如何様陰陽師と顔のいい式神

銀タ篇

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勅使がやってきた

06-08:落ちる恋

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「宴の為に参内したのですが、一体何が起こったのでしょうか?」

 目の前に銀が受け止めた東宮がいることに気づくと、輝く君は慌てて東宮に近寄った。銀の手から東宮を抱き上げた輝く君は、心配そうに呼びかける。

「もし、しっかりしてください。怪我はありませんか?」
「う……ん……、あなたは……」

 東宮が目を開き、周りにいた皆からも安堵のため息が漏れる。

(あれ? 何か忘れているような……)

 そこまで考えて気づく。東宮を拐かそうとした賊の存在に。

「逃げるな! 全員捕らえよ!」

 頼央の号令が響き、あっという間に近衛府の役人と滝口たちが賊を取り囲んでしまった。どうやら先ほどの昂明の声で事態を察し、兵を率いて追いかけて来たらしい。

「いやあ、内親王さまがご無事で本当に良かった」

 役人たちが賊を連行していった後。頼央が昂明達のもとへやってきた。

「え、内親王さま?」

 一瞬、頼央が何を言っているのか分からなかった。銀も、桜もぽかんとしている。そして、輝く君さえも。
 いや、輝く君に至っては「え、東宮さま?」と言っているのでそもそもだれか気づいていない。恐らくだが。

「えっと、東宮さまじゃないの?」

 目の前で輝く君の腕の中にいるのは紛れもなく直衣姿の若い男。
 ……男?

「東宮は私だが……」

 こほんと小さく咳払いの音。振り返るとそこには、銀にとてもよく似た男性が立っている。

(間違いない、この人は東宮だ)

 慌てて銀が衣をかぶり直して顔を隠す。薄々頭では分かっていたのだが、想像以上に二人はそっくりなのだ。周りの者にまじまじと顔を比べられてしまっては、銀の秘密がばれてしまう。
 確か二人は同時に生まれたのだったなと、昂明は思い出す。先程の東宮……内親王が面影はあれどそっくりとまではいかなかったのは、そういうことだったのだ。

 流石の輝く君も女性である内親王の顔を垣間見る機会もそうそう無い。しかも男の装いをしているのだから尚更だ。だから東宮だとも思っていなかったし、まさか内親王――昼子内親王だったとは考えもつかなかったのだろう。

「あの、あの、助けて下さって有り難う御座います……」

 先程までの勝ち気な態度はどこ。
 何故かしおらしく輝く君の腕の中、ちゃっかりと身を寄せている。しかし見た目は完全に男だからなんだか不思議な光景だ。
 内親王を受け止めたのは銀なのだが、内親王はそれを知る由も無い。何より輝く君に助け起こされて、内親王の心は一気に輝く君に傾いたらしい。

 聞けば内親王は幼い頃より男勝りの性格で、動きづらい姫の格好をするよりも男のような姿を好んでいたのだとか。今回の誘拐未遂事件は恐らく内親王を東宮と間違えたことで起こってしまったのだろう。
 輝く君の牛車がたまたま賊の牛車とぶつかってくれたから事なきを得たのだが、そうでなかったら危ないところだった。

「しかし、牛車がぶつかっただけとはいえ、輝く君がいなかったら大変なことになっていただろうな」

 また出世して他の奴に恨まれるんじゃ無いか、と冗談めかして銀は笑っていた。
 そしてそれは昂明も同意見だ。

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