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第二部 宰相閣下の謹慎事情
297 実食です!
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「ごめんなさいね、急に押しかけてしまって」
食事用のテーブルは丸テーブルで用意をされており、かつ、四公爵家当主とそれ以外と言う形に分けられ、話し声が全ては聞き取れない程度に、テーブル同士が離されていた。
私の両隣はミカ君とフォルシアン公爵夫人がいて、シャルリーヌがそのミカ君の隣、夫人の反対側の隣にはベルセリウス将軍がいて、最後は将軍とシャルリーヌの間に、ウルリック副長が腰を下ろす形になっていた。
こちらのテーブルに居並ぶ中では、本来「侯爵」であるベルセリウス将軍が場を仕切るべきところ、最初に「ここは私の邸宅でも、防衛軍本部でもない。今、このテーブルにおいては無礼講に願いたい」と宣言してしまった為に、ちょっと苦笑気味に、フォルシアン公爵夫人が私に声をかけてきたのだった。
「いえ、そんな……。フォルシアン公爵閣下には〝ヘンリエッタ〟での飲食含め、いつも無理を聞いて下さって頂いていると感謝をしております。その閣下の頼みと聞けば、当然の事と認識もしております。逆にこちらこそ、本日は正式な昼食会としての料理ではございませんので、かえって申し訳ないとの思いでいっぱいです」
何となく、今この場では「庶民食」と言ってしまうのもちょっと違う気がして、言葉を選びながら喋らざるを得ない。
「構いません。予め夫からそのように聞いておりましたから、かえって楽しみにしておりましたのよ」
フォルシアン公爵家の二大財源の内の一つである宝石鉱山を持つダリアン侯爵家から嫁いだと言うエリサベト夫人は、国王陛下が独身である今、アンジェス社交界のヒエラルキーのトップグループに位置するご婦人だ。
以前〝ロッピア〟で見かけたコンティオラ公爵夫人よりも、遥かに余裕と気品をお持ちのように見えた。
フォルシアン公爵が美形でなくとも、ベタ惚れしたって不思議じゃない。
と言うかこの二人が結婚したところで、誰も文句がつけられなかったんじゃないだろうか。
そんな事を思っている間に、テーブルにはワンプレートディッシュと、麺類用の小さな器がそれぞれの前に置かれた。
「まあ…これは何から口にさせて頂いたら宜しいかしら」
元の世界の〝うどん〟を知るシャルリーヌ以外の皆の疑問を代弁するかのように呟くフォルシアン公爵夫人に、私は〝海鮮カルグクス〟もどきへと視線を向けた。
「皆様よくご存じの〝バーミセリ〟料理とは少し違って、あまり長い時間スープに浸かったままだと、元の触感や味が損なわれてしまうので、出来ればこちらからお召しあがりいただけますか。それと、この野菜の揚げ物も、時間が立つと柔らかくなってきてしまうので、出来れば早めにお召し上がりいただきたいです。こちらに関しては、この、むき出しの〝バーミセリ〟を野菜スープに絡めて食べる時に交互に食べると、口の中で味が上手く調和します」
当然、お箸はこの世界に存在しないので、パスタ風に食べるより他はない。
なので、スプーンの上で丸められる程度に、麺は気持ち短めに切って貰ってあった。
「……レイナ様、この細長い〝バーミセリ〟の上に乗っている、殻付きの食べ物は何ですか?僕、初めて見たかも……」
「あ、ハルヴァラ領も海に面していないから、あまり見ないのかな?それか、殻付きで出てくる事がない?コンティオラ公爵閣下の領地で水揚げされる魚介類の中で、今の時期に出回っているものを何種類か持って来て貰ったの。中の身は小さいけど食べられるし、煮ると良いスープの素になるんだよ」
「あ…そう言えばクリームスープに入っているのを見た事があるかも……?」
一生懸命に記憶を辿っているらしいミカ君に、私はうんうんと頷いて見せる。
そうか。クラムチャウダー(もどき)とかなら、食卓にのぼる事もあるのかな。
「うわぁ、レイナ様、こっちの浸して食べる分と、スープの味が全然違うね!お野菜の方は、この前ファルコが作ってくれたのにちょっと似てるよ!」
有難うミカ君。
ミカ君のリアクションに合わせて、とっても解説しやすくなります、ええ。
「ああ、あっちは鶏ガラベースで、鶏の味が結構全面に出ていたから、その違いはあるのかな?今回のは、この野菜の揚げ物と合わせたかったから、野菜の切れ端だけを煮出して貰ったんだよ?ミカ君、どっちが好き?」
「……違いすぎて選べないかも……」
そしてシャルリーヌは、多分、フォルシアン公爵夫人がいるから、必要以上にはしゃげないんだろう。
見て察してくれと言わんばかりに、仮名称「海鮮カルグクス」も「肉汁つけうどん天ぷら添え」も黙々と口に運んでいた。
うん、どうやらそれなりに故郷を懐かしむ味にはなったみたいだ。
「レイナ嬢、この野菜の揚げ物の作り方を伺っても……?」
出来立てサクサクとは言わないまでも、まだベタベタにまではなっていない、キノコの天ぷらを口にしながら、ウルリック副長が聞いてくる。
ベルセリウス将軍も「うむ。我らが普段口にする〝アイニッキ〟や〝フゼッリ〟の揚げ物とは、似て非なる仕上がりだ」と、食べながら頷いている。
「最後『揚げる』と言うところでは、他の物と同じですよ?ただ〝アイニッキ〟は揚げる前にパンの粉、〝フゼッリ〟や〝スヴァレーフ〟はそれぞれ素揚げなところ、これはお菓子向けの小麦粉に、卵と冷たい水を合わせた専用の液を絡めて揚げてあるんです。野菜は山に入ればある程度は手に入りますし、小麦粉や卵なんかも、大抵の家庭で手に入るでしょうから、作りやすい筈なんですよ」
以前の私の様な一人暮らしだと、油を多く使う事が面倒な側面もあるけれど、レストラン含めある程度の人数がカウント出来る所なら、それほど苦にはならない筈だ。
「今日は主食ぎみに〝バーミセリ〟と絡めてご用意しましたけど、単独なら塩だけを振って、酸味のある白ワインと一緒に、おつまみとして食べられる――と、厨房の誰かが言ってました」
「ああ、それは確かにそうかも知れませんね……」
キノコの天ぷらに視線を落としたまま、ウルリック副長も賛成とばかりに頷いている。
…うん、毎年酒代が凄い軍の中では、いずれ重宝されそうな気がしてきたかも。
「どうでしょうか、ハーグルンド領の皆さんにも受け入れられると思いますか?」
恐らくはこの中で一番庶民感覚に近いと思われるウルリック副長に尋ねてみたところ「そうですね…」と、一瞬、考える仕種を見せた。
「この、野菜の切れ端で出来たと言うスープに、キノコと野菜、牛肉が浮いているのは良いと思いますよ。これだけだと味が濃いから〝バーミセリ〟と絡めるんですよね?ええ、こちらの揚げ物がなくても成り立つでしょうね。いっそこの揚げ物は〝スヴァレーフ〟の素揚げのように、単独で酒場のつまみとして提供するのもありかと思いますよ。もちろん、合わないと言っている訳ではないのですが」
「うむ。普段の食事に出されるパンなどとは合わないだろうな。このあとにデザートが出て来ても、味のつり合いが取れぬ気がする。ただ、もしも主食の一環として捉えるならば、逆にこの食し方しかないのではないか?」
ウルリック副長の隣で、ベルセリウス将軍も真面目に考えてくれているようだった。
「それはそうですね……レイナ嬢、そのあたりは、いっそのことハーグルンド伯爵と相談されては如何ですか。どう売り出したいかを、当事者となる伯爵に決めて貰うのが良いと思いますよ。ああ、最初の問いに立ち返らせていただくなら、充分に売り物にも家庭料理にもなり得るかと」
そう言ってウルリック副長は、舞茸もどきな天ぷらを口に運んで、満足そうに微笑ってくれた。
「ごめんなさいね、急に押しかけてしまって」
食事用のテーブルは丸テーブルで用意をされており、かつ、四公爵家当主とそれ以外と言う形に分けられ、話し声が全ては聞き取れない程度に、テーブル同士が離されていた。
私の両隣はミカ君とフォルシアン公爵夫人がいて、シャルリーヌがそのミカ君の隣、夫人の反対側の隣にはベルセリウス将軍がいて、最後は将軍とシャルリーヌの間に、ウルリック副長が腰を下ろす形になっていた。
こちらのテーブルに居並ぶ中では、本来「侯爵」であるベルセリウス将軍が場を仕切るべきところ、最初に「ここは私の邸宅でも、防衛軍本部でもない。今、このテーブルにおいては無礼講に願いたい」と宣言してしまった為に、ちょっと苦笑気味に、フォルシアン公爵夫人が私に声をかけてきたのだった。
「いえ、そんな……。フォルシアン公爵閣下には〝ヘンリエッタ〟での飲食含め、いつも無理を聞いて下さって頂いていると感謝をしております。その閣下の頼みと聞けば、当然の事と認識もしております。逆にこちらこそ、本日は正式な昼食会としての料理ではございませんので、かえって申し訳ないとの思いでいっぱいです」
何となく、今この場では「庶民食」と言ってしまうのもちょっと違う気がして、言葉を選びながら喋らざるを得ない。
「構いません。予め夫からそのように聞いておりましたから、かえって楽しみにしておりましたのよ」
フォルシアン公爵家の二大財源の内の一つである宝石鉱山を持つダリアン侯爵家から嫁いだと言うエリサベト夫人は、国王陛下が独身である今、アンジェス社交界のヒエラルキーのトップグループに位置するご婦人だ。
以前〝ロッピア〟で見かけたコンティオラ公爵夫人よりも、遥かに余裕と気品をお持ちのように見えた。
フォルシアン公爵が美形でなくとも、ベタ惚れしたって不思議じゃない。
と言うかこの二人が結婚したところで、誰も文句がつけられなかったんじゃないだろうか。
そんな事を思っている間に、テーブルにはワンプレートディッシュと、麺類用の小さな器がそれぞれの前に置かれた。
「まあ…これは何から口にさせて頂いたら宜しいかしら」
元の世界の〝うどん〟を知るシャルリーヌ以外の皆の疑問を代弁するかのように呟くフォルシアン公爵夫人に、私は〝海鮮カルグクス〟もどきへと視線を向けた。
「皆様よくご存じの〝バーミセリ〟料理とは少し違って、あまり長い時間スープに浸かったままだと、元の触感や味が損なわれてしまうので、出来ればこちらからお召しあがりいただけますか。それと、この野菜の揚げ物も、時間が立つと柔らかくなってきてしまうので、出来れば早めにお召し上がりいただきたいです。こちらに関しては、この、むき出しの〝バーミセリ〟を野菜スープに絡めて食べる時に交互に食べると、口の中で味が上手く調和します」
当然、お箸はこの世界に存在しないので、パスタ風に食べるより他はない。
なので、スプーンの上で丸められる程度に、麺は気持ち短めに切って貰ってあった。
「……レイナ様、この細長い〝バーミセリ〟の上に乗っている、殻付きの食べ物は何ですか?僕、初めて見たかも……」
「あ、ハルヴァラ領も海に面していないから、あまり見ないのかな?それか、殻付きで出てくる事がない?コンティオラ公爵閣下の領地で水揚げされる魚介類の中で、今の時期に出回っているものを何種類か持って来て貰ったの。中の身は小さいけど食べられるし、煮ると良いスープの素になるんだよ」
「あ…そう言えばクリームスープに入っているのを見た事があるかも……?」
一生懸命に記憶を辿っているらしいミカ君に、私はうんうんと頷いて見せる。
そうか。クラムチャウダー(もどき)とかなら、食卓にのぼる事もあるのかな。
「うわぁ、レイナ様、こっちの浸して食べる分と、スープの味が全然違うね!お野菜の方は、この前ファルコが作ってくれたのにちょっと似てるよ!」
有難うミカ君。
ミカ君のリアクションに合わせて、とっても解説しやすくなります、ええ。
「ああ、あっちは鶏ガラベースで、鶏の味が結構全面に出ていたから、その違いはあるのかな?今回のは、この野菜の揚げ物と合わせたかったから、野菜の切れ端だけを煮出して貰ったんだよ?ミカ君、どっちが好き?」
「……違いすぎて選べないかも……」
そしてシャルリーヌは、多分、フォルシアン公爵夫人がいるから、必要以上にはしゃげないんだろう。
見て察してくれと言わんばかりに、仮名称「海鮮カルグクス」も「肉汁つけうどん天ぷら添え」も黙々と口に運んでいた。
うん、どうやらそれなりに故郷を懐かしむ味にはなったみたいだ。
「レイナ嬢、この野菜の揚げ物の作り方を伺っても……?」
出来立てサクサクとは言わないまでも、まだベタベタにまではなっていない、キノコの天ぷらを口にしながら、ウルリック副長が聞いてくる。
ベルセリウス将軍も「うむ。我らが普段口にする〝アイニッキ〟や〝フゼッリ〟の揚げ物とは、似て非なる仕上がりだ」と、食べながら頷いている。
「最後『揚げる』と言うところでは、他の物と同じですよ?ただ〝アイニッキ〟は揚げる前にパンの粉、〝フゼッリ〟や〝スヴァレーフ〟はそれぞれ素揚げなところ、これはお菓子向けの小麦粉に、卵と冷たい水を合わせた専用の液を絡めて揚げてあるんです。野菜は山に入ればある程度は手に入りますし、小麦粉や卵なんかも、大抵の家庭で手に入るでしょうから、作りやすい筈なんですよ」
以前の私の様な一人暮らしだと、油を多く使う事が面倒な側面もあるけれど、レストラン含めある程度の人数がカウント出来る所なら、それほど苦にはならない筈だ。
「今日は主食ぎみに〝バーミセリ〟と絡めてご用意しましたけど、単独なら塩だけを振って、酸味のある白ワインと一緒に、おつまみとして食べられる――と、厨房の誰かが言ってました」
「ああ、それは確かにそうかも知れませんね……」
キノコの天ぷらに視線を落としたまま、ウルリック副長も賛成とばかりに頷いている。
…うん、毎年酒代が凄い軍の中では、いずれ重宝されそうな気がしてきたかも。
「どうでしょうか、ハーグルンド領の皆さんにも受け入れられると思いますか?」
恐らくはこの中で一番庶民感覚に近いと思われるウルリック副長に尋ねてみたところ「そうですね…」と、一瞬、考える仕種を見せた。
「この、野菜の切れ端で出来たと言うスープに、キノコと野菜、牛肉が浮いているのは良いと思いますよ。これだけだと味が濃いから〝バーミセリ〟と絡めるんですよね?ええ、こちらの揚げ物がなくても成り立つでしょうね。いっそこの揚げ物は〝スヴァレーフ〟の素揚げのように、単独で酒場のつまみとして提供するのもありかと思いますよ。もちろん、合わないと言っている訳ではないのですが」
「うむ。普段の食事に出されるパンなどとは合わないだろうな。このあとにデザートが出て来ても、味のつり合いが取れぬ気がする。ただ、もしも主食の一環として捉えるならば、逆にこの食し方しかないのではないか?」
ウルリック副長の隣で、ベルセリウス将軍も真面目に考えてくれているようだった。
「それはそうですね……レイナ嬢、そのあたりは、いっそのことハーグルンド伯爵と相談されては如何ですか。どう売り出したいかを、当事者となる伯爵に決めて貰うのが良いと思いますよ。ああ、最初の問いに立ち返らせていただくなら、充分に売り物にも家庭料理にもなり得るかと」
そう言ってウルリック副長は、舞茸もどきな天ぷらを口に運んで、満足そうに微笑ってくれた。
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