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第4話 勇者が仲間になりました
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チュンチュン
小鳥の囀りで目を覚ますと、心配そうに眉をひそめているユフィーアの顔が真っ先に飛び込んできた。
「良かった。あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと思いました」
予想外の事態に俺はベッドから飛び起きる。
「まさか一晩中介抱してくれていたんですか?」
「はい、私にはこれくらいの恩返ししかできませんから」
ユフィーアは俺の手をギュッと握りしめ、頬を赤らめながら言う。
んんん?
何か様子が変だぞ。
俺の知っているユフィーアじゃない。
彼女はもっと孤高でクールでツンデレからデレを取り去ったようなキャラのはずだ。
「申し遅れました、私は王国の騎士ユフィーア・ラスボーンと申します」
「知ってます。竜殺しの勇者ユフィーア様ですよね」
ユフィーアはこくりと頷く。
「それであの……あなたのお名前を伺っても宜しいでしょうか」
「俺? ああ、マールです。マール・デ・バーグ。見ての通り冒険者です」
「マール様と仰られるのですね。マール様は魔族の呪術についてお詳しいご様子ですね。色々とお聞きしたい事があるのですが……」
成る程、それが目的か。
思い返してみれば、原作通りこの世界はバグで溢れている。
この世界の人達は度々発生する理解不能な現象、所謂バグを魔法や呪術、神の怒りなどと様々な理由をつけて理解しようとしていた。
「魔族と戦っていると不可解な事がよく起こります。例えば、先日ゴブリンを全力で斬り裂いたところ何故か手応えがなく、斬ったはずのゴブリンもピンピンしていたのです。あれも呪術の類でしょうか」
これは原作でもよく発生するバグだ。
通常、自分の攻撃力から相手の防御力を引いた値に乱数を加えたものが相手に与えるダメージになる。
もし計算上のダメージがマイナスになった場合は強制的にゼロになる。
しかし、ダメージが65535を超えると数字が一周して逆に低くなってしまうのだ。
このバグを説明するのは難しい。
「それは一定以上のダメージを無効化するという呪術の一種ですね。その場合は少し力を抜くといいですよ」
俺はもっともらしい理由をつけて説明をする。
「成る程、そのようなものがあるのですね。他にもまだまだありまして、以前ダンジョンを探索して外に出たところ、全く別の場所に出てきた事があって……転移魔法の一種でしょうか」
これもよくあるバグだ。
原作でも、序盤のダンジョンから出たら魔王の城の前に出てきたという報告例もある。
これは乱数調整をする事で回避できる。
「転移の罠ですね。回避方法としては外に出る前に一度外の様子を目で確認して下さい。見覚えのない景色が広がっていたら間違いなく罠が発動していますので、もう一度ダンジョンの中に戻って、少し歩いてからもう一度外の様子を確認して下さい」
こんな調子で、俺はユフィーアの問いかけにひとつずつ答えていった。
やがて俺を見るユフィーアの目が尊敬の眼差しに変わっていく。
「マール様は本当に博識ですね。私が今まで聞いた事もない話ばかり。それでいて、核心をついています。まるでこの世界の全てを把握しているような」
うん、このゲームの事はほとんど把握しているからね。
毎日プレイしながら掲示板を読み漁っていれば嫌でも頭に入ってくる。
「まあ、いろいろと勉強してきたからね」
「私も勇者などと呼ばれていますが、実際は昨日の体たらくです。マール様の助力がなければやられていたでしょう」
「いや、それは俺も同じです。ユフィーアさんに助けられなければ俺はオークチーフの棍棒にミンチにされていました」
「ご謙遜を。……あの、ひとつお願いがあるんですが」
ユフィーアは姿勢を正し、改まって言う。
「なんでしょう? 俺に出来る事なら」
「今後マール様にご同行させて頂いても宜しいでしょうか」
「俺に同行?」
「はい、私は自分の未熟さを思い知らされました。マール様の下でいろいろと勉強をさせて下さい」
やっぱりおかしい。
彼女は冒険者嫌いで有名だ。
原作でも彼女を仲間にする為には多くのイベントをこなし、更に直接対決で勝利しなければならない。
冒険者であり、目の前でぶっ倒れてしまうという無様な姿を見せた俺の事は心底軽蔑しているだろう。
彼女の好感度は最低値を振りきれる程下落しているはずだ。
「ん? 振りきれた……?」
まさかこれは……
俺は一つの仮説に辿り着いた。
「下がりすぎた好感度が一周してMAXになっている?」
どうやらここにきて新たなバグを発見してしまったらしい。
しかしホリンとミーリャに捨てられて、今後の見通しがない俺には願ってもない話だ。
俺は首を縦に振る。
「未熟な私にご指導、ご鞭撻をお願いします」
「あっはい、こちらこそ宜しくお願いします」
こうして俺マール・デ・バーグは勇者ユフィーア・ラスボーンとパーティを組む事になった。
小鳥の囀りで目を覚ますと、心配そうに眉をひそめているユフィーアの顔が真っ先に飛び込んできた。
「良かった。あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと思いました」
予想外の事態に俺はベッドから飛び起きる。
「まさか一晩中介抱してくれていたんですか?」
「はい、私にはこれくらいの恩返ししかできませんから」
ユフィーアは俺の手をギュッと握りしめ、頬を赤らめながら言う。
んんん?
何か様子が変だぞ。
俺の知っているユフィーアじゃない。
彼女はもっと孤高でクールでツンデレからデレを取り去ったようなキャラのはずだ。
「申し遅れました、私は王国の騎士ユフィーア・ラスボーンと申します」
「知ってます。竜殺しの勇者ユフィーア様ですよね」
ユフィーアはこくりと頷く。
「それであの……あなたのお名前を伺っても宜しいでしょうか」
「俺? ああ、マールです。マール・デ・バーグ。見ての通り冒険者です」
「マール様と仰られるのですね。マール様は魔族の呪術についてお詳しいご様子ですね。色々とお聞きしたい事があるのですが……」
成る程、それが目的か。
思い返してみれば、原作通りこの世界はバグで溢れている。
この世界の人達は度々発生する理解不能な現象、所謂バグを魔法や呪術、神の怒りなどと様々な理由をつけて理解しようとしていた。
「魔族と戦っていると不可解な事がよく起こります。例えば、先日ゴブリンを全力で斬り裂いたところ何故か手応えがなく、斬ったはずのゴブリンもピンピンしていたのです。あれも呪術の類でしょうか」
これは原作でもよく発生するバグだ。
通常、自分の攻撃力から相手の防御力を引いた値に乱数を加えたものが相手に与えるダメージになる。
もし計算上のダメージがマイナスになった場合は強制的にゼロになる。
しかし、ダメージが65535を超えると数字が一周して逆に低くなってしまうのだ。
このバグを説明するのは難しい。
「それは一定以上のダメージを無効化するという呪術の一種ですね。その場合は少し力を抜くといいですよ」
俺はもっともらしい理由をつけて説明をする。
「成る程、そのようなものがあるのですね。他にもまだまだありまして、以前ダンジョンを探索して外に出たところ、全く別の場所に出てきた事があって……転移魔法の一種でしょうか」
これもよくあるバグだ。
原作でも、序盤のダンジョンから出たら魔王の城の前に出てきたという報告例もある。
これは乱数調整をする事で回避できる。
「転移の罠ですね。回避方法としては外に出る前に一度外の様子を目で確認して下さい。見覚えのない景色が広がっていたら間違いなく罠が発動していますので、もう一度ダンジョンの中に戻って、少し歩いてからもう一度外の様子を確認して下さい」
こんな調子で、俺はユフィーアの問いかけにひとつずつ答えていった。
やがて俺を見るユフィーアの目が尊敬の眼差しに変わっていく。
「マール様は本当に博識ですね。私が今まで聞いた事もない話ばかり。それでいて、核心をついています。まるでこの世界の全てを把握しているような」
うん、このゲームの事はほとんど把握しているからね。
毎日プレイしながら掲示板を読み漁っていれば嫌でも頭に入ってくる。
「まあ、いろいろと勉強してきたからね」
「私も勇者などと呼ばれていますが、実際は昨日の体たらくです。マール様の助力がなければやられていたでしょう」
「いや、それは俺も同じです。ユフィーアさんに助けられなければ俺はオークチーフの棍棒にミンチにされていました」
「ご謙遜を。……あの、ひとつお願いがあるんですが」
ユフィーアは姿勢を正し、改まって言う。
「なんでしょう? 俺に出来る事なら」
「今後マール様にご同行させて頂いても宜しいでしょうか」
「俺に同行?」
「はい、私は自分の未熟さを思い知らされました。マール様の下でいろいろと勉強をさせて下さい」
やっぱりおかしい。
彼女は冒険者嫌いで有名だ。
原作でも彼女を仲間にする為には多くのイベントをこなし、更に直接対決で勝利しなければならない。
冒険者であり、目の前でぶっ倒れてしまうという無様な姿を見せた俺の事は心底軽蔑しているだろう。
彼女の好感度は最低値を振りきれる程下落しているはずだ。
「ん? 振りきれた……?」
まさかこれは……
俺は一つの仮説に辿り着いた。
「下がりすぎた好感度が一周してMAXになっている?」
どうやらここにきて新たなバグを発見してしまったらしい。
しかしホリンとミーリャに捨てられて、今後の見通しがない俺には願ってもない話だ。
俺は首を縦に振る。
「未熟な私にご指導、ご鞭撻をお願いします」
「あっはい、こちらこそ宜しくお願いします」
こうして俺マール・デ・バーグは勇者ユフィーア・ラスボーンとパーティを組む事になった。
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