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7【不幸女】
しおりを挟むーー彼は死んでしまった。
比喩的な意味ではなく、そのままの意味だ。
何度か食い違いがあった彼と恋人だった。
それでも、何人かいた恋人の中でも修復ができたのは、その人とだけだった。
壊れても修復して、関係を繰り返せる相手を永遠のパートナーに選んだのだ。
ーー金銭面とか、体の相性とか、私には無いものが彼を支えてくれるだろう……と。
結婚を目標に海外に旅立っていった2人を見送った。
どこに行くとは告げずに、私との繋がりはすっぱり断った。
******
よく、手首を切って、自傷行為をする事が多かった彼。
「僕は死にたくないんだよ。
僕に流れるあいつの血が流れていって欲しいだけ。
悲劇のヒロインになりたいんだよ。
嫌だよね、本当にあいつにそっくり。
でもね、切るとね、変わるんだよ。
自己犠牲に変わる。
自分を犠牲にしたらーー愛が生まれるんだ。
僕のそばにいる人はね……優しすぎるから。
僕が死んだら、僕の事ずーーっと、嫌いになれないんだよ。
僕の事、好きじゃなくても。
罪悪感で、ずーーーっと。
嫌いになれないんだよ。
僕は大嫌いなのにね。
切るとね、大好きになる」
あの頃は自分には、自傷行為は未知の別世界で、寄り添うことはできなかった。
理解はせず、「大丈夫だよ」と抱きしめていた。
ーーそれが、よく無かった。
全てを捨てて日本を旅立った2人。
恋人の男だけがーー1人、帰ってきた。
『仕事中、階段から滑り落ちて、死んだよ』
男は、0になった人間関係をまた新しく築き上げるより、事情を知ってる私と何か出来ないか?と持ちかけた。
『同じ人間を好きになったもの同士、死ぬまで一緒に慰め合おう』
ーーお断りした。
私は世界中の誰よりも嫌いな人間に、好きになった人を託してしまった自分を一生許す気はない。
彼の死が事故だろうと自殺だろうと。
この運命は私の逃げが招いた結果でしかない。
その後続いた身の回りの不幸。
自殺意識の芽生。
彼への罪悪感。
全てが彼からの手招き。
ーーそれに心地良さを感じながら生きてきた。
彼に責任を押し付け続けた。
「それでも構わないよ」
そう嬉しそうに言う彼を妄想させる。
ーー彼が策士なのか。
ーー私が悪なのか。
私は前者にかける悪だ。
そう結論を出した。
彼の死んだその日は覚えやすい数字の並びで、毎年襲いかかってきた。
心地良かったはずの恐怖や束縛も、耐えるのが苦痛に感じ始めた頃。
疲労と解放されたさからか、安易に彼を恨んでみる。
ーー彼が死んだ事以外に、恨みになる要素が見当たらなかった。
生きている人間たち全て、死んだ彼にかなわない。
彼以外を好きになる事が許されなかった。
この思想を抱き続けながら苦しんで、幸せになることなく生きることを強いられてる気がした。
どう足掻こうとも。
どうせこの先不幸な人生ならば。
ーー原因はなっちゃんが良い。
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