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第四話:ようこそ、おめでとう
4-1:今夜は眠れない(1)
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その日は前日の夜から大忙しだった。
「きょっぴー、どれくらいできた?」
「まだ、2メートルくらいです……」
のぞき込むヴィクターに、僕は今しがた完成したばかりの折り紙の輪飾りを広げてみせる。
「もうそんなに出来たんだ!? ボクなんかまだ1メートルにもなってないよ!」
自分では遅いと思っていたけれど、ヴィクターの方が進みが遅かったらしい。
「でも、ホール全体を飾り付けるにはまだまだもっと沢山の輪飾りが必要ですよね……」
僕と、ヴィクターは折り紙を切った短冊の山を見て溜息をつく。
店に遊びに来た幽霊猫のチロは、そんな僕達を見て「ナァ~オ」と鳴いた。
駄目だ、全然終わらない。
というのも、明日は貸し切りパーティーがあるからなのだ。小学生の男の子のお祝いらしい。家族と、親戚と、友達を呼んでの豪華なパーティー。
せっかくなら飾りつけも頑張ろうと思って、僕とヴィクターで飾りを作っているのだけれど……。
「全然終わらない……」
ヴィクターがコテンと床に倒れた。なんでもソツなくこなすしっかりもののヴィクターだけど、手先は思いのほか不器用だったらしい。
そういえば、料理の手伝いをするときもあまり細やかなものは手伝っていない。
もしかすると、僕と握手したときに腕が落ちたように、あまり細かい作業は得意としない造りの可能性もある。
「えーと、じゃあヴィクターは折り紙で大きな星とか作って下さい! 僕は最低限飾り付けられるところまで輪飾り作りを頑張ります!」
苦手なことを延々とやってもらうのは酷だろう。
慌てて僕はヴィクターに別の作業をお願いすることにした。
本当はアインさんとジェドさん達も手伝ってくれたらと思うけれど、二人も明日の料理の準備をしているから、こればかりはどうしようもない。
そんなときのエミリオさん……も、実は明日のためのお菓子を作っているらしい。つまり、今頑張る事が出来るのは僕とヴィクターしかいないという訳だ。
別にここまでしなくても良いんじゃないか、そういう意見も勿論あると思う。……ただ、折角の貸し切り誕生日パーティーならそれに見合う飾りつけで出迎えてあげたいと思った。
まあ、自分たちの自己満足であることに変わりはないのだけれど。
「二人とも精が出るね」
厨房から出てきたアインさんが、僕たちの周りに散乱する折り紙飾りをしげしげと見て、感心しながら言った。
「精が出るっていうか、真剣にやらないと終わらないっていうか……」
アインさんに感心されたものの、実際大ピンチなので僕は苦笑いをする。猫の手も借りたいくらいだけれど、今、傍にいるチロは僕たちの周りをうろちょろするだけで当然手伝える訳もない。なんたって幽霊猫だし。
「大変そうだね。こちらの準備が終わったらすぐに二人の手伝いに駆け付けるよ」
「えっ、いいんですか? アインさんも疲れてるのに……」
僕たちの作業なんかよりも、アインさん達は明日の為に沢山の料理の準備をしている。それなのに終わったらこっちまで手伝うなんて。
流石に申し訳ないと思って恐縮してしまった。
「勿論だよ。なんたって可愛いお客様の誕生日パーティーだからね。出来るだけ喜んで貰いたいし」
笑顔で僕達の脇にしゃがみ込むと、傍に落ちている折り紙の輪飾りを摘まみ上げた。
「懐かしいなあ。前に店でクリスマス会をやった時、子供たちがみんなで作っていたよ」
このお店でクリスマス会なんかやった事もあったんだ。
僕の知らない、ビストロ・ノクターン。一体皆はどんな顔をしていたんだろう。どんな料理が出てきたんだろう。
きっと素敵なクリスマス会だったに違いない。
その光景を想像して、少し羨ましいと思ってしまう。
「いつか見てみたいです。……僕も。『ビストロ・ノクターン』でのクリスマス会」
だから、恐る恐るアインさんに言ってみた。
以前の僕だったら言えなかったかもしれない。でも今なら言っても許されるんじゃないかと、少しだけそう思ったのだ。
「うん。……冬になったらきっとやろう。うちで、クリスマス会をね」
アインさんは僕の言葉に頷くと、嬉しそうに微笑んだ。
僕がこのビストロ・ノクターンに来てまだ日も浅い。
いつか季節が巡り冬が来る頃に、一体僕はどうなっているんだろう。
今日と変わらない、幸せな日を刻んで行くことができたならどんなに嬉しいか。いや、そうであって欲しい。
僕の記憶が戻らなくても。
ここに居ることができるのならば、それだけで充分だ。
「よしっ! 頑張るぞ!」
アインさんが厨房に戻った後は一段と気合を入れる。
「きょっぴー、凄い気合だね」
ヴィクターがにこにこしながら僕を見ている。
「えへへ……」
僕はそんなヴィクターの視線に少し照れながら笑う。
だってアインさんが太鼓判を押してくれたのだ。きっと明日のお客さんは喜んでくれるに違いない。
僕は自信を持って折り紙の輪飾り作りに再び取り掛かった。
「きょっぴー、どれくらいできた?」
「まだ、2メートルくらいです……」
のぞき込むヴィクターに、僕は今しがた完成したばかりの折り紙の輪飾りを広げてみせる。
「もうそんなに出来たんだ!? ボクなんかまだ1メートルにもなってないよ!」
自分では遅いと思っていたけれど、ヴィクターの方が進みが遅かったらしい。
「でも、ホール全体を飾り付けるにはまだまだもっと沢山の輪飾りが必要ですよね……」
僕と、ヴィクターは折り紙を切った短冊の山を見て溜息をつく。
店に遊びに来た幽霊猫のチロは、そんな僕達を見て「ナァ~オ」と鳴いた。
駄目だ、全然終わらない。
というのも、明日は貸し切りパーティーがあるからなのだ。小学生の男の子のお祝いらしい。家族と、親戚と、友達を呼んでの豪華なパーティー。
せっかくなら飾りつけも頑張ろうと思って、僕とヴィクターで飾りを作っているのだけれど……。
「全然終わらない……」
ヴィクターがコテンと床に倒れた。なんでもソツなくこなすしっかりもののヴィクターだけど、手先は思いのほか不器用だったらしい。
そういえば、料理の手伝いをするときもあまり細やかなものは手伝っていない。
もしかすると、僕と握手したときに腕が落ちたように、あまり細かい作業は得意としない造りの可能性もある。
「えーと、じゃあヴィクターは折り紙で大きな星とか作って下さい! 僕は最低限飾り付けられるところまで輪飾り作りを頑張ります!」
苦手なことを延々とやってもらうのは酷だろう。
慌てて僕はヴィクターに別の作業をお願いすることにした。
本当はアインさんとジェドさん達も手伝ってくれたらと思うけれど、二人も明日の料理の準備をしているから、こればかりはどうしようもない。
そんなときのエミリオさん……も、実は明日のためのお菓子を作っているらしい。つまり、今頑張る事が出来るのは僕とヴィクターしかいないという訳だ。
別にここまでしなくても良いんじゃないか、そういう意見も勿論あると思う。……ただ、折角の貸し切り誕生日パーティーならそれに見合う飾りつけで出迎えてあげたいと思った。
まあ、自分たちの自己満足であることに変わりはないのだけれど。
「二人とも精が出るね」
厨房から出てきたアインさんが、僕たちの周りに散乱する折り紙飾りをしげしげと見て、感心しながら言った。
「精が出るっていうか、真剣にやらないと終わらないっていうか……」
アインさんに感心されたものの、実際大ピンチなので僕は苦笑いをする。猫の手も借りたいくらいだけれど、今、傍にいるチロは僕たちの周りをうろちょろするだけで当然手伝える訳もない。なんたって幽霊猫だし。
「大変そうだね。こちらの準備が終わったらすぐに二人の手伝いに駆け付けるよ」
「えっ、いいんですか? アインさんも疲れてるのに……」
僕たちの作業なんかよりも、アインさん達は明日の為に沢山の料理の準備をしている。それなのに終わったらこっちまで手伝うなんて。
流石に申し訳ないと思って恐縮してしまった。
「勿論だよ。なんたって可愛いお客様の誕生日パーティーだからね。出来るだけ喜んで貰いたいし」
笑顔で僕達の脇にしゃがみ込むと、傍に落ちている折り紙の輪飾りを摘まみ上げた。
「懐かしいなあ。前に店でクリスマス会をやった時、子供たちがみんなで作っていたよ」
このお店でクリスマス会なんかやった事もあったんだ。
僕の知らない、ビストロ・ノクターン。一体皆はどんな顔をしていたんだろう。どんな料理が出てきたんだろう。
きっと素敵なクリスマス会だったに違いない。
その光景を想像して、少し羨ましいと思ってしまう。
「いつか見てみたいです。……僕も。『ビストロ・ノクターン』でのクリスマス会」
だから、恐る恐るアインさんに言ってみた。
以前の僕だったら言えなかったかもしれない。でも今なら言っても許されるんじゃないかと、少しだけそう思ったのだ。
「うん。……冬になったらきっとやろう。うちで、クリスマス会をね」
アインさんは僕の言葉に頷くと、嬉しそうに微笑んだ。
僕がこのビストロ・ノクターンに来てまだ日も浅い。
いつか季節が巡り冬が来る頃に、一体僕はどうなっているんだろう。
今日と変わらない、幸せな日を刻んで行くことができたならどんなに嬉しいか。いや、そうであって欲しい。
僕の記憶が戻らなくても。
ここに居ることができるのならば、それだけで充分だ。
「よしっ! 頑張るぞ!」
アインさんが厨房に戻った後は一段と気合を入れる。
「きょっぴー、凄い気合だね」
ヴィクターがにこにこしながら僕を見ている。
「えへへ……」
僕はそんなヴィクターの視線に少し照れながら笑う。
だってアインさんが太鼓判を押してくれたのだ。きっと明日のお客さんは喜んでくれるに違いない。
僕は自信を持って折り紙の輪飾り作りに再び取り掛かった。
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