聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
325 / 787
第二部 宰相閣下の謹慎事情

405 ベルィフにおいで⁉

しおりを挟む
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「えーっと、今日は午後からがある訳だし――とりあえず、バルトリに残って貰おうかな?」

「何の話ですか」

 ベルィフ語を知らないバルトリは眉を顰めていたけど、私が「今日一日、あちらのシレアンさんの護衛」と言ったところで、渋々それを了承した。

 話の成り行きが分からずとも、シレアンがジーノ・フォサーティ宰相令息と懇意にしていて、明日、ユングベリ商会案件であちこち案内して貰う話をギルド長とした、と言ったところで大雑把に彼を取り巻く環境の危険性を察したらしかった。

「まあ、ジーノ本人やチェーリアには〝ダーチャ〟が付いているようですけど、確かにこのギルドには、今は誰もいないようですしね。もし〝ダーチャ〟から巡回で誰か来るようなら、ソイツに任せるってコトで構いませんか?ジーノにもジーノの考えがあるでしょうし」

「分かった。共同戦線張るもよし、そのあたりは状況に応じてバルトリの判断に任せるよ」

 私がそう頷いたところで、ナザリオギルド長が「おや」と、片眉を動かした。
 ギルド史上最年少のギルド長は、アンジェスで研修を受けただけあって、やはり問題なく一連のやりとりを理解出来ていたみたいだった。

「さて、ここからは元のバリエンダール語に戻すとして――取引の交渉は成立、ってコトで良いのかな、ユングベリ商会長?」

「ああ…はい、そうですね。誘導された感がものすっごいしますけど、明日物件の候補を見たかったのは事実ですし。王都にいる業者さんと会えそうなら、それもお願いしたかったですしね。そこにシレアンさんが付いて下さるのであれば、結果的にそうなるって話ですよ」

 ギルド職員の家名は、公の場に出席する可能性がある管理職の為の付与であり、本人たちは家名で呼ばれる事を好まない。

 多分バリエンダールも同じだろうと思って話しているけど、ギルド長も本人も、案の定訂正してこなかった。

「うん、じゃあ具体的には、人形が販売出来て、その縫製の為のスペースがあれば良いかな?調味料は、もう瓶詰めされた段階で置くよね。香り袋も完成品が置ければ良いかな?でないと、いつか誰かが汚しかねないし」

「そうですね。縫製に関しては、人形だけじゃなくて、必要であれば既存の服のお直しも受けられれば良いかなとは思っているんですけどね。あと、香り袋に関しては、中身の詰め替えとか」

「なるほど、なるほど。じゃあ多少は倉庫スペースも必要か」

「調味料に関しては、ガラス瓶にもこだわりたいんですよ。香り袋に関しても、袋と瓶と二種類出したくて。なので……職人さんとしては、人形用の民族衣装が縫える人、香り袋用の刺繍が得意な人、ガラス瓶は工房紹介して貰う方が早いですかね?最後、魚とエプレの調味料を仕込める人――でしょうか?ただ調味料に関しては、定期的な製造を目指したいんで、仲介人ではなくて、おおもとの生産者か料理人が理想的ですけど」

 私が指折りそこまで言ったところで、シレアン青年はちょっとポカンとしていて、ナザリオギルド長は思い切り顔を顰めていた。

「うん……まあ、言いたいコトは分かったよ。シレアンには僕が後でまとめて説明して、諸々準備させておく。ガラス工房に関しては、確かオルミにはネーミだったかハタラだったかの血を引く男の工房があった筈だから、彼の作品を取り寄せておくよ。君のお眼鏡に適う腕だったら、採用してやってくれ。そこまでいけば、もう全部統一してしまった方が良いしね」

 そこまで言い切ったところで、何か思い出したのか「あ、いや」とすぐさま言葉を続けた。

「職人ギルドの方にいけば、オルミのガラス職人の作品はある程度見る事が出来る筈だ。取引のための口利きがしやすいように、どこかの部屋に工房ごとに何個か展示されていたんじゃなかったかな。それだと、北方遊牧民以外でも、もしかしたら君が気に入る作品があるかも知れない。時間があるなら、今から職人ギルドへの紹介状書いて渡すけど?」

「あっ、ぜひ――と言いたいところなんですけど、この後どうしても外せない『仕事』があるんです。明日また朝から来ますので、その時と言う事でお願いしても良いですか?」

「ん、了解。僕はいるともいないとも断言出来ないけど、シレアンは必ず置いておくから、明日また彼を訪ねてくれれば良いよ」

 何だかんだと、こちらが考えていたプランを全て口頭での話だけで掬い取った上に、そこに至るまでに必要な道筋まで立ててしまった。

「えーっと……計画書とかって、必要です?後でフォサーティ卿に書いて渡す事になっているんですけど」

「ああ、僕はもう頭の中に入ったから要らないけど……ジーノが必要だと言うなら、シレアンにもあった方が良いか。うん、明日持って来て」

 確かにこの調子で案件を纏め上げているのなら、ギルド長就任にあたって必要な依頼件数と言うのは、あっと言う間にこなしてしまえるだろうなと、正直感心してしまった。

「ところでさ、ユングベリ商会長」
「何でしょう」

 そろそろ潮時かなと思っていたところに、さも何でもないような口調でナザリオギルド長が話を振ってくる。

 ああ、余談余談。すぐ済むから――なんて、見透かしたように笑われてしまったけど。

「今、ユングベリ商会って、ギーレンとアンジェスに伝手があって、このバリエンダールにも販路を拡げに来たって事だよね?あわよくばサレステーデ込みで」

「まあ……ぶっちゃけて言えば、そうですね」

「うん。って言う事は、まだベルィフは手つかずだよね?」

「……確かにそうですね」

「いやいや、そんな警戒しないでよ。ほら僕さ、今すぐじゃないけど、もう何年もしないうちにベルィフに帰るって言ったよね?だからさ、戻る時にはアンジェスのユングベリ商会宛に知らせを出すから、ベルィフの王都商業ギルドに一度おいでよ。ベルィフにも商会の販路作ろうよ」

 果たしてこれは、余談で片付けて良いものなのか。

 素で目を丸くした私に「酷いな、僕、真剣なのに」などと、真剣に聞こえない口調でナザリオギルド長が微笑わらった。

「ベルィフは立地的な話もあるけど、結構輸出入の多くをギーレンに寄っかかっていてさ。ギーレンに頼り過ぎない産業と販路の確立あるいは開拓は、国とギルド共通の悲願みたいなところもあるんだよ。僕が国を離れている間に、多少の変化はあるかも知れないし、今、コレを推したいとかそう言う話は出来ないんだけど、北方遊牧民達との取引に関してここまでアイデアを出せるなら、ベルィフに来てくれたら、何か閃いてくれそうな気がするんだけど?」

「買…い被りですよ。行ったって何も思い浮かばないかも知れませんし。他でも言ってますけど、基本的に既存の販路にケンカ売る気ありませんし」

「思い浮かぶかも知れないし、浮かばないかも知れない。それで充分だよ。まあとにかく、今は目の前の血統主義者達との問題を決着させないとね。とりあえずさ、僕がベルィフに赴任する時には、君の商会に手紙を出すから。これはもう決定事項だから、悩むなら商売人として、その時点での情勢やなんかから判断してよ。ね?」

 22歳の成人男性に「ね?」って言われてもなぁ……。

「ま、まぁとりあえず、今はこの国での話が先ですね。失敗して計画が頓挫しちゃったら、ベルィフがどうのと言ってられなくなりますし」

「分かってる、分かってる。物件も職人も業者も、シレアンと選りすぐっておくからさ、明日待ってるよ」

 ひらひらと手を振るナザリオギルド長と、茫然としたままだったシレアン青年を置いて部屋を後にしたものの、すぐに「……レイナ嬢」との、ウルリック副長の低空飛行な声が背中にぶつけられた。

「お茶会の後、説教させて貰いますからね」

「えー……」

「何が『えー』です。ギーレンに行った〝鷹の眼〟達が、帰国直後魂抜けてた理由が分かりましたよ。ええ、ファルコが『自重と反省と懲りるが旅に出て行方不明』って愚痴ってた意味も!」

「まあ……少なくとも『自重』は見えんわな」

 小声で叫ぶウルリック副長に、テオドル大公も乾いた笑いで賛同している。

「何にせよ、そろそろ茶会の時間の事もあるから、戻るか」

「あっ、あと一件、宿に手紙を預けるだけなんで、馬車の立ち寄りだけお願いしたいです」

 話が不利になる前に、話題をさっさと変えてしまおうと、私はテオドル大公の言葉に喰いついた。

「うん?届けるだけか?」

「はい、その宿に泊まっている筈の人物に、明日か明後日に時間が欲しい旨手紙を書いたので、受付に預けます。返事はバルトリ達が泊まっている宿にと書いておいたので、預けるだけで大丈夫です」

 ラヴォリ商会次期商会長カールフェルドから、父親である商会長の滞在先は聞いている。

 こちらもこちらで、根回しを怠るワケにはいかなった。
しおりを挟む
感想 1,469

あなたにおすすめの小説

「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜

水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」 効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。 彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。 だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。 彼に残した書き置きは一通のみ。 クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。 これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?

シエル
恋愛
「彼を解放してください!」 友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。 「どなたかしら?」 なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう? まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ? どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。 「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが? ※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界 ※ ご都合主義です。 ※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。