如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

文字の大きさ
18 / 77
兄上は幽霊がお好き

03-04:四条大路の幽霊騒ぎ

しおりを挟む
 弘継から伝えられた四条大路までたどり着いた昂明達は、それとなく周辺の様子を窺いながら歩く。佐保川を抜けた辺りは既に桜も咲き始めており、少女の『桜』も嬉しそうだ。ここまでやってた本来の目的を忘れて、ついのんびりと過ごしたくなってしまう。

「銀、暫くこの辺りで桜と一緒に待っていて貰えないか。俺は幽霊の情報を集めてくる」
「いいのか、一人で」
「折角の景色だ。それに桜も喜んでいるしな。半刻ほどで戻るよ」

 そこで昂明は桜の相手を銀に任せ、一人で幽霊を探すことにした。
 弘継の言った通り、件の邸の辺りでは幽霊の話はかなり知られるところだったらしい。
 女の幽霊を見た。声を掛けたら、姿が消えてしまった。振りむいた顔は髪の毛で殆ど隠れていて、髪の間から見えたのは恐ろしい形相だった、などなど。大体は弘継が体験したものと同じような内容ばかり。

 しかし目撃談だけかと思えばそうでもない。
 噂話の好きな者たちの井戸端会議によれば、幽霊の正体は身分違いの恋を儚んで命を絶った娘の幽霊だ、駆け落ちに失敗した姫君だ、など様々な憶測が飛び交っている。しかしその中で何より気になった噂話は、さる美しい公卿に捨てられて悲しみのあまり病に臥せり亡くなった、姫君は恋した男が戻ってくるのを待ち続けるために今もこの辺りに立っているのだ、というものだ。

 他の話がざっくりと「悲劇の末に亡くなった姫・娘」という話にも関わらず、この噂だけは妙に端々が細かく伝わっている。
 『さる美しい公卿』『病に臥せり亡くなった』『何故現れるのか』ということまでやたら細かい。

(もしかして、誰かが意図的に噂を広めているのではないだろうか)

 そんな考えが過ぎる。
 弘継が嘘をついているとは思えない。それならば、やはり幽霊騒ぎは何者かが意図的に起こしていると考えても良い気がする。
 ではそれが何者か、姫君は一体誰なのか。
 それを探ろうと考えたのだが……。

「本当に申し訳なかった……」

 結局銀と桜の元に戻ったのは半刻をもう少し過ぎた頃。怒る銀に昂明は平謝りで詫びた。力は人並みにはあるが、銀のように太刀を使いこなすことは出来ない。約束の刻限までに戻ってこない昂明のことを銀は大層心配していたのだ。

「それで、幽霊の正体は分かったのか?」
「ある程度は。後は本物にご対面してからの方が早いかもしれないな」
「本物?」

 訝しげな顔で銀が聞き返す。

「そう。折角なら幽霊に会って行こうじゃねぇか」
「しかし本当に会えるものだろうか……」
「それは何とも言えないな。でも、どの道ここまで来たんだ。試してみるのも悪くないだろうってな」
「それは、確かにな。でも会えたとしてどうするつもりなんだ?」

 銀の疑問はもっともだ。昂明はそんな銀と、そして桜の方を見やる。

「そこでだ。ここは俺達三人で役割を分担しようと思っている」
「分担? わたしも?」
「そう。桜もだ」

 昂明の言葉に、桜の瞳が輝いた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

処理中です...