はたまたま準備しておいたものを蒸しました。……他の料理も大体有り合わせです」

 燐瑛珂リンインクゥは淡々と『これくらいは大したことではない』とでも言いたげに続けたが、煬鳳ヤンフォンにとってはどれも凄い料理ばかりだ。
 しかも、料理の選び方から見るに、彼はまだ本調子とは言えない煬鳳ヤンフォンのために比較的食べやすいものを選んでくれたのだろう。
 そう思うと感謝の念しか出てこない。

「有り合わせでこれだけ作れるんだから凄いなあ。有り難う、燐瑛珂リンインクゥ

 心からの煬鳳ヤンフォンの感謝に、燐瑛珂リンインクゥは無言で頭を下げると「冷めないうちにどうぞ」と皆に食事を勧めた。
 煬鳳ヤンフォンが饅頭に被りつく様子を凰黎ホワンリィはじっと見つめている。煬鳳ヤンフォンは頬張った饅頭を飲み込めむと凰黎ホワンリィに向かってニッと笑った。

「美味しい!」
「良かった。あとで皆さんにもお礼を言ってきますね」

 煬鳳ヤンフォンの言葉に凰黎ホワンリィも綻ぶ。

「二公子も、それに鸞快子らんかいし殿と煬六郎ヤンリウラン様もお召し上がりください。……お三方ともヤン殿と同じように朝餉を召し上がっておられないのですから」
「えっ!?」

 三人が何も食べていないと聞いて煬鳳ヤンフォンは驚いた。

「俺には稀飯きはんを食べさせてくれたのに、三人とも何も食べてなかったのか!?」
ホワン殿が小鳳シャオフォンが目覚めるまでは食べぬと申したのでな。もとより食事など頻繁に取ることは少ない、だから敢えて目の離せぬときに食べる必要はないと思ったのだ」

 拝陸天バイルーティエンはどちらかというと凰黎ホワンリィへの対抗心から食べなかったようにも思えるが、根っこの部分はやはり煬鳳ヤンフォンの容態を気にしてのものだったようだ。

煬鳳ヤンフォンが目覚める前に食事などできるはずもないでしょう? ようやく念願叶って、煬鳳ヤンフォン頸根くびねの治療をすることができたのですから」

 煬鳳ヤンフォンがちらりと鸞快子らんかいしに視線を移すと、鸞快子らんかいしは肩を竦める。多分、彼に尋ねても二人と同じような答えが返ってくるのだろう。

「まさか一番食べてたのが俺だったなんて……。この通り俺は大丈夫だからさ、みんなも食べようよ! な!?」

 特に凰黎ホワンリィ!と煬鳳ヤンフォンは手元の皿から凰黎ホワンリィの手に饅頭を載せる。そんな煬鳳ヤンフォンに苦笑しながら凰黎ホワンリィは受け取った饅頭を見つめる。

「では――煬鳳ヤンフォンと、黒曜ヘイヨウの関係が一歩前進したことのお祝いとして……頂きましょうか」
「それもそうだな」

 凰黎ホワンリィの言葉に鸞快子らんかいしは頷いて、手近な果物を手に取った。ついでにとばかりに鸞快子らんかいしは近くの木に留まっている黒曜ヘイヨウにも果物を投げてやる。黒曜ヘイヨウは果物を器用に嘴で受け止めると、煬鳳ヤンフォンたちの横まで降りてきてそれを啄み始めた。

小鳳シャオフォンよ」

 呼んだのは拝陸天バイルーティエンだ。煬鳳ヤンフォンは汁物の器から顔を上げ、彼を見る。

「本来なら私も小鳳シャオフォンと共に五行盟ごぎょうめいまで行きたい。しかし……」
「分かってるよ、陸叔公りくしゅくこう

 五行盟ごぎょうめいにおいて特に火行瞋砂門しんしゃもんと土行雪岑谷せきしんこくは厄介な連中だ。霆雷門ていらいもんは融通が利かないのでそれらとはまた別に厄介だ。万に一つでも魔界まかいの皇帝が自ら五行盟ごぎょうめいに乗り込んで来たと知られてしまったら、睡龍すいりゅうの話どころではなくなってしまうことだろう。

 それに、煬鳳ヤンフォンとしては小黄シャオホワンのことも気がかりだ。翳黒明イーヘイミン凰神偉ホワンシェンウェイの二人は煬鳳ヤンフォンたちを置いて原始の谷に行ってしまった。そして、原始の谷の状況も予断を許さない。

「だからこそ、陸叔公りくしゅくこうには小黄シャオホワンのことを頼みたいんだ。それに凰黎ホワンリィの兄貴と翳黒明イーヘイミンのことも。あいつらなら平気だと思うけど……無事に戻ってこられるまで見守ってやって」
「……気を使わせて済まぬな」
「皇帝になったばかりなのにここまで無理して来てくれたんだ。それ以上のことなんか望めないよ。陸叔公りくしゅくこうのお陰で俺も体の熱が上がることを気にしなくて良くなったんだ。これで霊力だって全力で使えるし、みんなと一緒に心置きなく戦うことだってできる」
小鳳シャオフォン

 普段の調子いい声ではなく、真面目な声で拝陸天バイルーティエンが言った。

「己を過信してはいけない。全力で戦えるということは、より無理ができるようになり……今よりさらに危険なことも起こりうるということだ。以前小鳳シャオフォンは己の体の事情も顧みず私のことを助けようと体を張って黒冥翳魔こくめいえいまを退けてくれたな」

 彼が言っているのは、拝陸天バイルーティエンの別邸で翳黒明イーヘイミン――かつての黒冥翳魔こくめいえいまが襲ってきたときのことだ。煬鳳ヤンフォンは初めて出会った自分の叔父を守るため、全力の霊力で黒冥翳魔こくめいえいまを弾き飛ばした。
 その後どうなったかは、語るべくもない。

「私を想い守ろうとしてくれた、そなたの気持ちはとても嬉しい。しかし、己を顧みないようなことをしてはならない。……小鳳シャオフォンの周りにはいつでもそなたを想う者たちが沢山いる。無茶は命を削らない程度にすること。分かったかな?」
陸叔公りくしゅくこう……」

 もしも――。
 もしも今、煬鳳ヤンフォンの両親が生きていて目の前に座っていたら、きっと同じことを語ってくれたのだろう。そう思うと無意識に目頭が熱くなる。

「っ……ごめん、陸叔公りくしゅくこう

 零れる涙を堪えきれず、煬鳳ヤンフォンが涙声で拝陸天バイルーティエンに告げると、顔色を変え拝陸天バイルーティエンがおろおろと狼狽えてしまった。

「ど、ど、どうした!? 小鳳シャオフォン!? もしや余計なことを言ってしまったか!?」
「違う、違うんだ……」

 煬鳳ヤンフォンが袖でぐしぐしと目をこすると、凰黎ホワンリィ煬鳳ヤンフォンの手を押さえ綺麗な手布で煬鳳ヤンフォンの涙を拭いてくれる。凰黎ホワンリィは視線だけを拝陸天バイルーティエンに向け、柔らかく笑む。

小鳳シャオフォン陸叔公りくしゅくこうのお言葉が嬉しかったのだと思いますよ」
「うん。そう」

 凰黎ホワンリィ言葉に煬鳳ヤンフォンは同意する。

陸叔公りくしゅくこうの言葉、もしも俺の両親が生きていたら、きっと同じことを言ってくれたんだろうなって思って。そうしたら凄く嬉しくて泣きたくなったんだ。それに……俺の両親はもういないけど、同じくらい俺のことを心配して、諫めてくれる陸叔公りくしゅくこうがいる。そう思ったら、もっと嬉しくなったんだ」

 また涙が溢れてしまい、煬鳳ヤンフォンは堪えようと俯く。そんな煬鳳ヤンフォン拝陸天バイルーティエンは肩を抱き優しく包み込んでくれる。それがまた嬉しくて煬鳳ヤンフォン拝陸天バイルーティエンに縋りついた。

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