「黒犬と山猫!」番外編・おとぎ話パロディ

あとみく

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「山猫プンツェル」(サブキャラ:あとみく)

前編:山猫プンツェル、塔の上から尻尾を伸ばす

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【ラプンツェル・あらすじ】
ある夫婦が子を授かったが、妊婦によい「ラプンツェル」という植物を隣家の庭から勝手に食べてしまい、それを咎められて、生まれた子を隣人の魔法使いの老女に差し出す。ラプンツェルと名付けられた娘は森の塔の上で育ち、老女はその長い髪を下におろさせて塔に出入りしていた。ある時王子がそれを見つけて老女がいない隙に出入りし、やがてラプンツェルは妊娠。老女は激怒し二人を酷い目に遭わせるが、数年後に二人は再会し、生まれた双子を幸せに育てる。


* * *


 昔々あるところに、山猫ヤマネコプンツェルという者がおりました。
 山猫プンツェルは生まれた時からずっと、森の中の高い塔で暮らしておりました。

 一体どうしてそんなところにいるかというと・・・。

 それは山猫プンツェルが生まれる前、まだ母親のお腹にいた時のことです。
 母であるあとみーくは、妊娠中にどうしても酸っぱいものが食べたくなって、漬けた梅干しを毎日ひと瓶たいらげていました。
 それでも足らず、宅配で頼んだトムヤンクンや酸辣湯サンラータン麺をすすり、ビタミンCのレモン味のサプリをゴリゴリ噛み砕いて(本来は飲むものです)、それでもまだ足りません。
 しかしそんな折、とびきり酸っぱくてしかも妊婦に良いとされる「ラプンツェル」なる植物が隣の家の庭に生えていると知って(※酸っぱいというのはフィクションです)、どうしても食べたくて、こっそりとひと粒(食べるところが実なのか葉なのか茎なのか分からないので、粒じゃないかもですが)いただいてしまいました。
 すると、ラプンツェルはたいそう妊婦をトリコにする味で、あとみーくはもっと欲しくなり、次の日はふた粒、その次の日は三〇〇粒と、歯止めが効かなくなり、どんどんと食べ尽くしていきました。

 そんなある日。
 あとみーくはとうとう、隣人に見つかってしまいました。

「え、盗み食い?三〇〇粒って、ほとんど食べちゃってるじゃん!」
「・・・いやだって、美味しくて、止まんなくて」
「人がせっかく育ててたのに・・・、いや、もういいよ、何か代わりに支払えるものとか、寄越せるものとかある?」
「えっ、あんまりない・・・お宝BL同人誌はもう処分しちゃったし・・・」
「え、あれもうないの!?」
「何で知ってんの!?」
「あ、実はあれこっそり盗み読みしてて・・・」

 その隣人は、魔法使いのクミトーアといいました。 
 二人は何となくお互い似ているなあと思いつつも、あとみーくはクミトーアがせっかく育てたラプンツェルを勝手に食べたことを謝り、お腹の子が生まれたらあげると約束しました。


* * *


 その後あとみーくは無事に子どもを産み、約束通りクミトーアにあげました。クミトーアはその子を山猫プンツェルと名付け、森にある塔の上で育てました。

「おお、かわいい山猫プンツェルよ。外の世界は怖いからね、ずっとここで暮らすんだよ。自治会にも町内会にも入らないで、それでも回覧板が来るけど、でもどうせさくらんぼ狩りのバスツアーのお知らせとかで、行ったってリア充しかいなんだから、受け取らずに居留守を使うんだよ」

 そうしてみるみるうちに山猫プンツェルは育ち、年頃を越えて、三十路手前にまでなりました。何度か、回覧板を持った親子が塔の下をうろうろし、「お父様、ここは誰もいませんよ」「しかしな山猫ル、この『すれ違いマッチングアプリ』に反応が」などと騒いでいましたが、山猫プンツェルはクミトーアの言いつけどおり、部屋にこもってやり過ごしました。

(スレチガイマッチングアプリって何だろう・・・。カイランバンっていうのも、一度くらい、見てみたいな。でもサクランボ狩りっていうのに行くと、僕のチェリーがもぎられてしまうからダメなんだって・・・いったい何のことなんだろう)

 山猫プンツェルはクミトーア以外の人間と接したことはなく、それはまあ監禁ということなのですが、特に不自由はしなかったため、世界はこういうものだと思っておりました。


* * *


「山猫プンツェル、山猫プンツェル、その尻尾を伸ばしておくれ!」

 その日もまた、クミトーアが森の塔へやって来ました。
 クミトーアは実はあとみーくの隣の自宅で物書きの仕事をしており、徹夜明けにふらふらしながら食料などを届けに来るのですが、塔をのぼるハシゴなどはないため、山猫プンツェルの尻に魔法で生やした尻尾を垂れさせてのぼるのです。

「あー、もふもふだー、やっぱり伸ばすなら尻尾だね尻尾!」

 そうしてクミトーアは食料といつものクロスワードパズルの他に、頼まれていた数独とお絵かきロジックの雑誌を渡し、代わりに答えを書いた懸賞ハガキを受け取りました。日がな一日、山猫プンツェルはそんな風に懸賞生活を送り、たまに賞品が当たると「掃除機は嬉しいけどルソバの高速充電器だけ当ててどうすんの!?」とか「バストアップナイトブラはあんたに必要ない!」などとなぜか怒られていました。

(世の中にはいろんな物があるみたいだけど、賞品が写真つきでないと、僕には何だか分からないからなあ・・・)


* * *


 そして、その日の夜のことです。

「山猫プンツェル、山猫プンツェル、その尻尾を伸ばしておくれ!」

 そろそろ寝ようとしていた山猫プンツェルは、驚きました。
 なにせ、夜型のクミトーアは今まで日中にしか来たことがなく、暗くなってから呼ばれたのは初めてだったのです。

(どうしたんだろう、めずらしいな。でも、いつもとちょっと声が違ったような・・・)

 実は、この呼びかけは二人の間の合言葉にもなっていて、山猫プンツェルはこれ以外の、「ごめんくださーい」とか「MHKの者ですが・・・」などという呼びかけには答えてはいけないときつく言われていました。
 なので、夜であることと、声が低いことに違和感を覚えましたが、山猫プンツェルはいつもどおり窓に背を向けて、そのぴょこんと生えた短い尻尾をするすると下に伸ばしてゆきました。

 それからしばらくして引き上げたのですが、よほど大きな荷物でも抱えているのか、いつもより尻尾がやけに重たく感じます。

 そうして、引き上げられた人物が窓から入ってきて、その姿かたちを見て、山猫プンツェルは目をパチクリとしました。

(・・・な、何だ、何だこれ、見たこともない、僕より大きい大きさで、下の服はそれぞれの足にぴったりまとわりついていて、・・・え、これがルソバの高速充電器?いや、ナイトアップブラ?それともまさか・・・カイランバン!?)

「・・・お前、山猫プンツェルっていうの?」
「・・・ひっ、しゃ、喋った」
「何だよ、まるで人を化け物みたいにさ。それよりお前の方が、その尻尾、どうなってるの?俺、昼間に見かけてさ、面白そうだからやってみたら、まさかこんなやつが住んでたとはね!」

 その人物は勝手に部屋を見てまわり、雑誌をぱらぱらめくったりし、山猫プンツェルはただただそれを見ていました。
 ・・・それは、山猫プンツェルが今まで見たものの中では、クミトーアに一番近い物体でした。ただ、大きさや太さ、声、におい、髪の長さ、服などが微妙に何もかも違っていました。

「ねえ山猫プンツェル!」
「・・・な、な、なに」
「俺は王子のクロイーヌ。よくこの森で狩りをしてるんだ。・・・でも王子って結構退屈でさ、なんか面白いものないかなって探してたんだよ」
「・・・お、オージ?オレワオージノクロイーヌ・・・?」
「え、お前、言葉は喋れるんでしょ?王子だよ王子」
「・・・オージ」
「いや何かカタカナにするとオジサンぽいからさ、いいよ、俺のことは王子様じゃなくて、クロって呼んで。それなら分かるでしょ?俺の名前、クロ。お前、山猫プンツェル」
「・・・く、クロ、分かった。あの、クロは、狩りを、するの?・・・さくらんぼを、狩る人?」
「さ、さくらんぼ?そんなの狩らないよ、ウサギとかだよ」
・・・?でもまあ、それじゃあ大丈夫だ」
「大丈夫って何が?」

 そうして山猫プンツェルはチェリーのことを話して聞かせましたが、クロ王子はお腹を抱えて笑い転げました。
「お前のチェリーをもぎるって何だよ!あはは、馬っ鹿だなあ!」
「笑ってる?・・・そ、それってつまり、楽しいの?」
「ああ、楽しいね。こんな面白いやつ初めてだよ」
「ふうん・・・。あの、それで、クロは何も持ってきてないようだけど、僕は何を受け取るの?あと、実はまだハガキが出来てないんだけど・・・」
「・・・は?」
「だからその、何かを受け取ってもないし、ハガキも渡してないのに・・・何してるの?」
「・・・」

 今度は、クロ王子の方が固まって、目をパチクリとしました。
 しかし王子は何となーく事情を察して、山猫プンツェルの手をぎゅっと握りました。

「・・・っ」
「・・・いい?俺のことは内緒にしといてよ。明日の夜また来るから、待ってて」

 そうして王子は山猫プンツェルの尻尾につかまって、するすると塔を下りて帰っていきました。
 山猫プンツェルは、初めて握られた手を見つめながら、なぜか胸がどきどきするのがいつまでも止まりませんでした。


* * *


 次の日。
 いつものようにクミトーアがやってきて、食料品や生活雑貨を届けました。
 しかし、山猫プンツェルはまだハガキを書き終わっていません。

「あれ、ハガキはどうしたの?」
「まだ・・・出来てない」
「そんなに難しかった?お絵かきロジックの色鉛筆が足りない?」
「・・・い、いや、別に」

 クミトーアは何だか様子がおかしいなと思いましたが、まあ調子が悪い日もあるだろうと、特に追求しませんでした。


* * *


 とうとう夜になり、「山猫プンツェル、山猫プンツェル、その尻尾を伸ばしておくれ!」の声がしました。
 またクロ王子が部屋に来て、少しニコニコすると、山猫プンツェルに何かを差し出しました。

「あのね、はい、これ」
「・・・あ、うん」

 実は、王子は山猫プンツェルにプレゼントを持ってきたのですが、山猫プンツェルは返事だけして、受け取りませんでした。・・・クミトーアはいつも、持ってきたものを棚などに適宜収納して帰っていくので、山猫プンツェルは「受け取る」という動作を知らなかったのです。

「・・・ね、ねえ、これお前にプレゼントなんだけど」
「あ、プレゼント?賞品当たったの?」
「え、賞品じゃないよ。これ、俺がお前にあげたいってこと。・・・これ何だか分かる?」
「・・・分からない。・・・枕?スリッパ?」
「違うよ、はは、これはウサギだよ」

 クロ王子が持ってきたのは、大きなウサギのぬいぐるみでした。

「・・・あ、もしかして、クロが狩るのこと?これがウサギトカ?あれ、??」
「あはは、どっちでもいーよ。ほれ!」

 そしてクロ王子がぬいぐるみを山猫プンツェルに投げつけ、それは顔にぼすんと当たりました。
 しかし山猫プンツェルは、どうして急にウサギダヨが顔にぶつかってきたのか分かりません。
 王子は仕方なく、手取り足取り、ぬいぐるみを投げたりぶつけたりする遊びをイチから教えていきました。

「・・・これが顔に当たると、どうなるの?」
「どうって、楽しいでしょ?やり返してやればいいんだよ」
「・・・よ、よく、分かんない」
「でもお前、今、顔が笑ってる」
「・・・えっ、これが、楽しいってこと?」

 そうして二人は、ただウサギのぬいぐるみを投げ合って、笑いました。
 やがて夜が白んで、最初の鳥が鳴くと、王子は山猫プンツェルをぎゅっと抱きしめて、「また来るから」と帰っていきました。
 山猫プンツェルはどうして身体を押さえつけられたのか分かりませんでしたが、なぜか、もっとそうして欲しいと思ったのでした。
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