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第六章 遠い音楽
学校跡の芸術センター
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珈琲に使う金額とグラム数に関して、京都はしょっちゅうトップ争いをするほどらしい。
実はかなりのカフェ文化なのだ。
海外チェーン店やサードウェーブ系の店舗も立ち並ぶ中、京都には有名な三大珈琲店がある。
イノダコーヒー、小川珈琲、前田珈琲。
ただの五十音順だが、要はこの三社が複数の店舗を展開する、京の有名どころだ。
最近では、一部が東京方面での百貨店催事なんかにも進出しているほどだ。
そんな三大珈琲店の一角、前田珈琲の店舗が、かつて祖母が教壇に立っていた小学校の一角に開業していた。
時期が時期だけに待っている人がいるようだけど、せっかくだからあとで珈琲休憩しようと思いつつ、菜穂子はまずは芸術センターのある建物の方へと足を向けた。
途中かろうじて見かけた年表によれば、統廃合が決まる直前までは「明倫小学校」の名前で地元には知られていたそうだが、祖母の時代には「旧下京三番組小学校」や戦時中に改称された「明倫国民学校」としてその名は知られていたようだ。
今で言うところの綾部市方面に学童疎開していた時期もあるらしい。
終戦の年の三月末から十月半ばまで疎開していたと言うことは、祖父が迎えに行ったのは今のこの建物ではなく、疎開先の仮校舎と言うことになる。
なるほど綾部であれば、舞鶴港あたりから戻って来たとして、着の身着のままで立ち寄るのも道理なのかも知れない。
思わぬ情報に、菜穂子はそれだけでも、来てみようと思い立って正解だったと思った。
明治の開校当時の名残りは門跡くらいしかないものの、現校舎の完成が昭和6年とのことなので、間違いなく祖母が教壇に立っていた頃の校舎と言うことになる。
当時では最先端の鉄骨建築、赤みを帯びたクリーム色の外壁と、スぺイン風屋根瓦のオレンジ色、雨樋の緑青色など「ハイカラ」と言っていいデザインが採用されたらしい。
一部の窓ガラスは、現代でまだ再現しきれていない波打ちガラスになっていると言うから恐れ入る。
今やこれらの旧校舎は国の登録有形文化財に指定されているほどだ。
京都芸術センターとなって、改装なり手を加えられたりした部分もあるものの、ギャラリーの入口近くにひっそりと「二宮金次郎」像が立っているところに、ここが学校であったという名残りを感じさせている。
建物の中には図書室や情報コーナーといった場所があるので、他に何かしら当時の足跡を辿れるかと思いはしたものの、見ていると京都の伝統工芸に関するものや美術全集など、アート関連の書物ばかりだった。
どうやら卒業生の寄贈品と言った、当時の小学校の思い出に繋がるような品々は、やはり父の言っていた京都市学校歴史博物館の方にまとめられているらしい。
「スマホで撮影……言うても、おばあちゃんには見せてあげられへんのかぁ……」
ふと思い立って鞄の中からスマホを取り出してはみたものの、昨夜のあの状態ならスマホなんて持っていけない。
「あ……地上に出れたら、連れて来てあげられる? いや、八瀬さんに聞いてみないとどうにも分からんよな……」
昨日の口ぶりだと、陰膳が出て実家に向かうまでであれば、好きなように浮遊している霊がいるとかいないとか言ってたような気がする。
色々と驚きすぎて、大半の記憶が吹き飛んでいたので、もう一回聞いてみた方が無難な気もした。
今やこの建物は芸術家育成のための場所と言うことで、市民に開放されているらしい。
菜穂子は景色のみを十二分に目に焼き付けて、敷地内のカフェの方へと移動をすることにした。
実はかなりのカフェ文化なのだ。
海外チェーン店やサードウェーブ系の店舗も立ち並ぶ中、京都には有名な三大珈琲店がある。
イノダコーヒー、小川珈琲、前田珈琲。
ただの五十音順だが、要はこの三社が複数の店舗を展開する、京の有名どころだ。
最近では、一部が東京方面での百貨店催事なんかにも進出しているほどだ。
そんな三大珈琲店の一角、前田珈琲の店舗が、かつて祖母が教壇に立っていた小学校の一角に開業していた。
時期が時期だけに待っている人がいるようだけど、せっかくだからあとで珈琲休憩しようと思いつつ、菜穂子はまずは芸術センターのある建物の方へと足を向けた。
途中かろうじて見かけた年表によれば、統廃合が決まる直前までは「明倫小学校」の名前で地元には知られていたそうだが、祖母の時代には「旧下京三番組小学校」や戦時中に改称された「明倫国民学校」としてその名は知られていたようだ。
今で言うところの綾部市方面に学童疎開していた時期もあるらしい。
終戦の年の三月末から十月半ばまで疎開していたと言うことは、祖父が迎えに行ったのは今のこの建物ではなく、疎開先の仮校舎と言うことになる。
なるほど綾部であれば、舞鶴港あたりから戻って来たとして、着の身着のままで立ち寄るのも道理なのかも知れない。
思わぬ情報に、菜穂子はそれだけでも、来てみようと思い立って正解だったと思った。
明治の開校当時の名残りは門跡くらいしかないものの、現校舎の完成が昭和6年とのことなので、間違いなく祖母が教壇に立っていた頃の校舎と言うことになる。
当時では最先端の鉄骨建築、赤みを帯びたクリーム色の外壁と、スぺイン風屋根瓦のオレンジ色、雨樋の緑青色など「ハイカラ」と言っていいデザインが採用されたらしい。
一部の窓ガラスは、現代でまだ再現しきれていない波打ちガラスになっていると言うから恐れ入る。
今やこれらの旧校舎は国の登録有形文化財に指定されているほどだ。
京都芸術センターとなって、改装なり手を加えられたりした部分もあるものの、ギャラリーの入口近くにひっそりと「二宮金次郎」像が立っているところに、ここが学校であったという名残りを感じさせている。
建物の中には図書室や情報コーナーといった場所があるので、他に何かしら当時の足跡を辿れるかと思いはしたものの、見ていると京都の伝統工芸に関するものや美術全集など、アート関連の書物ばかりだった。
どうやら卒業生の寄贈品と言った、当時の小学校の思い出に繋がるような品々は、やはり父の言っていた京都市学校歴史博物館の方にまとめられているらしい。
「スマホで撮影……言うても、おばあちゃんには見せてあげられへんのかぁ……」
ふと思い立って鞄の中からスマホを取り出してはみたものの、昨夜のあの状態ならスマホなんて持っていけない。
「あ……地上に出れたら、連れて来てあげられる? いや、八瀬さんに聞いてみないとどうにも分からんよな……」
昨日の口ぶりだと、陰膳が出て実家に向かうまでであれば、好きなように浮遊している霊がいるとかいないとか言ってたような気がする。
色々と驚きすぎて、大半の記憶が吹き飛んでいたので、もう一回聞いてみた方が無難な気もした。
今やこの建物は芸術家育成のための場所と言うことで、市民に開放されているらしい。
菜穂子は景色のみを十二分に目に焼き付けて、敷地内のカフェの方へと移動をすることにした。
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