【完結】前略、閻魔さま~六道さんで逢いましょう~

渡邊 香梨

文字の大きさ
18 / 67
第三章 うたかた歌

この世とあの世をつなぐ場所(3)

しおりを挟む
 高辻先生おばあちゃんの教え子。

 八瀬やせあきら――と、青年は名乗った。

『死者が、そうホイホイあの世とこの世を行ったり来たり出来ても困りますでしょう。生きてる間にロクなことをしていないものまで、お盆や言うて帰らせるのもおかしい話ですし』

『た、確かに?』

『だから六道まいり言うても実際には、死後裁判でそのうちの三道、修羅道・人道・天道に行った魂だけが、お盆の精霊迎えで子孫の家に帰ることを許されてるんですよ。一応、五山送り火まで言うことでね』

『な、なるほど?』

『ただ、その括りから外れる者も中にはいて……十王とその筆頭補佐官は、閻魔王の許可があれば、お盆時期に限らずあの世とこの世を行き来出来るんです。今回は結果的に精霊迎えの初日になりましたけど、一応、許可を取って僕はウロウロしてたわけです』

『ええと……じゃあ八瀬さんは、どなたかの筆頭補佐官だと……』

 脳が理解を拒否しているとは言え、話を聞いている限りはそう言う結論にしか辿りつかない。

 そして「よくぞ聞いてくれました!」と、八瀬青年は笑った。

『冥界の王、地獄の王。人間の死後に善悪を裁く者として、十王の中でも中心的な立ち場に立つ王。そんな閻魔王様の今の筆頭補佐官が僕、八瀬彰なんですよ』

 何でも先代の閻魔王がそろそろ輪廻の輪に入りたいと言い出して、協議の末に当時補佐官だった小野篁卿が閻魔王に昇格し、空席になった筆頭補佐官に彼が抜擢されたと言うことらしい。

 ……夢ならそろそろ醒めてくれないだろうか。

 何だか「閻魔王様LOVE」とでも書かれたハチマキでも巻いて、ドヤ顔でふんぞり返っている青年の姿が思わず目に浮かんでしまった。
 あるいは、ぶんぶんと尻尾を振るワンコ系従者か。

 菜穂子は八瀬青年の視界に入らなそうなところを自分で思い切りつねってみたものの状況は変わらず、どうやら諦めて質問を続けるしかないようだった。

『ええっと……十王言うことは、閻魔様以外にあと九人王様がいると……?』

『そうなんですよ。仏教関係者以外に事細かに説明をしたところで覚えられへんのは自明の理なんで、僕が地上でとある博物館の関係者の人から聞いた、上手い説明を引用させて貰うとですね――』

 浄土か地獄か、死者は10人の王が裁判官となる10の法廷で、順に裁かれて行くらしい。

 最初の七日、二度目の七日、三度目の七日……と、四十九日までは七日ごとに一人ずつ王を訪ねて生前の行いを調べられるそうだ。その後は百箇日、一周忌、三回忌で十人の王の裁きは終了すると言う。

『この中で、五度目の七日に相対するのが閻魔王様。現代で言うところの地裁が考え方としては近いみたいですね。その後六、七と高裁・最高裁に相当する部署の王と会って、納得いかなければ八~九と再審請求の部署へ訴え出て、最後の十王のところで結審……と』

『裁判所……』

『だいぶ噛み砕いた説明やとは思いますが。十王全員と会うまで行先が決まらないと言うわけではなく、閻魔王様の時点でほぼほぼ固まってますからね。残りの期間は十王結審までの内定者研修で、行く予定の部署に放り込まれるようなもん、と思うてもろたら』

 早々に有罪となった場合には、十人の王全員に合わないまま、刑罰を受けることもあるとか。

『で、正規ルートなら一番目と二番目の王に会ったあと、賽の河原に到着するんですが、今回は非常事態につき、かつてたかむら様がお通りになられた冥土通いの井戸ルートを、いわゆる近道ショートカットで通って貰いました』

『井戸……って、どうやって……』

『まあ、この時期だから出来たことと言えるかも知れませんが』

 未だ事態を半分も呑み込めていないであろう菜穂子に、八瀬青年は、笑ってさらに追い打ちをかけた。

『体外離脱、して貰いました。それやと井戸も通れますのでね』
『――はいっ⁉』



 ……再び思う。
 夢なら、そろそろ醒めてくれないだろうか。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...