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5.現場目撃
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給食を終えた昼休み。朝と同じくゆかりの机で今後の方針について話し合っていたところ、教室の片隅でとある光景が繰り広げられていた。
大柄な児童が、小柄の児童を数人で囲い込んで小突き回している。
それは児童同士の、他愛もないじゃれ合いだった。イジメという文化が根強く残る社会において、明貴もゆかりもその中で生きてきた。だからといって、実際の現場に遭遇したことはない。運良く、彼らの周りにはイジメがなかった——ように見えた。
しかし今教室で起こっているそれは、いささかじゃれ合いの度合いを過ぎようとしている。
大柄な児童——皆川は同い年の子供と比較して身長が高く、体つきも頑強であるため上級生からも一目置かれる存在だ。常に数人の取り巻きに囲まれ、文句がある奴には鉄拳を見舞うという——よくいる『ガキ大将』という奴だった。
そんな彼に小突かれて、数人に囲まれているという恐怖で身が竦んでしまっている小柄な少年は吉村という。こちらは皆川と対象的で色白で細身、そして華奢な体つきであり、二人が並ぶと頭一個分は身長に差がある。
吉村は明らかに怯えており、その様子を見てせせら笑う皆川とその一味——雰囲気は、良くない。
「……あれ、イジメかな」
「今はいいだろうが、今後を考えるとわからないな」
そう。今はまだ、である。実際、昼休み中に教室にいることの少ない明貴とゆかりであるが、あのような行いが始まって間もないとは思えない。人目を憚らずに行為に及んでいるということは、既に恒常化されている可能性の方が高いだろう。このまま徐々に、少しずつイジメへと近づいていく可能性は否定できない。
「……あの二人を仲直りさせることってできるかな」
ゆかりがぽつりと呟くと、アルが両目を光らせて歯を剥き出しにしながら叫んだ。
「そういうのを待ってたんだよ!」
体躯は小さいが、さすがに近くで大声を出されると耳にクるものがある。
そういう事実を無視し、興奮した様子でアルが辺りをびゅんびゅんと飛び回りながら高々と叫び散らす。
「そういうのだよ! そういうの! 喧嘩の仲裁、魔法の力でちょちょいのちょいさ!」
「え、こういうのもいいの?」
「本当は結構ギリギリだけど、ゆかりの力なら問題ないさ! ようし、早速変身して魔法を使おう! そうしよう!」
「ちょ、ここじゃダメだよっ、教室にいる人たちもいるし……」
「……体育館裏なら、この時間人は来ないだろう」
「じゃあ体育館裏へ行こう! さあ行こう! すぐ行こう!」
「あ、アルくん! ……行っちゃった。わたしたちも行こっか、明貴くん」
「……ああ」
いいのだろうか。
そう考え込んでいた明貴は、ゆかりに促されるまま体育館裏へと赴く。
大柄な児童が、小柄の児童を数人で囲い込んで小突き回している。
それは児童同士の、他愛もないじゃれ合いだった。イジメという文化が根強く残る社会において、明貴もゆかりもその中で生きてきた。だからといって、実際の現場に遭遇したことはない。運良く、彼らの周りにはイジメがなかった——ように見えた。
しかし今教室で起こっているそれは、いささかじゃれ合いの度合いを過ぎようとしている。
大柄な児童——皆川は同い年の子供と比較して身長が高く、体つきも頑強であるため上級生からも一目置かれる存在だ。常に数人の取り巻きに囲まれ、文句がある奴には鉄拳を見舞うという——よくいる『ガキ大将』という奴だった。
そんな彼に小突かれて、数人に囲まれているという恐怖で身が竦んでしまっている小柄な少年は吉村という。こちらは皆川と対象的で色白で細身、そして華奢な体つきであり、二人が並ぶと頭一個分は身長に差がある。
吉村は明らかに怯えており、その様子を見てせせら笑う皆川とその一味——雰囲気は、良くない。
「……あれ、イジメかな」
「今はいいだろうが、今後を考えるとわからないな」
そう。今はまだ、である。実際、昼休み中に教室にいることの少ない明貴とゆかりであるが、あのような行いが始まって間もないとは思えない。人目を憚らずに行為に及んでいるということは、既に恒常化されている可能性の方が高いだろう。このまま徐々に、少しずつイジメへと近づいていく可能性は否定できない。
「……あの二人を仲直りさせることってできるかな」
ゆかりがぽつりと呟くと、アルが両目を光らせて歯を剥き出しにしながら叫んだ。
「そういうのを待ってたんだよ!」
体躯は小さいが、さすがに近くで大声を出されると耳にクるものがある。
そういう事実を無視し、興奮した様子でアルが辺りをびゅんびゅんと飛び回りながら高々と叫び散らす。
「そういうのだよ! そういうの! 喧嘩の仲裁、魔法の力でちょちょいのちょいさ!」
「え、こういうのもいいの?」
「本当は結構ギリギリだけど、ゆかりの力なら問題ないさ! ようし、早速変身して魔法を使おう! そうしよう!」
「ちょ、ここじゃダメだよっ、教室にいる人たちもいるし……」
「……体育館裏なら、この時間人は来ないだろう」
「じゃあ体育館裏へ行こう! さあ行こう! すぐ行こう!」
「あ、アルくん! ……行っちゃった。わたしたちも行こっか、明貴くん」
「……ああ」
いいのだろうか。
そう考え込んでいた明貴は、ゆかりに促されるまま体育館裏へと赴く。
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