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勅使がやってきた
06-07:運のいい男
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「ねえ、あの、東宮さまでいらっしゃいますか?」
桜の言葉に男は不適な微笑みを見せる。その表情は……どこ悪戯をする子供の顔にも見えた。
「いかにも。儂は東宮夕貞だ。今宵はそなた達との宴席、まことに楽しみにしておるぞ」
はっはっは、と男らしい笑いを残し、東宮は梨壺の方へと向かう。そして昂明と桜は、その後ろ姿を呆然と見送ってしまった。
「なんか、東宮さま凄い迫力だったね……」
「気さくだけどなんか、追いつけなかったな……」
銀がああいう性格でなくて、心底良かったと思う。
その時だった。
「きゃーっ!」
突然の叫び声。
慌てて昂明達が声の方へと駆け出すと、入れ違いに男達とぶつかった。
「邪魔だどけ!」
柄の悪い男たちに体ごとぶつけられ、豪快に転ばされた昂明は桜に助け起こされる。
「昂明さま! あれ、見て!」
「嘘だろ!?」
男達はおよそ公卿には見えないぼろぼろの水干姿。そしてその中の一人が抱えているのは――先ほどまで話していた東宮だ。
「たいへん! 東宮さまが!」
「ちっ、ずらかるぞ!」
慌てて男達は東宮を抱えたまま走り去る。昂明も「大変だ! 誰か来てくれ!」と叫びながら男達を追って走り始めた。
何とか追いつこうとするのだが、昂明はあまり身軽なほうではない。周りにいる者たちも何が起こったのか理解していないのでおろおろとするばかりだ。
そうこうしているうちに賊たちは門の向こうへと突き進む。戸惑う衛士たちを振り切って更に進んでゆく。
「あいつらを捕まえてくれ! 東宮さまが!」
と息も絶え絶えに叫ぶのだが、あまりにも唐突な出来事で皆状況が飲み込めぬまま呆然としているばかり。
しかも、あろうことか男達はいずこかに隠していた牛車に東宮を乗せ、自らも乗り込んでしまった。こうなると足では追いつけない。必死で追いかけるのだが、距離はどんどんと離されてゆく。
「嘘だろ!? ここは大内裏なんだぞ!?」
誰かの牛車に乗り込もうにも、余程の事情が無い限り牛車で大内裏の中を走るなどあり得ない。
大内裏の外へと繋がる宮城門は、もうすぐそこまで見えている。
「不味いな、外に出られちまったら捕まえられねえぞ!」
(こんな時、銀が居てくれたら……)
清涼殿に置いてきた式神の姿が過る。自称式神とはいえどそう都合良く現れるはずも無い。
万事休すだと思ったその時――。
「昂明!」
その瞬間に背後から白い影が昂明達を追い越した。
「銀!」
「任せろ!」
走り抜けるその姿を見て、事情も知らぬ誰もが感嘆の声を漏らす。銀色の髪の美しい式神。
皆その姿に釘付けだった。
風のように駆け抜ける銀が、男達に肉薄しようとしたその時だ。
「危ない!」
昂明の叫びも虚しく、男達の牛車は丁度門の前にやってきた牛車と正面衝突してしまった。凄まじい衝撃音が辺りに響き渡る。
「東宮さま!」
御簾の奥からはじき出された東宮の体を、すんでのところで銀が抱き留めた。
驚くことに、賊の牛車は衝撃で壊れてしまったにも関わらず、相手の牛車は殆ど無傷といっても差し支えない。
恐らく、よっぽどしっかりした牛車なのだろう。
(ある意味、この牛車に助けられたなあ……)
運が良かったともいう。
「なんだか凄い音がしたが……。一体どうしたのです?」
そんな牛車からひょっこりと顔を出したその人物……。その顔を見て昂明達は仰天した。
「輝く君!? ……じゃない、近衛中将さま!?」
桜の言葉に男は不適な微笑みを見せる。その表情は……どこ悪戯をする子供の顔にも見えた。
「いかにも。儂は東宮夕貞だ。今宵はそなた達との宴席、まことに楽しみにしておるぞ」
はっはっは、と男らしい笑いを残し、東宮は梨壺の方へと向かう。そして昂明と桜は、その後ろ姿を呆然と見送ってしまった。
「なんか、東宮さま凄い迫力だったね……」
「気さくだけどなんか、追いつけなかったな……」
銀がああいう性格でなくて、心底良かったと思う。
その時だった。
「きゃーっ!」
突然の叫び声。
慌てて昂明達が声の方へと駆け出すと、入れ違いに男達とぶつかった。
「邪魔だどけ!」
柄の悪い男たちに体ごとぶつけられ、豪快に転ばされた昂明は桜に助け起こされる。
「昂明さま! あれ、見て!」
「嘘だろ!?」
男達はおよそ公卿には見えないぼろぼろの水干姿。そしてその中の一人が抱えているのは――先ほどまで話していた東宮だ。
「たいへん! 東宮さまが!」
「ちっ、ずらかるぞ!」
慌てて男達は東宮を抱えたまま走り去る。昂明も「大変だ! 誰か来てくれ!」と叫びながら男達を追って走り始めた。
何とか追いつこうとするのだが、昂明はあまり身軽なほうではない。周りにいる者たちも何が起こったのか理解していないのでおろおろとするばかりだ。
そうこうしているうちに賊たちは門の向こうへと突き進む。戸惑う衛士たちを振り切って更に進んでゆく。
「あいつらを捕まえてくれ! 東宮さまが!」
と息も絶え絶えに叫ぶのだが、あまりにも唐突な出来事で皆状況が飲み込めぬまま呆然としているばかり。
しかも、あろうことか男達はいずこかに隠していた牛車に東宮を乗せ、自らも乗り込んでしまった。こうなると足では追いつけない。必死で追いかけるのだが、距離はどんどんと離されてゆく。
「嘘だろ!? ここは大内裏なんだぞ!?」
誰かの牛車に乗り込もうにも、余程の事情が無い限り牛車で大内裏の中を走るなどあり得ない。
大内裏の外へと繋がる宮城門は、もうすぐそこまで見えている。
「不味いな、外に出られちまったら捕まえられねえぞ!」
(こんな時、銀が居てくれたら……)
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万事休すだと思ったその時――。
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その瞬間に背後から白い影が昂明達を追い越した。
「銀!」
「任せろ!」
走り抜けるその姿を見て、事情も知らぬ誰もが感嘆の声を漏らす。銀色の髪の美しい式神。
皆その姿に釘付けだった。
風のように駆け抜ける銀が、男達に肉薄しようとしたその時だ。
「危ない!」
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「東宮さま!」
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運が良かったともいう。
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そんな牛車からひょっこりと顔を出したその人物……。その顔を見て昂明達は仰天した。
「輝く君!? ……じゃない、近衛中将さま!?」
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