2 / 8
2.使徒アル
しおりを挟むボクたち〝使徒〟は君たちの時空とは別の場所に存在する世界からやって来たんだ。その目的はズバリ、人間の幸せを願うこと。
「それは対価もなしに他人の——異種族の幸福を願うのか? それとも表面的にないように見えるだけで、実のところは目には見えない数値が減っているとか……そういうことなのか?」
「目に見えない数値?」
「例えば寿命や、一生分の運。もしくは正気度や、もしくはもっと物理的な——」
「なにそれ、怖い」
いやいや、そんなのないからっ。
ボクたちは人間が幸福を感じた際に生じる感情で生きているんだよ。何しろ、ボクたち〝使徒〟は君たち人間の善性から生まれた存在だから。
君たちは普段生活している中で、ちょっとした幸運に遭遇したことがあるだろう。駄菓子屋のくじ引きや自動販売機で当たりを引いたり、なくしたと思っていた物がひょんなことから見つかったり。
「駄菓子屋……?」
「自動販売機の当たり……いや、ないな」
えっ。君たち駄菓子屋知らないの? 自動販売機の当たりとか。一本買ったらもう当たりでもう一本出てくるあれだよ?
「そもそも駄菓子屋を見たことがないし、自動販売機に当たりなんて付いていたか?」
「うん。わたしも知らない」
えぇぇ……今の子供って知らないんだ……地味にショックだなぁ……。
「失せ物もしたことがない。自己管理を徹底していれば当然のことでは?」
「わ、わたしはあるなぁ……でも大体は明貴くんが見つけてくれるし」
「ゆかりはもう少し整理整頓ができるようにした方がいい」
「はーい」
「フッ……返事だけは、調子が良いな」
うん、君たちが立派な子供だってことはわかったから、話戻していい? 戻していい?
とにかく、ボクたち〝使徒〟は人間が幸福を感じてくれると幸せになれるんだ。今日もどこかで〝使徒〟たちが活躍して、君たちに幸せを振りまいていることだろう。
さて、どうしてボクがここ人間界にやって来て、ゆかりと知り合ったかなんだけれど。〝使徒〟は確かに幸せを振りまく存在なんだけれど、その力を使い方を間違えば、一転して人間を不幸に陥れてしまうことだってあるんだ。そうならないように、一人前の〝使徒〟になるための修行期間が設けられているのさ。
その期間、半人前の〝使徒〟たちは特定の人間の前に姿を現して、修行を手伝ってもらうんだ。
「なぜわざわざ人間が手伝う必要がある」
「それは僕らにもわからない。そういうものだということしか。ただこの修行は一人前へ至るための最終工程でもあって、無事に行程を終了することができると、その際に協力者の願いをひとつだけ叶えることができる仕組みになってるんだ」
「…………」
な、なんだいその目は。ボクを疑っているのかい?
「……いや、どこかで聞いたことのある話だと思って。まぁいい。それで白羽の矢が立ったのが、ゆかりなんだな?」
ご察しの通りさ。前もって調べたところ、ボクと最も相性の良い人間は小野ゆかりだということがわかったんだ。だから彼女に協力を申し出たというわけさ。
「うん。だからわたし言ったの。願いなんていいから、協力させてって」
「……。……どうしてそうなる?」
「だって困ってる人を放ってはおけないじゃない!」
「人じゃない。ハァ……そんなことで——いや、たしかに立派な理由であるが、それは少し軽率過ぎやしないか。ご両親に相談はしなかったのか」
「こんなこと相談できないよぉ。それにお母さんたちにはアルくん、見えないし」
普通の人間にボクたち〝使徒〟の姿は見えないよ。〝使徒〟と契約を結んでいる人間でないと、僕たちの姿を捉えることはできないんだ。
君はボクとゆかりが認可したから姿が見えるようになっているけれどね。
「どのみちもうアルくんと契約しちゃったし、こうなったら最後まで同じ道を走り続けようと思うの」
「……ちなみに契約の破棄は?」
残念だけど、それはできない。一度契約したら目的を達成するまで破棄することはできない仕組みになってるんだ。
「ふむん。……成程な。世の中にはこういうことも、あるのかも知れん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる