聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

404 ここだけの話、は存在しない

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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

『そもそも』

 ナザリオギルド長が、軽い気持ちで取引したいなら止めておけ…と視線で語っている空気は察しつつも、私はとりあえず自分の疑問を先にぶつける事にした。

『その、前のギルド長はどうして殺されてしまったんですか?政治とは一線を引くのがギルドの基本姿勢である筈ですよね?』

 単に王都商業ギルド長になりたかったのだとしても、その地位だけは国王に任命権がある。
 副ギルド長がいったん代行として運営をしたとしても、それはあくまで一時的な措置、最終的に任命されるとは限らないのだから、リスクは存在する筈だ。

 まして、例えば当時のギルド長が北方遊牧民の血を引いていての嫌悪からだとして、これも今の国王陛下が民族間の融和を目指している以上、不興を買う策でしかない。

 何を思って副ギルド長が事件を起こしたのかが、つくづく不透明なのだ。

『そりゃ、まあ、基本はね』

 ナザリオギルド長は、そう言って肩を竦めた。

『どうやら、その殺された前のギルド長の娘さんが、たまたま王都から北部イラクシ族に嫁いだらしくって。だからジーノが、王都に店を出している、あるいはこれから出したいと思っている北方遊牧民達を出来るだけ保護したいって考えて、足繫くギルドに通っていたのにも、当時協力していたらしいよ?だけどさ、そこに繋がりが出来ちゃうとさ、血統主義者達にしてみれば、鬱陶しいワケじゃない?で、そいつらがもう一人の宰相の子供を担ぎ上げちゃったみたいで』

『……グイド・フォサーティ』

『そうそう、それそれ』

 宰相令息、と敢えて言わなかった私に苦言を呈する事なく、むしろナザリオギルド長も、敬意など遠くの棚に放り投げて、頷いていた。

『ジーノが後を継ぐ為の実績を積ませたくないグイドと、北方遊牧民はおとなしく北部でカラハティ飼っておけって、あちこちで吹聴してる血統主義者達と、結構前にどっかで結びついちゃってたみたいでさ。まあ、僕がこのギルドに来た時には、もうその分裂が沖合の海の底以上に深まってて、どこから手を付けたら良いんだって思ったくらいで』

『…もしかして、現在進行形で狙われていたりなんかします?』

 何となくイヤな予感がして聞いてみた私に、ナザリオギルド長は返事の代わりに、それはそれは良い笑顔を閃かせていた。

『でも、僕は一応これでもギルド長だし、公平に人事は動かしているつもりだよ?たまにチクチクと牽制はされるけどさ、向こうだってまさか二代続けて不審死はさせられないし、いずれベルィフに戻る人間だって言うのも、このギルドの中で割に知られているし、味方でもないけど敵でもない、くらいでいるんじゃないのかな?あくまで、大っぴらに裁く理由がないってだけなのに、おめでたい話だとは思うけど』

 単に血統主義者達を引きずり下ろす決定的な証拠に、今は欠けているだけだとでも言いたげに、ナザリオギルド長は笑っている。

 まあ確かに「北でカラハティ飼っておけ」と言われるだけなら、どこぞの映画で「~県民にはそこらへんの草でも食わせておけ!」なんて過激に煽っていたのと大差はない。
 直接手出しをされなければ、特にギルド長と言う立場的には、動きようがないだろうなとは思う。

『だからね、現時点だとシレアンの方が、もう結構ギリギリなんだよ』

 多分、シレアン青年は、ベルィフ語を完全には理解出来ていないんだろう。
 ただ自分の名前が連呼されているところに、若干不安そうな表情を見せている感じだった。

『どの部署、店からも、僕の後のギルド長はシレアンだと思われてる。そのうえ、彼は既にジーノと懇意になってしまっているだろう?――だからさ、これは僕からの個人的なユングベリ商会への依頼になるんだけど』

 そんなシレアン青年を見る事なく、机の上で両手を組み合わせたナザリオギルド長が、それまでの余裕のある笑みをスッと消した。

『どうせグイドと血統主義者達の一団は、近いうちに墓穴を掘るよ。僕自身、何の種も撒いていない訳じゃないからね。多分、そう長い間の事じゃないから…誰かシレアンの護衛に付いてくれないかな?ギルド規定に則った護衛料は僕個人の財布から出すし、頷いてくれれば、シレアンの伝手に僕の伝手も追加で付けるよ』

『護衛?』

 各国商業ギルド共に、商人があちらこちらと行き来する以上は、護衛の手配も仕事の一環。多くは自警団の中から依頼に応じて人を出していると、最初の登録時に聞いた気が――とは思ったものの、すぐに「ギルドも一枚岩じゃない」と、言われていたのを思い出した。

『……ウチの護衛なら、自警団みうちでも蹴散らしてくれそうだと?』

『現に〝ソラータ〟は蹴散らしてるよね?多分、似たようなモノだと思うけどね』

『今朝のアレじゃ足りないって事なんですね』

 今朝の市場でのアレコレに関しては、どうやらジーノ青年の手紙以上の事も、ちゃんと把握をしているらしい。
 市場と言う、言わばギルドの「庭」で起きた出来事だからだろうか。

『ド底辺のゴロツキを捕まえたところで、また似た様な奴が湧いて出るだけじゃないか』

 …何だかうっかり、黒くてガサガサ動く不気味な虫を想像させるような、イヤな言い方だ。

『何も四六時中張り付いていろなんて頼まないよ。店舗物件の紹介も、商品のおろしに関して誰か紹介する時も、ユングベリ商会案件には全てシレアンを付かせるからさ、せいぜい目立つように歩いて、血統主義者達を煽ってきてよ。そこから背後の輩まで引き摺り出せたら、君の仕事と僕の懸念とが同時に片付いて、ほら、めでたい』

『私の頭はそんなにおめでたくありませんけどね』

 あ、しまった。
 要は囮になってこいってコトじゃないかと思ったら、両手をパッと開いておどけて見せたナザリオギルド長の言葉を、うっかりスパッと切って捨ててしまった。

 本人は、面白いとばかりに口角を上げていたけど。

『さっすが、伊達に商会長は名乗ってないねー。でもさ、僕は君の商会にとってのメリットとデメリットを説明しただけだからね?次は君が決める番。北方遊牧民達との取引には、現状それだけのリスクがあるって言う事を理解した上で、どうするかを――ね?』

 囮になって街中を闊歩しようがしまいが、取引をするなら、結局前のギルド長や今のナザリオギルド長、シレアン青年が直面している危険はイヤでも付いてくると言う事だろう。

(ただなぁ……)

 上手くいけば、バリエンダールの次期宰相候補と現ギルド長が、ユングベリ商会を抱えるアンジェスと手を組むべき、単独でサレステーデを制するのは、策としてはの策だとおおやけに進言してくれる可能性が出てくる。

 ユングベリ商会が先々サレステーデに販路を延ばすのにも、確実に有利になる。

「……っ」

 声は出さずにテオドル大公を振り返って見れば、多分、私の言いたい事が分かった――分かってしまったんだろう。
 思い切り表情かお痙攣ひきつらせていた。

「此処での話を、全て墓場まで持って行けと……?」

 あ、ハイ、思わずアンジェス語になってる大公様の言いたい事は分かりました。
 バレたらが降臨なされるコト間違いなしの案件ですよね、ええ。

「うん、みんなそんなにヤワじゃないよね⁉︎日頃の訓練の成果発揮と思って、頑張ってくれるよね⁉︎大丈夫、氷窟に放り込まれる時は、みんな一緒!」

「………もしもし、レ――お嬢さん?」

 ――だって選択肢なんて、あってないようなモノだと思うよ、ウルリック副長?
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