聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

312 普通の王子サマはいませんか

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 正直、ギーレンの王子二人にしろ、今回のサレステーデ国のドナート第二王子にしろ、思わず「まともな王子サマはいないのか――!」と声を大にして言いたくなる様な面子ばかりだった。

(ギーレンのパトリック元第一王子には会っていないにしろ、シャーリーから聞いているだけでお腹いっぱいになった)

 だからこそ、せめて今回のキリアン第一王子くらいは、まともであってくれないかと期待はしてみたものの。

「……レイナ?」

 多分、横でカチッと固まった私に不審を覚えたに違いないエドヴァルドの声も、右から左にすり抜けた。

 ……多分アレ、サングラスかけたら「飛ばねぇ豚は……」のキャラ一直線な気がする。

 ただあちらは、声や行動の渋カッコよさがあった。それも年齢を重ねているだろうが故の事であって。

 明らかにこちらは、世の「王子様」のイメージをぶち壊すであろう、イレギュラーな存在だと思う。

 うん、確かに私が国王ならドナート第二王子に王位は譲りたくなるかも知れない。
 と言うか、そりゃ〝蘇芳戦記〟の静止画スチルにだって出ない。

 夕食会になったらシャルリーヌにも聞いてみようかな。きっと同意してくれそうだ。

「――どう見ても、王族の地位に胡坐をかいて、食べ放題好き放題した感じですかね?」

 上着のボタンが弾けそうな上に、まるで蹴球ボール…ごほん、歩くより転……ごほんごほん。
 だめだ、何言ってもフォローにならない、どうしよう。

 頑張って小声で囁いてみたところが、エドヴァルドも、ベルセリウス将軍始め周囲の面々も、思わずと言ったていで顔をそむけていた。

「……レイナ。真面目な場で笑わせないでくれ」
「いや、別に冗談を言ったワケでは。的確な表現をするための語彙力不足です、ハイ」

 さて困った。
 どうしたものかと思っていると、玉座にいらっしゃる陛下サマからの忌々しげな視線がこちらに突き刺さっていた。

 後で教えてあげよう。少しは和むかも知れない。

 でもって、同じ様な体型で、後ろにもう一人年配の男性が立っているのは、アレがバルキン公爵なんだろうか。

 ドナート第二王子は側妃の子と言う事だから、こっちの王子サマと似ていないのは納得なんだけど。

 そもそも、一定の基準を超えてになってくると、誰と似ている似ていないを比較しにくくなってくるんじゃないかと言うのは、私の勝手な偏見なんだけれど。

「この度は愚弟愚妹が迷惑をかけて申し訳ない!二人は我が国に連れ帰った上で厳重な処罰をさせて貰うので、早々に引き渡し願えまいか!」

 そしてその王子サマの第一声に、謁見の間が全体がざわついた。

「ほう……」

 うわ、玉座の陛下フィルバートが怖い怖い!

 確かにこれは、私でも分かる礼儀知らずだ。

 常套句としての、国と陛下の健勝を喜ぶ挨拶がまずないし、その上、一方的な自国の要求をのっけからこちらに突き付けている。

 国の規模以前に、一王子と一国の国王と言う身分差があるにも関わらず、だ。

 何より、まずもって己の名前を名乗っていない。

「あの王子、外交経験と言うものがないのか……?」

 いや、そもそも教育の問題か…と、エドヴァルドは怒る以前に唖然としているみたいだけど。

「話の前に、国王陛下は息災か?具合が悪く臥せっていると聞いたのだが」

「ん?ああ、父上か!うむ、今の父上は寝台から出る事も、会話さえもままならぬ状態だ!なのでこのキリアンの言葉を国の意向として捉えて貰って構いませんぞ!」

「………なるほど」

 ああ、やっと名乗った――って、名乗った内に入るのかな、これ?
 泣く子も黙る陛下でさえ、ちょっと呆れているみたいだけど。

 普通なら、自国の国王の容態を、他国の衆人環視の前でペラペラ喋ったりはしない。
 場合によっては外交戦略の切り札にだってなり得るからだ。

 分かります陛下。
 逆に裏があるのかと疑いたくなってしまいたくなるのは。

 ふと、ドナート王子とドロテア王女の方を見れば、王女は座り込んだままキリアン王子を睨みつけていて、ドナート王子の方は視線をあらぬ方向にやりながら諦めに似た表情を浮かべている。

 いずれにせよ「このバカ…!」と思っているのが、表情から窺い知れた。

「……多分あれが、第一王子サマの素のお姿なんでしょうね」

 そこから推測した印象をエドヴァルドに囁けば、物凄く顔をしかめた状態で「だろうな」と囁き返された。

「でも、アレならアレで、自国を出奔する必要って――」

 むしろアレならば、自分たちの好きに操れると考える、ロクでもない貴族しか周りに集まらない筈。
 決してドナート第二王子が不利とは言い切れないだろうに。

 やはり物理的な命の危機があり、それが深刻な事態になっていたと言う事だろうか。

「――ドナート王子」

 一応、をして捕らえられているのだからと、フィルバートは「殿」や「殿下」といった呼びかけをしなかった。
 自国の人間でもない為、かろうじて呼び捨てだけ避けた形だ。

「今回しでかした事に関しての言い訳は、第一王子殿下が来たら聞かせてくれるとの事だったが、相違なかったか?

 暗に「コイツ正式に名乗ってないが」と当てこすっているフィルバートに、ドナート王子は盛大に表情かお痙攣ひきつらせていたけど、当のキリアン王子には全く響いていない様だった。

 そして更に驚いたのは、随行している者達からも、誰一人として声があがらない事だろうか。

 いや、普通はそろそろ謝罪じゃない?誰か一人…って言うか、お目付け役のバルキン公爵とやらだけでも、ここは。

 と、思っていたら。

「陛下!我々は『自ら引き取りに来るならば罪人は引き渡す』との、そちらの要求を吞んだまで!いくら他国の王と言えど、それ以上は内政干渉ではございませぬか⁉」

 ……キリアン王子以上の残念なヒトが、そこにいました。

「は?」

 そして陛下が、キレる寸前。
 は?と言うよりは「あぁ⁉」って言ったようにも聞こえた。

 私は思わずエドヴァルドの上着の袖を引っ張っていた。

「いや、まあ、ああなった陛下はちょっとな……」

 そしてまさか、エドヴァルドがそれを止めないとか!

 ひょっとして謁見の間が血の海に――なんて顔を痙攣ひきつらせてしまった私を横目に、エドヴァルドは小声でベルセリウス将軍を呼んでいた。

「ベルセリウス。もしも陛下が動かれたら、おまえは王子の斜め後ろに立っている背の高い男に気を配れ。恐らくこの場で一番厄介なのは、あの男だろう」

「は……」

 エドヴァルドの言葉に、ベルセリウス将軍も二度は聞き返さなかった。
 と言う事は、同じ様にその男を警戒していたと言う事なんだろう。

「恐らく私の威嚇をあの男も察知しているとは思いますので、余程の事がない限り、この場では動かぬと思いますが……確かに、陛下次第でしょうな」

 え、あ、もしや護衛と言っても裏稼業、物騒な方向に極振りしている護衛とか、そんな感じ……?

 私の声に出さなかった疑問を感じ取ったのか、エドヴァルドも答える代わりに、私を庇う姿勢で右手を少し上げていた。

 そしてそのまま、場の成り行きを見守るしかなかった。
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