聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

363 好奇心はほどほどに

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

 スヴェンテ公爵邸訪問の件は後で話そうと言われ、夕食の後、入浴や着替えを済ませた所で、エドヴァルドの部屋へと向かった。

 続き扉を塞いでいる意味が、最近ない…と言うかすっかり形骸化している気がする。

 ヨンナ曰く「それでも、今元に戻せばなし崩しになります」との事なので、最近は二人で交互に部屋を行ったり来たりしている日々が続いている。

 少なくとも、バリエンダールに行って、帰って来るまではこの状況が続きそうだ。

「え、明後日なんですか⁉」

 私の言葉に、水差しを持って来てくれていたヨンナも、ちょっと柳眉を逆立てていた。

 …うん。フォルシアン公爵家のユティラ嬢からのお茶会への招待を除いては、明らかに礼儀作法マナーを無視した会ばかりが開かれているものね。

 エドヴァルドも、チラッとヨンナを見た後「ただの社交なら礼儀作法マナーも弁えるが……」と、分かっていると言った言い方をしていた。

「恐らく明日には、バリエンダール王家からの訪問日時の指定連絡が王宮に届くだろう。今回は封書のみで、中身も起きた事実しか書かれていなかったとなれば、一刻も早くテオドル大公に事情を説明しに来て欲しいとなる筈だ」

「なるほど……敢えて詳細を書かないやり方を選んだんですね?」

「起きた事をそのまま書いたとて、貴女は信じるか?」

「………」

 的確すぎるエドヴァルドの返しに、私は何も言えなくなった。

 王子二人に王女一人。まさかそれぞれにアンジェス国内で揉め事を起こしたなどと、普通の神経ならまずアンジェス側からの謀略を疑うだろう。

 それこそ、テオドル「大公」くらいの証言があって、初めて信じるかどうかと言ったレベルの話だ。

「今回は、社交ではなく緊急案件となるから、返信が届く日から3日以内の日時が記載されていたとしてもおかしくない。そうなると、スヴェンテ老公とミカを会わせるのは明後日くらいまでがギリギリになる。スヴェンテ老公も納得ずくで決まった事だ」

 イデオン公爵領傘下の次期伯爵ミカ君を、エドヴァルド抜きでスヴェンテ家に招くとなれば、いらぬ憶測を呼ぶだろう事は想像に難くない。

 なるほどスヴェンテ老公爵に「諦める」と言う選択肢がないのなら、明後日あたりがタイムリミットなのかも知れない。

 そしてミカ君は、私の同行も希望した。
 無意識かも知れないけど、庇護者であるエドヴァルドだけではなく、次期ハルヴァラ伯爵も認めているのが私だと、対スヴェンテ老公を含めて、王宮の内外にさりげなく知らしめようとしてくれているんだと思う。

 ミカ君の中に、自分の一挙手一投足が、次期ハルヴァラ伯爵としての評価に繋がるとの自覚が育ちつつあって、多分ウルリック副長あたりが、今回の王都滞在を通して、さりげなく教導している。

 だからエドヴァルドも、最後には折れたのだ。

「あぁ…ミカ君の成長が嬉しいやら哀しいやら……」

「このまま成長するようなら、スヴェンテ老公が先々縁談を持ちかけてくる可能性もあるな。次期スヴェンテ公爵となるリオルは、まだ4歳。2学年違えど、もしかしたら学園での学友狙いで紹介はしてくるだろうし、3年以内くらいにリオルに妹でも出来れば、確実にミカが相手として対象になるだろうよ。伯爵家と公爵家と言えど、ミカは次期当主だ。白磁器の更なる発展が加わったりなどすれば、スヴェンテ側も誰も反対すまい」

「!」

 ちょっとした愚痴のつもりが、まさかのガチの将来展望。

 高位貴族の世知辛さを、こんなところで痛感させられる。

「せめて恋愛に発展して欲しいと思うのは甘いんでしょうか……ああ、いえ、まだ生まれてもいない他家の女の子の話をしてもしょうがないんでしょうけど……」

 いや、とエドヴァルドが片手を振った。

「確かに、生まれてもいない子との将来を考えるのも、先走り過ぎだな。可能性の話として、頭の片隅に残しておくくらいで、ちょうど良いだろう。そもそも、ミカは〝ロッピア〟以降、複数の貴族家に『次期伯爵』として認知された。スヴェンテでなくとも、あと何年かすれば縁談が殺到する筈だ。よく考える様に、予めチャペックあたりには伝えておく必要があるだろうな」

「……ちなみに、エドヴァルド様」

「ああ」

「純粋に、ただただ疑問なんですけど、学園の中で、先々おかしな女性ハニトラに引っかからない様、あれこれ伝授してくれると言う『裏の科目』があるって、本当なんですか?」

「―――」

 その瞬間、エドヴァルドの顔からごっそりと表情が抜け落ち――否、日頃の鉄壁無表情に拍車がかかって空気が冷えた。

 ……どうやら聞き方を間違えたっぽかった。

「レイナ。…どこでそんな話を?」
「……ワスレマシタ」

 うん。
 多分ボードリエ家で聞いた様な気はするけど、きっとコレは、思い出さない方が世の中平和だ。

 ――好奇心は身を滅ぼす。

 日本の格言って、疎かに出来ないモノなんだな……。

「そ…そう言えば、スヴェンテ公爵邸の庭園が、凄く有名なんですよね⁉︎季節ごとに咲く花がそれぞれ凄いって」

 誰が聞いても強引に過ぎる話題の転換だとは思ったけど、エドヴァルドはため息一つで、深く追求しないでいてくれた。

「リオルが成人するまでは、派手な社交は慎むとして、庭園の開放はしないつもりの様だが、フォルシアン公爵が確か、婚約者時代のエリサベト夫人を初めて誘ったのがその庭園だと、昔散々惚気られた覚えがある」

「な、なるほど」

「今回は、老公とミカが話をするところに、私や貴女を同席させたくないが為の妥協、その日その時間限りの臨時開放と言う扱いで庭園を開けるようだ。――花は好きか?」

 最後、思ってもいなかった事を聞かれて、思わず答えに詰まってしまった。

「……考えた事なかったです」

「……私に言えた義理でもないが、考えて答えを出す物ではない気がするが」

「大学――学園に入学した時に、門の近くに咲いていた桜――花なんですけど、それを見た時には凄く感動したんです。ただそれって、花より状況に感動したとも言えるでしょうし、だからと言って嫌いとは言えないし……面倒なコト言ってますね。概ね好き、で良いんじゃないでしょうか。むしろこの公爵邸とシーカサーリ王立植物園以外で見る花は初めてになる訳ですし、楽しみの方が大きいかも知れませんね」

 これから好きな花を作ってみましょうか、と微笑わらう私に、エドヴァルドも「…それは良いな」と、淡く微笑わらい返してくれた。

「では、季節が変わるごとにスヴェンテの庭園を訪ねさせて貰う事にしようか。都度、気に入った花が見つかれば私に教えてくれ。可能な限りこの公爵邸にも取り入れて行こう。――まずは明後日からだな」

「はい。そうしますね」

 その後、エドヴァルドの部屋を辞したヨンナは、セルヴァンに「あれでは急な他家への訪問を、とても責められない」と、複雑な内心を吐露していたとの事だった……。
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