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兄上は幽霊がお好き
03-05:幽霊は走る
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夜が更けるのを待って、幽霊が出ると噂される場所に昂明達は出向いた。勿論、道を歩くのは昂明一人だ。桜は少し離れた場所で銀と待機することになった。
人通りも減ってきた頃を見計らい、目迎情報のあった通りをゆっくりと歩く。本当に出るという確証はなかったが、恐らく幽霊は人に目撃されたいのだろう、そう考えて試してみることにしたのだ。
暫く歩いた後、柳の影に佇む女が居ることに気が付いた。女はどうやら泣いているらしく、目を凝らすと肩が揺れている。
きっと噂の幽霊だろう。
そう考えて昂明は知らぬふりをして「もし、何故泣いておられるのですか」と女に声を掛けた。
女はちらりと振り返り昂明を見た後で、
「あな恨めしい」
と言うや否や走り出す。
心の準備はしていたはずなのだが、あまりに唐突で一瞬出遅れた。銀がしっかり追っていることを祈りつつ女の姿を目で追うと、暫く進んだ先の門で曲がったように見える。やはりな、と思っていたところ後ろから桜の声がした。
「昂明さま!」
桜が追いついたことを見届けると、昂明は女の走った方へと歩き出す。
「桜。銀は?」
「今、追いかけているわ。わたし達も早く追いかけましょう!」
今すぐ走らんとする桜だが、桜が走るのと昂明が大股で歩く程度で丁度いい。それが面白くなかったのか「昂明さま、ずるい」と桜には文句を言われてしまい、苦笑するしかなかった。
女の曲がった場所で昂明達も曲がると、少し先に銀が立っていた。
「銀」
「昂明。見届けたぞ」
「助かる」
どうやら銀は、幽霊の後をちゃんと追えたらしい。
それでどこに行ったのかと尋ねれば、すぐそばの築地塀を指差して「ここだ」と言う。
「ここって、築地塀だけど……」
「そう。この塀の中だ」
そう言うと銀は築地塀に手で触れる。色合いは他の場所と同じだが、よく見れば明らかに作りが異なっていた。どうやらそれは木で出来ているらしい。
「これは……通用門か」
「そのようだ。幽霊が出るのは夜で暗い。上から漆喰を塗って目立ちにくいよう誤魔化しているし、柳で隠れているから気づかれにくいんだろうな」
普通に考えて態々そんな手の込んだことはしないはず。ということはやはりこの家のものが幽霊騒ぎに関わっていると考えるのが普通だろう。顔を近づけまじまじと見ていれば、独特の香りが鼻腔をくすぐった。
「そうだ。桜」
「なあに? 昂明さま」
「桜は薫物の香りはどれくらい分かるんだ?」
「薫物? えーと、どのくらいかは分からないけど、基本的な香りは分かると思う!」
本人は気づいてはいないだろうが、それなりに裕福な受領か貴族の娘でなければ薫物の種類など分かるはずもない。やはり桜は貴族の娘に違いはないのだ。
「この扉の周りの香り、何か薫物の香りだと思うんだけど……なんの香りか分かるか?」
しかし今それを指摘するのは得策ではない。今もっとも知りたいことを、昂明は桜に尋ねた。
「待ってね。え~と……」
扉に顔を近づけて、暫く考えた後で桜は頷く。
「うん。『梅花』よ、これ」
「ということは、やはり……!」
桜の様子を窺っていた銀が昂明を見る。
「幽霊はこの家の者で間違いないようだな」
昂明も銀に頷き返し、そして築地塀を見上げた。
人通りも減ってきた頃を見計らい、目迎情報のあった通りをゆっくりと歩く。本当に出るという確証はなかったが、恐らく幽霊は人に目撃されたいのだろう、そう考えて試してみることにしたのだ。
暫く歩いた後、柳の影に佇む女が居ることに気が付いた。女はどうやら泣いているらしく、目を凝らすと肩が揺れている。
きっと噂の幽霊だろう。
そう考えて昂明は知らぬふりをして「もし、何故泣いておられるのですか」と女に声を掛けた。
女はちらりと振り返り昂明を見た後で、
「あな恨めしい」
と言うや否や走り出す。
心の準備はしていたはずなのだが、あまりに唐突で一瞬出遅れた。銀がしっかり追っていることを祈りつつ女の姿を目で追うと、暫く進んだ先の門で曲がったように見える。やはりな、と思っていたところ後ろから桜の声がした。
「昂明さま!」
桜が追いついたことを見届けると、昂明は女の走った方へと歩き出す。
「桜。銀は?」
「今、追いかけているわ。わたし達も早く追いかけましょう!」
今すぐ走らんとする桜だが、桜が走るのと昂明が大股で歩く程度で丁度いい。それが面白くなかったのか「昂明さま、ずるい」と桜には文句を言われてしまい、苦笑するしかなかった。
女の曲がった場所で昂明達も曲がると、少し先に銀が立っていた。
「銀」
「昂明。見届けたぞ」
「助かる」
どうやら銀は、幽霊の後をちゃんと追えたらしい。
それでどこに行ったのかと尋ねれば、すぐそばの築地塀を指差して「ここだ」と言う。
「ここって、築地塀だけど……」
「そう。この塀の中だ」
そう言うと銀は築地塀に手で触れる。色合いは他の場所と同じだが、よく見れば明らかに作りが異なっていた。どうやらそれは木で出来ているらしい。
「これは……通用門か」
「そのようだ。幽霊が出るのは夜で暗い。上から漆喰を塗って目立ちにくいよう誤魔化しているし、柳で隠れているから気づかれにくいんだろうな」
普通に考えて態々そんな手の込んだことはしないはず。ということはやはりこの家のものが幽霊騒ぎに関わっていると考えるのが普通だろう。顔を近づけまじまじと見ていれば、独特の香りが鼻腔をくすぐった。
「そうだ。桜」
「なあに? 昂明さま」
「桜は薫物の香りはどれくらい分かるんだ?」
「薫物? えーと、どのくらいかは分からないけど、基本的な香りは分かると思う!」
本人は気づいてはいないだろうが、それなりに裕福な受領か貴族の娘でなければ薫物の種類など分かるはずもない。やはり桜は貴族の娘に違いはないのだ。
「この扉の周りの香り、何か薫物の香りだと思うんだけど……なんの香りか分かるか?」
しかし今それを指摘するのは得策ではない。今もっとも知りたいことを、昂明は桜に尋ねた。
「待ってね。え~と……」
扉に顔を近づけて、暫く考えた後で桜は頷く。
「うん。『梅花』よ、これ」
「ということは、やはり……!」
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「幽霊はこの家の者で間違いないようだな」
昂明も銀に頷き返し、そして築地塀を見上げた。
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