ビストロ・ノクターン ~記憶のない青年と不死者の洋食屋~

銀タ篇

文字の大きさ
38 / 69
第四話:ようこそ、おめでとう

4-7:幸せ

しおりを挟む
 僕の歓迎会はそれからそこそこの時間まで続き……特にエミリオさんはワイン開けてがぶ飲みするわ、歌い始めるわで大変だった。止めようにも人狼の並外れた馬鹿力だ。ジェドさんやヴィクターではびくともしない。
 こういう時はアインさんが頼りだけれど……。

「にぎやかでいいね!」

 と、全然取り合ってくれなかった。
 ヴィクターが言うには、アインさんの強さはけた外れらしい。……という事なんだけれども、生憎とその瞬間を見たことが無いのでいまいちピンとこない。

「ふう……」

 祭りの後。歓迎会が終わって片づけをみんなで終わらせて、僕は自室に戻ってきた。ぽふりと布団に体を預けると、今日の充実感と心地よい疲労がじんわりと体全体に広がっていくようだ。
 ごろりと上を向くと、僕が初めてここにやってきたあの日と変わらない天井が見える。

 昨日の夜から沢山の事があった。
 皆で徹夜して誕生日パーティーの準備をした事、誕生日パーティーで皆と作った飾りつけをとても喜んでもらえた事。
 そして……誕生日パーティーの終わった後に、まさか自分の歓迎パーティーがあったなんて。
 僕が『ここ』に居る事を、うわべだけじゃない、皆が心から笑顔で喜んでくれているのが感じられた。

「ここにきて、本当に沢山の事があったなあ……」

 閉店直後のこの『ビストロ・ノクターン』に転がり込んで皆に助けられ。
 そしてここで働かせて貰うことになった。
 アインさん、ジェドさん、ヴィクター、それにエミリオさん……みんな本当にいい人たちばかりだ。
 記憶は戻らないけれど、今が本当に幸せだと思う。
 ここでは皆、僕の事をほんの少しでも必要としてくれている。
 泣いても怒られない、好きに泣いて好きに笑える。

 ――こんなに誰かに必要とされた事なんてなかった……。

(あれ? 今僕なんて?)

 思わず心の中で反芻した言葉を、僕はふと疑問に思う。
 僕は、今まで誰かに必要とされた事がなかったのだろうか?
 『ビストロ・ノクターン』にやってくる前、記憶を失う以前。
 胸に手を当てて、過去の記憶を探ろうとする。

 ……やっぱり駄目だ、何も浮かばない。
 少しばかりその虚無が不安になってしまったけれど、今日はとにかく楽しかったし疲れてしまった。
 不安な事は今は忘れて、今日は幸せな気持ちを胸にぐっすりと眠ろう。

「シャワー、浴びなきゃ……」

 そうは思いつつも、これ以上体が動かない。
 僕はベッドにあお向けになったまま、深い眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

潮に閉じ込めたきみの後悔を拭いたい

葉方萌生
ライト文芸
淡路島で暮らす28歳の城島朝香は、友人からの情報で元恋人で俳優の天ヶ瀬翔が島に戻ってきたことを知る。 絶妙にすれ違いながら、再び近づいていく二人だったが、翔はとある秘密を抱えていた。 過去の後悔を拭いたい。 誰しもが抱える悩みにそっと寄り添える恋愛ファンタジーです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】前代未聞の婚約破棄~なぜあなたが言うの?~【長編】

暖夢 由
恋愛
「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」 高らかに宣言された婚約破棄の言葉。 ドルマン侯爵主催のガーデンパーティーの庭にその声は響き渡った。 でもその婚約破棄、どうしてあなたが言うのですか? ********* 以前投稿した小説を長編版にリメイクして投稿しております。 内容も少し変わっておりますので、お楽し頂ければ嬉しいです。

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

処理中です...