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無常因果的終結(終末)
157:屍山血河(五)
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(変だな、瞋九龍は吾太雪が暴露したときも何もしようとはしなかった。そして瞋熱燿が今から言おうとしていることだって、想像がつくはずだ。なのに反論すらしようとしないなんて……一体どういうことだ?)
考えられることは、彼にとって己の正体を暴露するということはさしたる痛手ではないということ。しかしなぜなのかは分からない。
瞋熱燿は煬鳳たちに促され、震える声で語りだす。
「み、みなさん! 吾谷主の仰っていることは事実です! 僕は、お爺様……瞋砂門の秘密の地下室で無数の白骨を発見しました! 瞋九龍は、僕のお爺様だと思っていた人は、人ではなかった! 火龍だったのです!」
煬鳳たちは瞋熱燿の霊脈を封じた人物が瞋九龍であると、彼の行動から既に分かっている。しかしそれを彼らにどう説明したらいいのか分からず、まとまりのない言葉で説明する瞋熱燿。
普段なら誰かしら疑問を呈す気がするのだが、このときばかりは長年閉閑していたはずの吾太雪が現れ、彼が瞋九龍に捕らえられていたと語っていたこともあり、皆その場の雰囲気に流され誰一人異議を唱える者はいなかった。
その場にいた全員の視線が瞋九龍へと注がれる。
「くっ……ははははははははははははははははは!」
突然笑い出した瞋九龍に気圧され、後退る者も幾ばくか。気がふれたかのように瞋九龍は笑い続け、先ほどまでみな剣を交え戦っていたことすらも忘れるほどの静けさと異様な雰囲気が漂っていた。
「笑止! だったら何だというのだ? 儂の体は火龍殺の瞋九龍であり、中に秘めたるは火龍の心智。貴様らが束になっても、儂に勝つことなどできようはずもない。どうだ?」
瞋九龍の目が怪しい煌めきを帯びる。目は龍の眼が如く細められ、鋭く冷たい殺意が顔を出す。圧倒的な気迫の前に誰もがみな彼に向かっていくことすら忘れてしまうほどだった。
「ひとつ――聞きたい」
言葉を発したのは静泰還だ。誰よりも物静かな彼が誰よりも早く口を開いたことに皆が驚く。
「ふむ、いいだろう。聞いてやらんでもないぞ?」
瞋九龍は火龍であると宣言したも同然だ。にもかかわらず、彼はいつもの盟主かのような振る舞いで静泰還の言葉に応えた。
「清林峰が五行盟にまだ所属していたとき。清林峰に神薬があると、ありもしない噂を流し、他の門派が清林峰を襲うように扇動したのは瞋九龍、そなただな」
煬鳳と凰黎はまさかいま、静泰還がその話を出してくるとは思ってもいなかったので顔を見合わせはっと息を飲む。
(そうか、嶺主様は……ずっとそのことを抱えていたんだ……)
大切な妻子を一度に失った静泰還の気持ちを思えば、そして凰黎や塘湖月がいかに彼を父のように慕っていても頑なに嶺主としか呼ばなかった理由を考えれば、彼の悲痛な想いはいかほどだろうか。
「はん。だったらどうなんだ?」
「はっきり答えろ!」
普段は物静かで温厚な静泰還。彼がいま、激しい怒りを瞋九龍に燃やし彼のことを睨みつけている。今にも斬りかからんばかりの勢いで。
その事実にみなは驚き、止めることもせず呆然と成り行きを見守っている。
瞋九龍はといえば、怒る静泰還とは対照的ににやにやと口の端を歪めながら笑っていた。
「おお、そうだ。そういえばあの一件でお前の妻子は蓬静嶺の襲撃に巻き込まれて命を落としたのだったな。……あのときは随分長い間お前が五行盟に顔も出さなくなり、五行盟存続すら危うくなってさすがに焦ったわい」
「私の質問に答えよ!」
「ああ、怒鳴るな。喚くな。……いいだろう、教えてやろう。結論から言えばその通りだ」
静泰還がすぐにでも瞋九龍に斬りかかろうとしたことに煬鳳は気づく。吾太雪を鉄鉱力士に任せると、己は静泰還を止める為に走り出す。しかし誰よりも彼の傍にいた凰黎のほうが行動が早く、すぐさま飛び掛かろうとした静泰還を背後から抑え込む。
「嶺主様! お気持ちはもっともです! ですが、まだ全てを聞き出すまではどうか辛抱下さい!」
静泰還はそれでも凰黎を振り払おうとしたが、追いついた煬鳳も凰黎と共に彼を止めようとしたため、止む無く静泰還は剣を降ろした。彼の手はまだ震えている。普段の彼は人前であのように感情をむき出しにしたことなど、ただの一度もない。それだけに、静泰還の見せた怒りは煬鳳をひどく驚かせた。
「良い弟子を持って羨ましいことだ」
皮肉めいた言い方をする瞋九龍の言葉に、静泰還は睨みつける。けれど瞋九龍はそんな静泰還を、さも楽しそうな顔で一瞥し口の端をあげた。
「まあ、待て。まだ質問に答えてはおらぬだろう? そもそも、なぜ儂が五行盟などというものを作ったと思う? 睡龍の地を守るという大義名分のもと、妖邪退治にかこつけて復活のための養分を補給するため。儂が蘇るための都合のいい養分を管理するため。そして、儂に歯向かえるほどの強力な存在は、復活の前に確実に消しておくため――」
当然といえば当然なのだが、よもや五行盟を発足させたときから既に瞋九龍には火龍の意識しかなかったのだ。つまり、五行盟は平和のためなどではなく――瞋九龍の、火龍の都合によって作られたということになる。
「それで先ほどの話に戻るわけだが。まあ、なんだ? 清林峰はつまるところ、強大になりすぎた。奴らは傷を癒やし病を快癒させることに長け、尚且つ雷まで操ることができる。とんでもない厄介な相手だった」
「まさか……! それだけの理由で!?」
遠くで見守っていた清粛が叫んだ。
一瞥もせず、瞋九龍は言葉を続ける。
「……人間というのは欲深いものだ。清林峰は神薬を持っていて、それを己のためだけに使おうとしている。他の者たちにやる気はない――そう囁いてやるだけで誰もが清林峰を敵視する。……特に不治の病の家族を持つものたちには効果てきめんだ。あっという間に清林峰を襲撃する話は膨れ上がり、あとのことについては儂の知らぬところよ。彼らが勝手にやったこと」
「貴様! 貴様のせいで沢山の人が犠牲になったのだぞ!」
静泰還を見下ろす瞋九龍の眼差しは、人のものとは異なっていた。既に彼の言動や態度、全てにおいての発言が火龍としての立ち位置に変わっているのだ。
瞋九龍は痛な表情を浮かべ額に手をやって嘆く。
「――嶺主の妻子がいたことは本当に不運なことであった。いかに儂とて、そこまで計算していたわけではない。人の欲望とはまことに恐ろしいもの。みなが疑心暗鬼に陥った結果、あのような悲劇的な末路を辿るとは……」
「ふざけるな! お前が、御膳立てしたんだろ!」
堪らず煬鳳は叫んだ。そうでもしなければ、静泰還が真っ先に飛び掛かると思ったからだ。
「小僧。御膳立てしたからといって、こうなると予想して儂が仕組んだわけではない。儂はただ火種を撒いたに過ぎぬのだ。それを燃え盛る炎に変えたのは、他でもない清林峰を取り巻く門派たちの浅ましさゆえよ」
「聞き捨てなりません」
瞋九龍に言い放ったのは凰黎だ。それまで静泰還を止めることに専念していた彼だったが、瞋九龍の言葉を聞いて口を開いた。
「瞋砂門だって清林峰を襲撃しましたよね? 瞋砂門の掌門は三百年前から変わらず貴方です。口では仕組んだだけ、周りの者が燃やしたのだと仰いますが、思うような効果が得られなかったときに備えて瞋砂門の門弟たちを引き連れて襲撃に参加したのでしょう? 結局、貴方はどうあっても清林峰を滅ぼすつもりだった。違いますか?」
「はっはっは!! 鋭いな! 実に明察秋毫たる君子なり。儂の手駒でなかったことが実に惜しい。そなたの言う通りだ」
満足げに褒めちぎった瞋九龍に対し、凰黎は心底嫌そうな表情を彼に向ける。
「当時の清林峰は無償で貧しい人の怪我や病気を診てあげていたそうです。そして門派に関係なく、困っている人たちの力になろうとしていた。そんな彼らを、貴方の勝手な言い分で滅ぼそうとすることなどあっていいわけがありません!」
「静公子よ。それが一体どうしたというのだ? 人の命など火龍にとっては海に浮かぶ藻屑も同じ。そんな奴らがこの儂を動けないほどに打ち倒した……こんな屈辱があってなるものか!」
吹き上がる憤怒を燃え盛る炎のように吐き散らし、瞋九龍はその場にいた全てのものに向かって怒声をあげた。
「だからこそ――儂は、儂を倒した瞋九龍に成り代わってやろうと思ったのだ。復活までの間、奴の体を利用させて貰うことにした。いかに強い力を持っていようとも所詮は人であり、乗っ取ることは容易きこと。ついでに奴らの子孫にも、気取られぬよう霊脈を封じてやったのよ」
龍とかここまで恐ろしいものなのか――目の前にいるのは人の姿をした、心智だけが龍のはずなのに。なぜこうも彼の怒りが浴びせられるたびに、足が震えるのだろう。
決して怖じ気づいたわけではない。それでも彼の発言の一つ一つが、あまりに人気離れした考えだったので、人と龍との考え方の隔たりに対し煬鳳は戦慄した。
同時に瞋九龍の子孫たち、瞋熱燿や彼の父親や祖父たちが理不尽に力を奪われたことが気の毒でならない。本来なら彼らだって幼い頃よりもっと才能を花開かせる機会があったことだろう。
瞋熱燿は愕然とするあまり、言葉も出せず煬鳳の背後で震えている。怒りをぶつけていいのか、悲しんでいいのかわからないのだ。自分が瞋九龍だと思っていたものは火龍であり、しかし彼が生まれたときからずっと瞋九龍は火龍であった。
お爺様と呼べばいいのか、火龍と呼べばいいのか。
しかし彼にとっての高祖父は、紛れもなく目の前にいる。
火龍の心智を宿す瞋九龍その人なのだ。
考えられることは、彼にとって己の正体を暴露するということはさしたる痛手ではないということ。しかしなぜなのかは分からない。
瞋熱燿は煬鳳たちに促され、震える声で語りだす。
「み、みなさん! 吾谷主の仰っていることは事実です! 僕は、お爺様……瞋砂門の秘密の地下室で無数の白骨を発見しました! 瞋九龍は、僕のお爺様だと思っていた人は、人ではなかった! 火龍だったのです!」
煬鳳たちは瞋熱燿の霊脈を封じた人物が瞋九龍であると、彼の行動から既に分かっている。しかしそれを彼らにどう説明したらいいのか分からず、まとまりのない言葉で説明する瞋熱燿。
普段なら誰かしら疑問を呈す気がするのだが、このときばかりは長年閉閑していたはずの吾太雪が現れ、彼が瞋九龍に捕らえられていたと語っていたこともあり、皆その場の雰囲気に流され誰一人異議を唱える者はいなかった。
その場にいた全員の視線が瞋九龍へと注がれる。
「くっ……ははははははははははははははははは!」
突然笑い出した瞋九龍に気圧され、後退る者も幾ばくか。気がふれたかのように瞋九龍は笑い続け、先ほどまでみな剣を交え戦っていたことすらも忘れるほどの静けさと異様な雰囲気が漂っていた。
「笑止! だったら何だというのだ? 儂の体は火龍殺の瞋九龍であり、中に秘めたるは火龍の心智。貴様らが束になっても、儂に勝つことなどできようはずもない。どうだ?」
瞋九龍の目が怪しい煌めきを帯びる。目は龍の眼が如く細められ、鋭く冷たい殺意が顔を出す。圧倒的な気迫の前に誰もがみな彼に向かっていくことすら忘れてしまうほどだった。
「ひとつ――聞きたい」
言葉を発したのは静泰還だ。誰よりも物静かな彼が誰よりも早く口を開いたことに皆が驚く。
「ふむ、いいだろう。聞いてやらんでもないぞ?」
瞋九龍は火龍であると宣言したも同然だ。にもかかわらず、彼はいつもの盟主かのような振る舞いで静泰還の言葉に応えた。
「清林峰が五行盟にまだ所属していたとき。清林峰に神薬があると、ありもしない噂を流し、他の門派が清林峰を襲うように扇動したのは瞋九龍、そなただな」
煬鳳と凰黎はまさかいま、静泰還がその話を出してくるとは思ってもいなかったので顔を見合わせはっと息を飲む。
(そうか、嶺主様は……ずっとそのことを抱えていたんだ……)
大切な妻子を一度に失った静泰還の気持ちを思えば、そして凰黎や塘湖月がいかに彼を父のように慕っていても頑なに嶺主としか呼ばなかった理由を考えれば、彼の悲痛な想いはいかほどだろうか。
「はん。だったらどうなんだ?」
「はっきり答えろ!」
普段は物静かで温厚な静泰還。彼がいま、激しい怒りを瞋九龍に燃やし彼のことを睨みつけている。今にも斬りかからんばかりの勢いで。
その事実にみなは驚き、止めることもせず呆然と成り行きを見守っている。
瞋九龍はといえば、怒る静泰還とは対照的ににやにやと口の端を歪めながら笑っていた。
「おお、そうだ。そういえばあの一件でお前の妻子は蓬静嶺の襲撃に巻き込まれて命を落としたのだったな。……あのときは随分長い間お前が五行盟に顔も出さなくなり、五行盟存続すら危うくなってさすがに焦ったわい」
「私の質問に答えよ!」
「ああ、怒鳴るな。喚くな。……いいだろう、教えてやろう。結論から言えばその通りだ」
静泰還がすぐにでも瞋九龍に斬りかかろうとしたことに煬鳳は気づく。吾太雪を鉄鉱力士に任せると、己は静泰還を止める為に走り出す。しかし誰よりも彼の傍にいた凰黎のほうが行動が早く、すぐさま飛び掛かろうとした静泰還を背後から抑え込む。
「嶺主様! お気持ちはもっともです! ですが、まだ全てを聞き出すまではどうか辛抱下さい!」
静泰還はそれでも凰黎を振り払おうとしたが、追いついた煬鳳も凰黎と共に彼を止めようとしたため、止む無く静泰還は剣を降ろした。彼の手はまだ震えている。普段の彼は人前であのように感情をむき出しにしたことなど、ただの一度もない。それだけに、静泰還の見せた怒りは煬鳳をひどく驚かせた。
「良い弟子を持って羨ましいことだ」
皮肉めいた言い方をする瞋九龍の言葉に、静泰還は睨みつける。けれど瞋九龍はそんな静泰還を、さも楽しそうな顔で一瞥し口の端をあげた。
「まあ、待て。まだ質問に答えてはおらぬだろう? そもそも、なぜ儂が五行盟などというものを作ったと思う? 睡龍の地を守るという大義名分のもと、妖邪退治にかこつけて復活のための養分を補給するため。儂が蘇るための都合のいい養分を管理するため。そして、儂に歯向かえるほどの強力な存在は、復活の前に確実に消しておくため――」
当然といえば当然なのだが、よもや五行盟を発足させたときから既に瞋九龍には火龍の意識しかなかったのだ。つまり、五行盟は平和のためなどではなく――瞋九龍の、火龍の都合によって作られたということになる。
「それで先ほどの話に戻るわけだが。まあ、なんだ? 清林峰はつまるところ、強大になりすぎた。奴らは傷を癒やし病を快癒させることに長け、尚且つ雷まで操ることができる。とんでもない厄介な相手だった」
「まさか……! それだけの理由で!?」
遠くで見守っていた清粛が叫んだ。
一瞥もせず、瞋九龍は言葉を続ける。
「……人間というのは欲深いものだ。清林峰は神薬を持っていて、それを己のためだけに使おうとしている。他の者たちにやる気はない――そう囁いてやるだけで誰もが清林峰を敵視する。……特に不治の病の家族を持つものたちには効果てきめんだ。あっという間に清林峰を襲撃する話は膨れ上がり、あとのことについては儂の知らぬところよ。彼らが勝手にやったこと」
「貴様! 貴様のせいで沢山の人が犠牲になったのだぞ!」
静泰還を見下ろす瞋九龍の眼差しは、人のものとは異なっていた。既に彼の言動や態度、全てにおいての発言が火龍としての立ち位置に変わっているのだ。
瞋九龍は痛な表情を浮かべ額に手をやって嘆く。
「――嶺主の妻子がいたことは本当に不運なことであった。いかに儂とて、そこまで計算していたわけではない。人の欲望とはまことに恐ろしいもの。みなが疑心暗鬼に陥った結果、あのような悲劇的な末路を辿るとは……」
「ふざけるな! お前が、御膳立てしたんだろ!」
堪らず煬鳳は叫んだ。そうでもしなければ、静泰還が真っ先に飛び掛かると思ったからだ。
「小僧。御膳立てしたからといって、こうなると予想して儂が仕組んだわけではない。儂はただ火種を撒いたに過ぎぬのだ。それを燃え盛る炎に変えたのは、他でもない清林峰を取り巻く門派たちの浅ましさゆえよ」
「聞き捨てなりません」
瞋九龍に言い放ったのは凰黎だ。それまで静泰還を止めることに専念していた彼だったが、瞋九龍の言葉を聞いて口を開いた。
「瞋砂門だって清林峰を襲撃しましたよね? 瞋砂門の掌門は三百年前から変わらず貴方です。口では仕組んだだけ、周りの者が燃やしたのだと仰いますが、思うような効果が得られなかったときに備えて瞋砂門の門弟たちを引き連れて襲撃に参加したのでしょう? 結局、貴方はどうあっても清林峰を滅ぼすつもりだった。違いますか?」
「はっはっは!! 鋭いな! 実に明察秋毫たる君子なり。儂の手駒でなかったことが実に惜しい。そなたの言う通りだ」
満足げに褒めちぎった瞋九龍に対し、凰黎は心底嫌そうな表情を彼に向ける。
「当時の清林峰は無償で貧しい人の怪我や病気を診てあげていたそうです。そして門派に関係なく、困っている人たちの力になろうとしていた。そんな彼らを、貴方の勝手な言い分で滅ぼそうとすることなどあっていいわけがありません!」
「静公子よ。それが一体どうしたというのだ? 人の命など火龍にとっては海に浮かぶ藻屑も同じ。そんな奴らがこの儂を動けないほどに打ち倒した……こんな屈辱があってなるものか!」
吹き上がる憤怒を燃え盛る炎のように吐き散らし、瞋九龍はその場にいた全てのものに向かって怒声をあげた。
「だからこそ――儂は、儂を倒した瞋九龍に成り代わってやろうと思ったのだ。復活までの間、奴の体を利用させて貰うことにした。いかに強い力を持っていようとも所詮は人であり、乗っ取ることは容易きこと。ついでに奴らの子孫にも、気取られぬよう霊脈を封じてやったのよ」
龍とかここまで恐ろしいものなのか――目の前にいるのは人の姿をした、心智だけが龍のはずなのに。なぜこうも彼の怒りが浴びせられるたびに、足が震えるのだろう。
決して怖じ気づいたわけではない。それでも彼の発言の一つ一つが、あまりに人気離れした考えだったので、人と龍との考え方の隔たりに対し煬鳳は戦慄した。
同時に瞋九龍の子孫たち、瞋熱燿や彼の父親や祖父たちが理不尽に力を奪われたことが気の毒でならない。本来なら彼らだって幼い頃よりもっと才能を花開かせる機会があったことだろう。
瞋熱燿は愕然とするあまり、言葉も出せず煬鳳の背後で震えている。怒りをぶつけていいのか、悲しんでいいのかわからないのだ。自分が瞋九龍だと思っていたものは火龍であり、しかし彼が生まれたときからずっと瞋九龍は火龍であった。
お爺様と呼べばいいのか、火龍と呼べばいいのか。
しかし彼にとっての高祖父は、紛れもなく目の前にいる。
火龍の心智を宿す瞋九龍その人なのだ。
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