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第28話 不貞の代償
しおりを挟むラングがサンクタス王国の新たな王として即位した数日後、私はリストリア殿下と一緒に実家の屋敷に戻ってきた。
早速王都での出来事をお父様やルーク殿下に報告をする。
「そうか、丁度領内で人手が不足していたところだ。よくやったぞシルヴィア」
お父様は私が王都の労働者にエルリーン伯爵領の仕事を勧めた事を褒めてくれた。
一方でルーク殿下はがっくりと肩を落として寂しそうな顔をしている。
「そうですか、父上は亡くなられましたか。せめてご最期の時ぐらいお傍にいて差し上げたかったのですが……」
「それは大丈夫ですよルーク様。なんでしたら今すぐにでもサイクリア陛下を【口寄せ】しますので思う存分語り合って下さい」
「そ、そうですか……それではお願いできますか?」
「はい、お任せ下さい」
私は両手を合わせて膝を下り祈りの姿勢を取った。
まずは遥か王都にいるサイクリア陛下の魂を呼び寄せるところから始める。
「……え? あ、はい。それではまた後日に……」
「シルヴィア嬢、どうしました?」
「いえ、それが……陛下は今取り込み中だそうで降霊を拒否されました」
「取り込み中? 父上は霊魂の状態で何をなさっているんですか?」
「えっと……ちょっとアクリア様を躾けてくるとか仰っていましたけど……私にも良く分からないです」
私たちがこの時サイクリア陛下が何をされていたのかを知るのは翌日に持ち越される事となる。
◇◇◇◇
ガシャン。
一方その頃アクリアの部屋では突然花瓶が割れてその破片と水が部屋中に飛び散った。
「きゃあっ……レイチェル、今のが悪霊の仕業です。早く何とかして!」
アクリアはレイチェルの背中にしがみついて喚いている。
確かにこの部屋の中に誰かの霊がいる。
レイチェルは両手を合わせて祈りの姿勢を取り破邪の力を放出した。
「なんのこの程度……」
微かに霊の主と思われる声が聞こえた。
どこかで聞いた事がある声だ。
続いて姿見の鏡が不自然に揺れたかと思うと凄まじい勢いで倒れて割れた破片が飛び散った。
並の悪霊ならばレイチェル程度の破邪の力でも驚いて逃げていくはずだ。
しかし霊の主はそれを意にも介さずに部屋の中で暴れている。
「余程の力を持った悪霊……いえ、それにしては悪い気配を感じませんわ……悪霊ではないのかしら?」
レイチェルは困惑した。
現にこの霊は部屋の中で暴れている。
悪霊でない霊が暴れているという事は、何らかの正当な理由があるはずだ。
それに悪霊でないというのならば聖女である自分なら意思の疎通ができるかもしれないとレイチェルは考えて対話を試みる。
「……あなたは何者ですの! ここが先代王妃アクリア様のお部屋と知っての事ですか?」
レイチェルの問いかけに、微かに返答する声が聞こえた。
「余の名前はサイクリア。ここが我が妻の部屋である事も、妻が不貞を働いていた事も知っておる」
「サイクリア陛下!? そんなまさか……」
「余は全てを知っておる。エクスディア侯爵の事もラングの本当の父の事もな……」
「ひっ……お許しくださいあなた! ……あっ」
レイチェルの後ろに隠れていたアクリアは霊の正体と数々の過ちが露見している事を知ってショックのあまり気を失ってしまった。
「へ……陛下、どうか御心をお鎮め下さい!」
「聖女レイチェルと申したな。アクリアに伝えよ。これ以上愚かな過ちを続けるのならは余は怨霊となりそなたたちに災いをもたらさんとな」
「は、はい! 一言一句相違なくお伝えいたしますわ……」
「それならば今日のところは許してやろう。今日の事はゆめゆめ忘れるなかれ」
そう言い残してサイクリア陛下の霊魂は部屋の外へ去っていった。
しばらくして意識を取り戻したアクリアは恐怖のあまり髪が真っ白になり、顔には深い皺が刻まれてまるで老婆のような容姿になってしまっていた。
もはやエクスディア侯爵との不貞を続ける気力もなく、今日の出来事がトラウマとなってこの部屋で暮らす事もできなくなり、自らの希望で離宮に移り住んで死ぬまで引き籠る生活が続く事になった。
この話を聞いたエクスディア侯爵もサイクリア陛下の祟りを恐れてエクシディア侯爵領へ逃げ帰っていった。
そんな中、ひとりレイチェルだけは用済みとなったアクリアを意図せずに排除できた事をほくそ笑んでいた。
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