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第二部 宰相閣下の謹慎事情
【侍女長Side】ヨンナの目標
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
ミカ・ハルヴァラ伯爵令息がそろそろ自領に帰るからと、ボードリエ伯爵令嬢も交えて〝てんぷらパーティー〟を開くとレイナ様が仰られた時には、最初は私もセルヴァンも微笑ましくお話を伺っておりました。
ところがその後、旦那様からクヴィスト公爵家を除く残りの公爵家のご当主様方と、昼食会を隠れ蓑に集まる事になったと連絡が入り、当家は蜂の巣をつついたような大騒ぎになりました。
明らかに〝てんぷらパーティー〟などと言っていられない状況になったからです。
私共はてっきり、そちらの集まりは延期をして、公爵様方にお出しするに相応しい料理に変更をしないといけないだろうと思っておりましたところが、旦那様からの連絡を告げた使者が、レイナ様からの伝言もあるとの事で、揃えられるか確認して欲しいと言う、多種多様な材料の名前をそこで告げられました。
「元の準備はそのままで、どうせならハーグルンド領で穫れる作物を想定した料理やら各領で穫れる食材を使った料理を追加で並べて、公爵様方には復興事業に協賛して貰いましょう!」
そうすればミカ様もシャルリーヌ様もお断りをせずに済むのと、着席ビュッフェ風にして、テーブル同士離せば、公爵様方だけでこみ入った話も出来るだろうと、お戻りの後はそう仰ったのです。
着席ビュッフェ、と耳慣れない形式の内容を伺えば、レイナ様のお国で在る、料理は立食パーティーと同じに用意しつつ、食事はコース料理のように座って食べる、立食と着席の中間形式の事だと仰られました。
公爵様方のテーブルにだけ、侍女の誰かが料理を一通りお皿に取り分けて出すようにすれば、それほどくだけた感じにもならない筈だ、と。
ただ、こんなに急な話で材料は揃うのかと心配をしていらっしゃったので、それに関しては「季節外れでない限りは問題ない」旨お伝えをしておきました。
「全員総出、エドヴァルド様からは臨時報奨確約済み!公爵様方が召し上がられなかった分は、そのまま皆のランチになるから頑張って!量が多い方が見栄えも良いしね!」
前回の〝てんぷらパーティー〟に続いて、また初見の料理にありつけるとの事で、臨時報奨もさることながら、料理に期待する使用人達も数多くいたのです。
レイナ様は、基本的には作り方を口頭で説明されるだけで、厨房の料理人達の職域に踏み込む様な事はなさいません。
料理長のラズディルなどは、本来であれば気難しい料理人である筈なのですが、レイナ様と普通に打ち合わせを重ねて、レイナ様のアイデアを形にしています。
結果的に10種類近い料理があっと言う間に出来上がって、公爵様方やフォルシアン公爵夫人にも、礼を欠いたと言われる事のない昼食会を開く事が出来たのです。
「みんな、協力ありがとう!あ、ただ食べないでね!アリかナシか、ハーグルンド領で振る舞えるかどうか、改良の余地があるならあるで、全部聞かせて!」
そして公爵様方が場を離れられ、その場が無礼講になったところで、今ではすっかり仲良くなられたシャルリーヌ様が、他は誰も言えないだろう事を言葉になさっておられたのです。
「ちょっとぉ、あの宰相閣下の駄々洩れの牽制に、まさか気が付かないの⁉あのままいったら、陛下ルートじゃないのに、監禁エンド驀進よ⁉今のうちからちゃんと教育しようよ――‼」
ところどころ分からない単語はあるものの、旦那様がレイナ様を公爵邸の中で真綿に包みたいとお思いだろう所には賛成です。
媚薬騒動ではギリギリの所で踏み止まられていた筈の旦那様が、ギーレンからお戻りになられた夜に、今度こそレイナ様と一線を越えられたのだと言うのは、前回にはなかったシーツの汚れですぐに分かりました。
旦那様が、王命だからではなく、本気でレイナ様を望まれたのだと。
それは私やセルヴァン、公爵邸の皆が半ば諦めかけていた、この邸宅に女主人をお迎えする事への確かな一歩だと。
当然、喜ぶべき事ではあるのですが。
旦那様の辞書にも欠けている単語があったとは、想定していませんでした。
シャルリーヌ様の危惧も当然の事と言えましょう。
そして旦那様の不安と心配が、サレステーデ国からの無礼な客人の出現によって加速していました。
本来であれば、旦那様はこの国の宰相であり、5人しかいない公爵家当主でもいらっしゃいます。
恐らくは十人中十人が、旦那様の庇護下に入る事を勧めて、それを受け入れる流れである筈なのです。
「王宮内での警護に関しては、お二人はどうか、エドヴァルド様を最優先になさって下さい」
ですがレイナ様の中に「自分以外の誰かを頼る」――そう言う発想が、そもそもおありでないようなのです。
ベルセリウス侯爵様のお顔を拝見していますと、レイナ様のお言葉も、間違いではないのだと言う事は分かります。
旦那様は、全てを自分でやってしまう――ええ、それはそうでしょう。
ですが全く同じ事がレイナ様にも言えると、その自覚をお持ちでないのです。
「何があっても自己責任の日々で、誰かに心配して貰うとか、ちょっと新鮮と言うか……?」
ファルコに守ってもらう。
それは、当たり前の中でも底辺にある話なのですが。
うっかり、旦那様とどちらの味方も致しかねますとお答えをしてしまいました。
「――ヨンナ」
レイナ様の部屋を出たところで、意外そうな声が聞こえて思わず振り返ると、そこにはセルヴァンがいました。
「旦那様には『手加減』を覚えて貰わないといけないんだろう?」
「ええ、もちろん。ですがレイナ様を変えられるのも、旦那様しかいらっしゃらない気もして――」
私の言葉にセルヴァンも反論の言葉がとっさに出て来なかったようでした。
翌日もやはり、自分の事はともかく、旦那様の悪口に耐える自信の方がないと、レイナ様は仰います。
「我々に出来るのは、この邸宅での居心地をより良くする事だけ、か……」
「セルヴァン?」
首をひとつ振って、セルヴァンはあくまでにこやかにレイナ様に近付いていました。
「そう言う時にはもっと他に効果的な方法が幾つかございますので、お着替えの際にでもヨンナから伝授させましょう。いくらなんでも衆人環視の下での、頭からのワインがけは目立ちすぎますから」
ユティラ・フォルシアン公爵令嬢主催のお茶会までに、嫌がらせをするようなご令嬢がいらした場合の社交術を、私とセルヴァンは他家の使用人から近ごろ教わっておりましたが、それを少しずつレイナ様にお教えしようと言う事なのでしょう。
旦那様とレイナ様の「手加減」と「反省」の攻防は、もうしばらく続きそうです。
とは言え今のところ、レイナ様の方が家出をしている単語が多そうなので、先にレイナ様に自覚を持って頂くところから始めないといけないのかも知れません。
ミカ・ハルヴァラ伯爵令息がそろそろ自領に帰るからと、ボードリエ伯爵令嬢も交えて〝てんぷらパーティー〟を開くとレイナ様が仰られた時には、最初は私もセルヴァンも微笑ましくお話を伺っておりました。
ところがその後、旦那様からクヴィスト公爵家を除く残りの公爵家のご当主様方と、昼食会を隠れ蓑に集まる事になったと連絡が入り、当家は蜂の巣をつついたような大騒ぎになりました。
明らかに〝てんぷらパーティー〟などと言っていられない状況になったからです。
私共はてっきり、そちらの集まりは延期をして、公爵様方にお出しするに相応しい料理に変更をしないといけないだろうと思っておりましたところが、旦那様からの連絡を告げた使者が、レイナ様からの伝言もあるとの事で、揃えられるか確認して欲しいと言う、多種多様な材料の名前をそこで告げられました。
「元の準備はそのままで、どうせならハーグルンド領で穫れる作物を想定した料理やら各領で穫れる食材を使った料理を追加で並べて、公爵様方には復興事業に協賛して貰いましょう!」
そうすればミカ様もシャルリーヌ様もお断りをせずに済むのと、着席ビュッフェ風にして、テーブル同士離せば、公爵様方だけでこみ入った話も出来るだろうと、お戻りの後はそう仰ったのです。
着席ビュッフェ、と耳慣れない形式の内容を伺えば、レイナ様のお国で在る、料理は立食パーティーと同じに用意しつつ、食事はコース料理のように座って食べる、立食と着席の中間形式の事だと仰られました。
公爵様方のテーブルにだけ、侍女の誰かが料理を一通りお皿に取り分けて出すようにすれば、それほどくだけた感じにもならない筈だ、と。
ただ、こんなに急な話で材料は揃うのかと心配をしていらっしゃったので、それに関しては「季節外れでない限りは問題ない」旨お伝えをしておきました。
「全員総出、エドヴァルド様からは臨時報奨確約済み!公爵様方が召し上がられなかった分は、そのまま皆のランチになるから頑張って!量が多い方が見栄えも良いしね!」
前回の〝てんぷらパーティー〟に続いて、また初見の料理にありつけるとの事で、臨時報奨もさることながら、料理に期待する使用人達も数多くいたのです。
レイナ様は、基本的には作り方を口頭で説明されるだけで、厨房の料理人達の職域に踏み込む様な事はなさいません。
料理長のラズディルなどは、本来であれば気難しい料理人である筈なのですが、レイナ様と普通に打ち合わせを重ねて、レイナ様のアイデアを形にしています。
結果的に10種類近い料理があっと言う間に出来上がって、公爵様方やフォルシアン公爵夫人にも、礼を欠いたと言われる事のない昼食会を開く事が出来たのです。
「みんな、協力ありがとう!あ、ただ食べないでね!アリかナシか、ハーグルンド領で振る舞えるかどうか、改良の余地があるならあるで、全部聞かせて!」
そして公爵様方が場を離れられ、その場が無礼講になったところで、今ではすっかり仲良くなられたシャルリーヌ様が、他は誰も言えないだろう事を言葉になさっておられたのです。
「ちょっとぉ、あの宰相閣下の駄々洩れの牽制に、まさか気が付かないの⁉あのままいったら、陛下ルートじゃないのに、監禁エンド驀進よ⁉今のうちからちゃんと教育しようよ――‼」
ところどころ分からない単語はあるものの、旦那様がレイナ様を公爵邸の中で真綿に包みたいとお思いだろう所には賛成です。
媚薬騒動ではギリギリの所で踏み止まられていた筈の旦那様が、ギーレンからお戻りになられた夜に、今度こそレイナ様と一線を越えられたのだと言うのは、前回にはなかったシーツの汚れですぐに分かりました。
旦那様が、王命だからではなく、本気でレイナ様を望まれたのだと。
それは私やセルヴァン、公爵邸の皆が半ば諦めかけていた、この邸宅に女主人をお迎えする事への確かな一歩だと。
当然、喜ぶべき事ではあるのですが。
旦那様の辞書にも欠けている単語があったとは、想定していませんでした。
シャルリーヌ様の危惧も当然の事と言えましょう。
そして旦那様の不安と心配が、サレステーデ国からの無礼な客人の出現によって加速していました。
本来であれば、旦那様はこの国の宰相であり、5人しかいない公爵家当主でもいらっしゃいます。
恐らくは十人中十人が、旦那様の庇護下に入る事を勧めて、それを受け入れる流れである筈なのです。
「王宮内での警護に関しては、お二人はどうか、エドヴァルド様を最優先になさって下さい」
ですがレイナ様の中に「自分以外の誰かを頼る」――そう言う発想が、そもそもおありでないようなのです。
ベルセリウス侯爵様のお顔を拝見していますと、レイナ様のお言葉も、間違いではないのだと言う事は分かります。
旦那様は、全てを自分でやってしまう――ええ、それはそうでしょう。
ですが全く同じ事がレイナ様にも言えると、その自覚をお持ちでないのです。
「何があっても自己責任の日々で、誰かに心配して貰うとか、ちょっと新鮮と言うか……?」
ファルコに守ってもらう。
それは、当たり前の中でも底辺にある話なのですが。
うっかり、旦那様とどちらの味方も致しかねますとお答えをしてしまいました。
「――ヨンナ」
レイナ様の部屋を出たところで、意外そうな声が聞こえて思わず振り返ると、そこにはセルヴァンがいました。
「旦那様には『手加減』を覚えて貰わないといけないんだろう?」
「ええ、もちろん。ですがレイナ様を変えられるのも、旦那様しかいらっしゃらない気もして――」
私の言葉にセルヴァンも反論の言葉がとっさに出て来なかったようでした。
翌日もやはり、自分の事はともかく、旦那様の悪口に耐える自信の方がないと、レイナ様は仰います。
「我々に出来るのは、この邸宅での居心地をより良くする事だけ、か……」
「セルヴァン?」
首をひとつ振って、セルヴァンはあくまでにこやかにレイナ様に近付いていました。
「そう言う時にはもっと他に効果的な方法が幾つかございますので、お着替えの際にでもヨンナから伝授させましょう。いくらなんでも衆人環視の下での、頭からのワインがけは目立ちすぎますから」
ユティラ・フォルシアン公爵令嬢主催のお茶会までに、嫌がらせをするようなご令嬢がいらした場合の社交術を、私とセルヴァンは他家の使用人から近ごろ教わっておりましたが、それを少しずつレイナ様にお教えしようと言う事なのでしょう。
旦那様とレイナ様の「手加減」と「反省」の攻防は、もうしばらく続きそうです。
とは言え今のところ、レイナ様の方が家出をしている単語が多そうなので、先にレイナ様に自覚を持って頂くところから始めないといけないのかも知れません。
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