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勅使がやってきた
06-02:勅使のお願い事
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それから京の都では良くない噂が時折聞こえてくるようになった。暫く臥せっていた帝の容態が、いよいよ危ないのではないかという噂だ。
市座へ食材を買い求めに行った際も、皆その話で持ちきりだった。
当然その話は、銀にも聞こえてくるわけで……笛を見つめながら、物思いに耽る姿を見かける回数が増えたように思う。
事が動き始めたのはそれから暫く後のこと。
勅使が刀岐の邸にやってきた。
「本日は陰陽師刀岐昂明殿とその式神に、帝より勅命を奉じてこちらに参った次第です」
勅使は昂明達に向かって驚くほど丁寧に頭を下げた。
「いや……ちょっと待ってくださいよ……」
帝から!?
二度ほど聞き違いかと昂明は聞き返したのだが、二度とも「そうです」と同じ言葉を返される。
「以前の加持祈祷の際に刀岐昂明殿は参内なさらなかったようでしたので帝が是非、刀岐氏の陰陽師殿とその式神にも加持祈祷を頼みたいと仰せで御座います。陰陽寮全体に申したのでは埒が明かぬと帝はお考えになり、こうして私をあなた様の元に寄越したというわけです」
参った。
どのような言い訳をしてはぐらかそうかと考えたのだが、帝からの直々な話とあっては断ることなど不可能だ。確かに前回は皆が加持祈祷に向かう中、昂明一人五条大橋の放火の祓に行かされた。しかしそれは昂明のせいではなく、ほかの者たちが昂明を邪魔者扱いしたせいだ。
まさか、そのことをまさか帝から言われるとは思わなかったのだ……。
「ええと……東宮さまや内親王さまはこのことをご存じなのでしょうか。一介の陰陽師、しかも安倍晴明公を差し置いて私のような若輩者がそのような大役を仰せ使うなどと……」
「ご安心下さい陰陽師殿。勿論陰陽頭を始め一部の陰陽寮の者たちも加持祈祷の為参内する手はずとなっております。東宮さまも内親王さまも、近衛中将さまの疑いを晴らすため、夜の京を駆け抜けた式神の噂はご存じのようです。特に東宮さまは噂に名高い美しき式神の姿を是非とも御覧になりたいと仰せで御座います。なんなら自ら直々にこちらに出向くとまで仰って……」
参った。
「帝はいよいよご自身の天命が尽きると覚悟しておられるようで……しかし、もしかしたら、巷で話題になっている強く美しい式神を連れる有能な陰陽師殿が加持祈祷をしたならば。患っている病も良くなるのではないかとも仰っております」
聞いているうちに「ちょっと待て」という思いがこみ上げる。
一縷の望みを懸けているにしては後半部分はなんだか胡散臭くないだろうか。
しかし相手は勅使。そんなことは言えるはずも無い。
「帝の願いを、聞き届けて下さいますよ……ね?」
当然ですよね、とばかりに勅使は昂明を見つめている。
――勅命を断ることができる者がいるはずも無い。
思わず鶯宿梅の話を思い出してしまったが、昂明には勅使に歌を託すような度胸は無かった。
――大変恐れ多いことなのだが、念のため一度陰陽頭に相談しても良いか。
勅命なんだから相談もくそもないのだが、いきなりすぎて心の準備が何も出来ていない。やっとの思いで昂明は勅使に懇願すると、勅使も「確かに」と一応は納得をして、改めてもう一度返事を聞くため訪れることを約束して去っていった。
「大変なことになったな」
勅使が帰った後、衝立の陰に隠れて様子を窺っていた銀が姿を現す。
「他人事みたいに言うな。内裏はまずいだろう」
「不味いな、たしかに……」
しかし勅命ならば断る手段は一切無い。昂明達に出来ることと言えば、何事もなく加持祈祷を終えるよう、祈ることだけ。
(名指ししてきた時点で、絶対何かあると思うんだよな)
もしや銀の素性を知って、帝はわざと昂明達を呼びつけようとしているのだろうか。病の振りをして……いや、もしかしたら本当に死にそうで、最後に一目だけでも会いたいということなのかもしれないが。
市座へ食材を買い求めに行った際も、皆その話で持ちきりだった。
当然その話は、銀にも聞こえてくるわけで……笛を見つめながら、物思いに耽る姿を見かける回数が増えたように思う。
事が動き始めたのはそれから暫く後のこと。
勅使が刀岐の邸にやってきた。
「本日は陰陽師刀岐昂明殿とその式神に、帝より勅命を奉じてこちらに参った次第です」
勅使は昂明達に向かって驚くほど丁寧に頭を下げた。
「いや……ちょっと待ってくださいよ……」
帝から!?
二度ほど聞き違いかと昂明は聞き返したのだが、二度とも「そうです」と同じ言葉を返される。
「以前の加持祈祷の際に刀岐昂明殿は参内なさらなかったようでしたので帝が是非、刀岐氏の陰陽師殿とその式神にも加持祈祷を頼みたいと仰せで御座います。陰陽寮全体に申したのでは埒が明かぬと帝はお考えになり、こうして私をあなた様の元に寄越したというわけです」
参った。
どのような言い訳をしてはぐらかそうかと考えたのだが、帝からの直々な話とあっては断ることなど不可能だ。確かに前回は皆が加持祈祷に向かう中、昂明一人五条大橋の放火の祓に行かされた。しかしそれは昂明のせいではなく、ほかの者たちが昂明を邪魔者扱いしたせいだ。
まさか、そのことをまさか帝から言われるとは思わなかったのだ……。
「ええと……東宮さまや内親王さまはこのことをご存じなのでしょうか。一介の陰陽師、しかも安倍晴明公を差し置いて私のような若輩者がそのような大役を仰せ使うなどと……」
「ご安心下さい陰陽師殿。勿論陰陽頭を始め一部の陰陽寮の者たちも加持祈祷の為参内する手はずとなっております。東宮さまも内親王さまも、近衛中将さまの疑いを晴らすため、夜の京を駆け抜けた式神の噂はご存じのようです。特に東宮さまは噂に名高い美しき式神の姿を是非とも御覧になりたいと仰せで御座います。なんなら自ら直々にこちらに出向くとまで仰って……」
参った。
「帝はいよいよご自身の天命が尽きると覚悟しておられるようで……しかし、もしかしたら、巷で話題になっている強く美しい式神を連れる有能な陰陽師殿が加持祈祷をしたならば。患っている病も良くなるのではないかとも仰っております」
聞いているうちに「ちょっと待て」という思いがこみ上げる。
一縷の望みを懸けているにしては後半部分はなんだか胡散臭くないだろうか。
しかし相手は勅使。そんなことは言えるはずも無い。
「帝の願いを、聞き届けて下さいますよ……ね?」
当然ですよね、とばかりに勅使は昂明を見つめている。
――勅命を断ることができる者がいるはずも無い。
思わず鶯宿梅の話を思い出してしまったが、昂明には勅使に歌を託すような度胸は無かった。
――大変恐れ多いことなのだが、念のため一度陰陽頭に相談しても良いか。
勅命なんだから相談もくそもないのだが、いきなりすぎて心の準備が何も出来ていない。やっとの思いで昂明は勅使に懇願すると、勅使も「確かに」と一応は納得をして、改めてもう一度返事を聞くため訪れることを約束して去っていった。
「大変なことになったな」
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しかし勅命ならば断る手段は一切無い。昂明達に出来ることと言えば、何事もなく加持祈祷を終えるよう、祈ることだけ。
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