聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
310 / 790
第二部 宰相閣下の謹慎事情

391 妹>兄

※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「失礼致します」

 バリエンダールの王宮侍女に、部屋の灯りは消さないようにとお願いをして、下がって貰った筈が、それほどの間を置かずして、扉が再びコンコンとノックされた。

「――にございます、お嬢様」

「⁉」

 さっきのバルトリもそうだったけど、バリエンダール王宮、警備は大丈夫なのか。

「ご指示頂いておりました品物が手に入りましたので、お持ち致しました」

 品物と言うのは、明日の散策衣装だろうか。
 
 眉を顰めはしたものの、声は間違いなく〝シーグ〟のソレだ。

「……イオタ、外に回れる?」
「はい⁉」

 一応、ここは1階じゃない。
 すぐに扉を開ける愚は犯したくないので、どう言う反応をするかと思って何気なく聞いてみたら、素で声が裏返っていた。

「ここ、アンジェスでもギーレンでもありませんけど、不法侵入者扱いされたらちゃんと責任とって下さるんですよね?」

 反発しない。
 無理とも言わない。
 そう返せるからには、誰かに脅されて立っているって事もなさそうだ。

 いやぁ、お兄ちゃんより遥かに成長したねシーグ。

「冗談、冗談、今開けるから」

 そう言って私はようやく、シーグを部屋の中へと招き入れた。

「って言うか、そもそもイオタこそ既に不法侵入じゃないの。しれっと王宮侍女のフリなんかして。さっき来たバルトリもそうだったけど、どうやって王宮に入ってきているの?」

 ちょっとした私のイヤミにも、シーグは動じた風ではなかった。

「そのバルトリさんに、認識疎外の魔道具を貸して貰ったんですが」

 そして投げたイヤミの球を想定外の方向に打ち返された私が固まった。

「え…認識疎外の魔道具って、透明人間にもなれるの……?」

「その『とうめいにんげん』なるものが私にはよく分かりませんが、それを持っていると、他の人からは存在が見えなくなるんだそうで。景色を変えるだけならギーレンやサレステーデにもありますが、人となるとアンジェス王宮管理部の門外不出の設計になるそうで。今回の為に特別に、バルトリさんには複数個融通されているらしいですよ」

 殿下の所に持ち帰れないのが残念です、と真顔で語るシーグ。

 リファちゃんが付けている魔道具もそうだけど、既存の品をドンドンと改良してのける、突き抜けたオタクっぷりがもはや怖いよ、王宮管理部。

「……バルトリには「さん」付なの、イオタ?」

 不意に気付いた疑問を口にしてみれば、シーグ自身も無自覚だったのか「ああ…」と、軽く目を見開いていた。

「衣装のせいなのか、独特の雰囲気があると言うか、呼び捨てにしづらいと言うか……」

「まあ、確かに分からなくはないけどね。それで今、バルトリは?」

「多分まだ、この衣装を貸してくれたと言う人と話をしてるんじゃないかと。なのでリックと今、手分けして衣装を各部屋に届けてました」

 私の部屋が最後、と言う事でシーグが手にしていた服をソファの背もたれに広げて見せてくれた。

「うわぁ……」

 赤と青がメインカラーになっていて、青いプリーツがたっぷり入ったワンピースは女性用と言う事だろう。
 襟元、袖口、裾は赤を基調とした刺繍が丁寧に施されていた。

 バルトリからの又聞きと言う事でシーグが説明してくれたところによると、民族ごとにメインカラーや刺繍の模様が違ったり、模様なしで単一色の袖口だったりする事もあるそう。

 そして耳当て付の刺繍入り帽子とショールに関しては、公的な場、正式な会がある時などに羽織るのだそうで、ショールに関してはフリンジ部分が普通のショールよりも割合が多く、目立つ形になっていた。

 男性用に関しては、女性と同じデザインのシャツに、カラハティの皮で作られたパンツを合わせるのだそうだ。
 
 あとは男女とも、足元にはカラハティの皮や毛皮でできた靴を履くのが正式な出で立ちらしい。

「ただ靴だけは、雪の大地で歩く事を想定しているから、王都で使用するのは、あまり向いていないんだそうです。貸して下さった方も、そこは環境に合わせるべき――と、刺繍だけを残して、ブーツに改良されたらしいですよ」

「ああ、なるほど」

 と言う事は、将来における己の民族の在り様についても、比較的柔軟な思考の持ち主なのかも知れない。
 ならそれなりに明日は、実のある話が出来るのかも知れない。

「衣装の件は、ありがと。明日は『ユングベリ商会従業員』として宜しくね?」
「ええ…まあ――」
「――それでね」

 頷きかけたシーグを遮るように私が顔を覗き込めば、どこかのタイミングで聞かれるだろうと思っていたっぽいシーグは、ちょっと表情かお痙攣ひきつらせていた。

の収穫はあった?」
「……っ」

 敢えてニッコリ笑えば、案の定ドン引いている。
 仕方がないので、ちょっとだけ手札を見せる事にする。

「ここに来る前も一度言ったけど、私としてはまだデビュタント前だけど、ここの王女様を推したいと思ってるの。あくまで今のところだけど」

「え…王女様って確か……」

「15歳。だけど貴族の結婚としては、それほどおかしな年齢差じゃないでしょ」

 ギーレンのエドベリ王子は25歳。
 別に現代日本でもそれほどおかしな年齢差じゃないけど、そこは比較対象にならないので口にしない。

「それに、が落ち着く頃でもあるし」

 王子様と聖女様の婚姻――なんて言う「夢と感動の物語(!)」は、成立させないワケにはいかない。

 結婚式もそうだし、王太子として立太子される儀式もいずれこなさなくてはならない。

 アレコレ準備しこみを考えるとするならば、実はミルテ王女がまだデビュー前だと言うのは、諸々都合の良い話ではあるのだ。

 そんなコトを若干嚙み砕いて説明すると、シーグはすぐには言葉を続けられなくなっていた。

「ただ、肝心の王女様がどこぞの聖女サマみたくお花畑の住民じゃ意味ないから、明日のお茶会で見てみたいとは思っているんだけど」

「そ…れは……確かに」

「シーグとリックは、来てすぐに王宮の王女サマだ王太子サマだって言ってもさすがに探れないだろうから、今日はとりあえず王家に嫁げそうな血筋のお嬢様方の情報を集めたんじゃないの?どうだった?明日のお茶会にもいるかも知れないし、教えて?」

 明日は朝早いのに良いのか、とその目が語っているけれど、そもそも衣装を持って部屋に来ている時点で、聞かれないとでも思っていたんだろうか。

 ちょいちょい、と向かいのソファを指させば、シーグも渋々と言ったていで腰を下ろした。
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

夫の不倫相手に「妻の座を譲れ」と言われたので、譲る代わりに全部置いていきます 〜行き先は老舗旅館。追いかけてきても、もう遅いです〜 

なつめ
恋愛
夫の愛人に「妻の座を譲れ」と言い渡された主人公は、怒鳴り返すこともしがみつくこともせず、ただ静かに頷いた。 家のこと、食事のこと、社交のこと、義実家のこと、会社の裏方のこと。 誰も価値を知らなかった“妻の座”の中身を、そっくりそのまま置いて家を出る。 向かった先は、かつて傷ついた自分を受け入れてくれた老舗旅館。 再建に奔走する若旦那とともに働く中で、主人公は初めて「役に立つから愛される」のではなく、「あなた自身がいてほしい」と言われる温かさを知っていく。 一方、主人公を軽んじた元夫の家では、生活も体裁も仕事もじわじわと崩壊を始める。 これは、何も持たずに出ていったはずの女が、自分の人生を取り戻し、最後には新しい恋と居場所を手に入れる再生の物語。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました

明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。 十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。 一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。

「静かで、退屈な婚約者だった」と切り捨てられたので、最後くらい全部言って去ることにしました

桃我タロー
恋愛
「静かで、退屈な婚約者だった」 婚約破棄のその日、王太子は広間でそう言い捨てた。 三年間、失言を隠し、場を整え、黙って支えてきたのに。 どうやら私に必要だったのは婚約者ではなく、“便利な人”という役割だけだったらしい。 しかも隣には、つい三日前まで殿下の従兄に求婚していた令嬢まで立っていて――。 ならばもう、黙っている理由はない。 これは、最後まで笑って終わるつもりだった令嬢が、自分の声を取り戻す話。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。