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第47話 山道を往く
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「空の上でこの魔王軍四天王の一人、フレガータ様に挑むとはいい度胸だ。だが敵ながら見事な奇襲だったぞ。この俺様が全く気配を感じなかった」
いいえ、ただの事故です。
「よって貴様達は生かしておくわけにはいかん。ここで死んでもらう」
怪鳥フレガータはその大きな翼をはばたかせ、気球に向かって一直線に突っ込んでくる。
奴の狙いは気球の球皮だ。
あれを破られたら気球は浮上する術をなくして地上に落下するしかない。
全滅は必至だ。
「させません! ファイアーバル!」
ユフィーアが火球魔法を連射して弾幕を張りフレガータを近付けまいとするが、フレガータは機敏な動きでそれを掻い潜って迫ってくる。
「とったぞ!」
フレガータの鋭い嘴が球皮を切り裂こうとした瞬間、彼の身体は衝撃と共にゴムまりのように後方へ弾かれた。
「なに!?」
「ふう、間一髪でした」
気球はヘステリアが張った結界に包まれ、暖かい光を放っている。
「これは、結界か!? そうか、知っているぞ。貴様が元王国の聖女ヘステリアだな」
「はい。魔族のあなたでは私の結界は破れません。それでもまだ戦いを続けますか?」
結界に守られている以上フレガータは俺達に攻撃をする事ができないが、俺達も空中ではフレガータに攻撃を当てられない。
お互い決定打に欠ける状態ならばどちらかが退くしかない。
「ふん、今日の所は見逃してやる。だが覚えておけ、次に会った時が貴様達の最期だ」
先に退いたのはフレガータだ。
このまま地上まで降下すればユフィーアも存分に戦えるようになるのでフレガータが不利になる。
彼の決断は正確で迅速だった。
俺達は地上へ降りると気球を畳んで魔法の袋に仕舞う。
上空に雷雲がある限り空からルシエールへ向かうのは危険だ。
この辺り一帯の上空はほぼ無風地帯として知られている場所で、雷雲が通り去るのを待っていたら何日かかるか分からない。
ここからは徒歩でルシエールへ向かう事になった。
とはいうものの約百キロの山道を歩いて進むのは想像以上に過酷だ。
十キロメートルほど進んだところでまず俺がへばった。
「はぁはぁ……もう足が動かない」
皆の視線が俺に集まる。
俺以外の皆はまだまだ平気な顔をしている。
さすがにレベル90以上の冒険者となると、基礎体力自体が一般人とは桁違いなんだろう。
ヘステリアとか明らかに見た目はか弱い少女なのに平然としているのは納得いかない。
「マール様大丈夫ですか? 私がおんぶしていきましょうか?」
ユフィーアがそう提案するが、さすがにそれは恥ずかしいので丁重にお断りをした。
しかしどうやらこの場にいる全員がここで休憩しようという発想が無いらしい。
こうなったら足を引きずってでもついていくしかなさそうだ、と覚悟を決めたところでヘステリアが前に出て言う。
「マールさんお辛そうですね。それでは私が癒しの歌を歌いましょう」
癒しの歌……原作で聖女が使うことができる回復スキルだ。
MPの消費なく周囲の仲間の体力を回復させる事ができる反則級の能力だ。
しかしヘステリアは原作ではこのスキルのせいで戦闘中は癒しの歌を歌うだけのキャラとなってしまい、歌い手だのボカロなどの綽名で呼ぶプレイヤーもいる。
ヘステリアはコホンと咳ばらいをし、癒しの歌を口ずさむ。
「ラーラー……」
ヘステリアの美しい歌声を聞いていると、さっきまで全身を包んでいた疲労が嘘のように消え去った。
俺だけでなくこの場にいる全員の体力が回復しているようだ。
「すごい、これが聖女の力なのか……」
「元、ですけどね」
ヘステリアははにかんだ笑顔を見せる。
「どうだ、これが本当のヘステリアの力だ」
何故かアレス殿下が得意顔で自慢を始めるとヘルメスとテーセウスの二人も同調してうんうんと頷く。
しかし本当にその通りだ。
この聖女の力だけは他の冒険者がどれだけレベルを上げても得る事は出来ない。
「まったくその通りですね、心が洗われるような透き通った歌声です」
思わず俺も率直な感想を漏らす。
しかしそんな中でひとりユフィーアだけが面白くなさそうな顔をしている。
「マール様、私も歌には自信がありますよ。宜しければ今度お聞かせしましょうか」
何を対抗してるんだか。
でもまあ原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドでもユフィーアは歌が得意という設定がある。
折角だから今度聞かせて貰おうか。
「ちなみにどんなジャンルの歌が得意なの? 持ち歌は?」
「『レイフィス騎士団抜刀隊』とか、『敵は幾千万』とか色々ありますよ。騎士団に所属していた頃は周りから私の歌声を聞くと士気が高揚すると評判でした」
レイフィス王国の軍歌ばかりじゃないか。
まあユフィーアらしいといえばユフィーアらしいけど特に聞きたいとは思えない。
「何でしたら今すぐにでも歌いましょうか。マール様のやる気も向上して、こんな山道も一気に突破できますよ」
根性論やめい。
「そ、そう……でも今は元気いっぱいだから大丈夫だよ。その内機会があればお願いするね」
「はい、必要な時には是非仰って下さい」
多分そんな日は一生来ない。
◇◇◇◇
山道を歩く事一日、ようやくルシエールの町がある山の麓に辿り着いた。
ここまで来ると雷雲のエリアを抜けており、上空には層積雲が続いている。
ルシエールの町は断崖絶壁を上った先、あの雲の上だ。
「よかった、ここまで雷雲が続いていたらルシエールの町に入れなかったよ」
「マール様、この空なら気球が使えますね」
「ああ、早速組み立てよう」
俺は魔法の袋から気球を取り出して組み立てる。
これに乗れば山の上まであっという間だ。
いいえ、ただの事故です。
「よって貴様達は生かしておくわけにはいかん。ここで死んでもらう」
怪鳥フレガータはその大きな翼をはばたかせ、気球に向かって一直線に突っ込んでくる。
奴の狙いは気球の球皮だ。
あれを破られたら気球は浮上する術をなくして地上に落下するしかない。
全滅は必至だ。
「させません! ファイアーバル!」
ユフィーアが火球魔法を連射して弾幕を張りフレガータを近付けまいとするが、フレガータは機敏な動きでそれを掻い潜って迫ってくる。
「とったぞ!」
フレガータの鋭い嘴が球皮を切り裂こうとした瞬間、彼の身体は衝撃と共にゴムまりのように後方へ弾かれた。
「なに!?」
「ふう、間一髪でした」
気球はヘステリアが張った結界に包まれ、暖かい光を放っている。
「これは、結界か!? そうか、知っているぞ。貴様が元王国の聖女ヘステリアだな」
「はい。魔族のあなたでは私の結界は破れません。それでもまだ戦いを続けますか?」
結界に守られている以上フレガータは俺達に攻撃をする事ができないが、俺達も空中ではフレガータに攻撃を当てられない。
お互い決定打に欠ける状態ならばどちらかが退くしかない。
「ふん、今日の所は見逃してやる。だが覚えておけ、次に会った時が貴様達の最期だ」
先に退いたのはフレガータだ。
このまま地上まで降下すればユフィーアも存分に戦えるようになるのでフレガータが不利になる。
彼の決断は正確で迅速だった。
俺達は地上へ降りると気球を畳んで魔法の袋に仕舞う。
上空に雷雲がある限り空からルシエールへ向かうのは危険だ。
この辺り一帯の上空はほぼ無風地帯として知られている場所で、雷雲が通り去るのを待っていたら何日かかるか分からない。
ここからは徒歩でルシエールへ向かう事になった。
とはいうものの約百キロの山道を歩いて進むのは想像以上に過酷だ。
十キロメートルほど進んだところでまず俺がへばった。
「はぁはぁ……もう足が動かない」
皆の視線が俺に集まる。
俺以外の皆はまだまだ平気な顔をしている。
さすがにレベル90以上の冒険者となると、基礎体力自体が一般人とは桁違いなんだろう。
ヘステリアとか明らかに見た目はか弱い少女なのに平然としているのは納得いかない。
「マール様大丈夫ですか? 私がおんぶしていきましょうか?」
ユフィーアがそう提案するが、さすがにそれは恥ずかしいので丁重にお断りをした。
しかしどうやらこの場にいる全員がここで休憩しようという発想が無いらしい。
こうなったら足を引きずってでもついていくしかなさそうだ、と覚悟を決めたところでヘステリアが前に出て言う。
「マールさんお辛そうですね。それでは私が癒しの歌を歌いましょう」
癒しの歌……原作で聖女が使うことができる回復スキルだ。
MPの消費なく周囲の仲間の体力を回復させる事ができる反則級の能力だ。
しかしヘステリアは原作ではこのスキルのせいで戦闘中は癒しの歌を歌うだけのキャラとなってしまい、歌い手だのボカロなどの綽名で呼ぶプレイヤーもいる。
ヘステリアはコホンと咳ばらいをし、癒しの歌を口ずさむ。
「ラーラー……」
ヘステリアの美しい歌声を聞いていると、さっきまで全身を包んでいた疲労が嘘のように消え去った。
俺だけでなくこの場にいる全員の体力が回復しているようだ。
「すごい、これが聖女の力なのか……」
「元、ですけどね」
ヘステリアははにかんだ笑顔を見せる。
「どうだ、これが本当のヘステリアの力だ」
何故かアレス殿下が得意顔で自慢を始めるとヘルメスとテーセウスの二人も同調してうんうんと頷く。
しかし本当にその通りだ。
この聖女の力だけは他の冒険者がどれだけレベルを上げても得る事は出来ない。
「まったくその通りですね、心が洗われるような透き通った歌声です」
思わず俺も率直な感想を漏らす。
しかしそんな中でひとりユフィーアだけが面白くなさそうな顔をしている。
「マール様、私も歌には自信がありますよ。宜しければ今度お聞かせしましょうか」
何を対抗してるんだか。
でもまあ原作ファンタシー・オブ・ザ・ウィンドでもユフィーアは歌が得意という設定がある。
折角だから今度聞かせて貰おうか。
「ちなみにどんなジャンルの歌が得意なの? 持ち歌は?」
「『レイフィス騎士団抜刀隊』とか、『敵は幾千万』とか色々ありますよ。騎士団に所属していた頃は周りから私の歌声を聞くと士気が高揚すると評判でした」
レイフィス王国の軍歌ばかりじゃないか。
まあユフィーアらしいといえばユフィーアらしいけど特に聞きたいとは思えない。
「何でしたら今すぐにでも歌いましょうか。マール様のやる気も向上して、こんな山道も一気に突破できますよ」
根性論やめい。
「そ、そう……でも今は元気いっぱいだから大丈夫だよ。その内機会があればお願いするね」
「はい、必要な時には是非仰って下さい」
多分そんな日は一生来ない。
◇◇◇◇
山道を歩く事一日、ようやくルシエールの町がある山の麓に辿り着いた。
ここまで来ると雷雲のエリアを抜けており、上空には層積雲が続いている。
ルシエールの町は断崖絶壁を上った先、あの雲の上だ。
「よかった、ここまで雷雲が続いていたらルシエールの町に入れなかったよ」
「マール様、この空なら気球が使えますね」
「ああ、早速組み立てよう」
俺は魔法の袋から気球を取り出して組み立てる。
これに乗れば山の上まであっという間だ。
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