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第二部 宰相閣下の謹慎事情
438 降臨までのカウントダウン⁉
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どうやらナザリオギルド長の中では、テオドル大公は「他国のやんごとなき人」で、あとは数名彼の護衛がいて、お忍びの王都散策にユングベリ商会が協力している、と言う認識だったらしい。
今日は王宮案件なり個人的な外出でもあって、別行動だったんだろう…と。
あながち、見当違いでもないところが凄い。
確かに、民族衣装を着て貰ったところで、あの大貴族オーラは如何ともしがたかった面はある。
それでも暗黙の了解と言う形で、私の方からは、その場では「そう」とも「違う」とも言及は避けた。
『…お嬢様』
ナザリオギルド長が馬車の手配を宿の従業員に依頼している間に、こちらはどうしますか?と、シーグが視線とギーレン語で問いかけてきた。
『そう言えば、イオタはその情報をどこで?』
『バルトリさんが、例の「囮」案を実行している途中に、近くの宿でロマージ子爵とかって男に引き合わされたんです。そこに〝ソラータ〟の構成員が何人かいて。子爵と彼らが「早くある程度の駒を集めておかないと、そろそろ北部が封鎖されて動けなくなる」って別室で話しているのを聞いて。それで、今、北部が封鎖されたらお嬢様の取引にも支障が出ると、バルトリさんの命で私だけ抜けて、王宮に情報の確認に入ったんです。それで、昼食後の時間になっても、定時連絡が入らないと〝裏〟で騒ぎになっているのが聞こえて……』
……色々とツッコミどころが満載な事を、シーグは口にした。
ロマージ子爵とやらは、ベッカリーア公爵家派閥の子飼と見て間違いない。
そういう重要な情報を、あっさり〝ソラータ〟の連中と口に出している時点でどうかとは思うけど、そこはこちらとしては、今回は感謝だ。
それより「王宮に入った」と言うのが、どう考えても不法侵入と盗み聞き。
これは何か聞かれたら「一緒に夕食がとれるか、定時連絡がこちらにも来る事になっていた」とでも言うより他はなさそうだった。
『とりあえず、囮組の三人はそのまま芝居してて貰おうかな。その子爵からもっと上の人間が出て来る可能性あるよね。直接北部封鎖に関係ないかも知れないけど、事前に知っていて、目くらましに利用してる可能性はあるしね』
もしかすると、ベッカリーア公爵家側が起こしている騒動の罪も、まとめて今回の北部封鎖の原因であるイラクシ族に被せてしまえ――と、考えている可能性はある。
それはそのまま、少数民族の血を引くジーノ青年への非難にすり替わる可能性もある。
『その子爵達が、どこから北部封鎖の情報を得たのか――背後を探れたら探って?』
シーグは軽く頭を下げて、すぐさま部屋を出て行った。
それを横目に別テーブルに駆け寄ると『何かあったんですね』と、アンジェス語で声を落として聞いてきたのはウルリック副長だった。
念のため『テオ様が』とぼかした形で、連絡が取れなくなっている事を小声で説明する。
『なっ……』
呻く様な声を発したベルセリウス将軍に対して、マトヴェイ外交部長やウルリック副長は、目を瞠って、テーブルの上に置かれていた拳を握りしめた。
『ギルド長も、シェーヴォラギルドからの情報を報告する義務があるとの事なので、一緒に王宮へ行きます。どうやら封鎖された先に行かれた可能性が高いので、確認も兼ねて』
『……お館様へは?』
こっそり確認してくるウルリック副長に、私もナザリオギルド長に聞こえないように、更に声を落とした。
『連絡が取れない事と、場合によっては明日の帰国に影響があるかもとか、私たちが王宮に軟禁される可能性がある事とは、何とかして知らせないとね』
王宮に軟禁、と聞いたマトヴェイ外交部長が眉根を寄せた。
『確かにアンジェス王宮に、ギリギリまで情報は渡すまいと、我々を閉じ込める可能性はある…か』
『とりあえず、今からギルドに寄って王宮訪問の先触れを出して、シレアンさんも連れて行くらしいので、その時に手紙を出そうと思ってるんです。先触れ書く間に、こっちの手紙も書けるでしょうし』
マトヴェイ外交部長よりも早く「そうですね」と頷いたのは、ウルリック副長だった。
『こうなったら、バルトリとアシェルと双子は遊撃として使いましょう。我々が動けなくなる可能性があるなら、尚更に』
『……しかしそんな事になったら、お館様か陛下が黙っていないだろう。氷漬けか血塗れかと、殿――ゴホン、テオ殿が言っていたではないか』
何気ないベルセリウス将軍の言葉に、アンジェス側の全員が顔色を変えた。
『……すみません。うちの上司が、皆が敢えて言葉にしなかったところを……』
うん。
そうだよね、ウルリック副長。
分かってても、口にしない方が幸せな事ってあるよね。
『その……もともと「遅れたら乗り込む」とは、言われてまして。黙って遅れたら吹雪が倍増しそうな気がしたから、一応途中経過だけでも報告しておこうかなー、と思ってたんですよ』
ね、口にしない方が幸せだったでしょう?
そんな私の視線に、さすがのベルセリウス将軍も、顔色を悪くしていた。
* * *
「あの、私も手紙を書いて良いですか。本当は明日一度アンジェスに帰国して、明後日以降商談があったりしたんですよ。連絡なしに遅れたりすると騒ぎになると思うので、詳しい事は書かずに『帰国が遅れるかも知れない』とだけ書いて出します」
王都商業ギルドに着いてそう言うと、ナザリオギルド長は一瞬考える仕種を見せたものの「なるほど」と、一応は納得してくれた。
「確かに、商談すっぽかして連絡とれないとなったら、今回の件で王家側から箝口令が出たとしても台無しになるよね。うん、そのくらいの文章だったら送っても問題ないと思うよ」
馬車の中で考えた末、私は「日本語で」「ボードリエ伯爵家宛」に手紙を出す事にした。
ギルド長室で覗き見されても、投函前に盗み見る人間がいたとしても、誰にも読めない唯一の言語。
シャルリーヌからエドヴァルドに言付けをして貰えば良いだろう。
就任前とは言え、聖女。
王宮に行って宰相や陛下と話をする事は不自然に見えない筈。
(ごめんね、シャーリー巻き込んで!魚醤とウナギを見つけたから、他にも仕入れた魚介類あるから、帰ったら海鮮BBQやるから!)
私はそれも、もちろん手紙に書いた。
後日シャルリーヌと会った時に、宰相室でまずそれを伝えた際、魔力を抑える為の魔道具を、エドヴァルドが壊したらしいと聞かされる羽目になったけど。
「海鮮BBQ、一回じゃ割に合わないわ!風邪ひくかと思ったわよ!」
――重ね重ね申し訳ございません、シャルリーヌ様。
今日は王宮案件なり個人的な外出でもあって、別行動だったんだろう…と。
あながち、見当違いでもないところが凄い。
確かに、民族衣装を着て貰ったところで、あの大貴族オーラは如何ともしがたかった面はある。
それでも暗黙の了解と言う形で、私の方からは、その場では「そう」とも「違う」とも言及は避けた。
『…お嬢様』
ナザリオギルド長が馬車の手配を宿の従業員に依頼している間に、こちらはどうしますか?と、シーグが視線とギーレン語で問いかけてきた。
『そう言えば、イオタはその情報をどこで?』
『バルトリさんが、例の「囮」案を実行している途中に、近くの宿でロマージ子爵とかって男に引き合わされたんです。そこに〝ソラータ〟の構成員が何人かいて。子爵と彼らが「早くある程度の駒を集めておかないと、そろそろ北部が封鎖されて動けなくなる」って別室で話しているのを聞いて。それで、今、北部が封鎖されたらお嬢様の取引にも支障が出ると、バルトリさんの命で私だけ抜けて、王宮に情報の確認に入ったんです。それで、昼食後の時間になっても、定時連絡が入らないと〝裏〟で騒ぎになっているのが聞こえて……』
……色々とツッコミどころが満載な事を、シーグは口にした。
ロマージ子爵とやらは、ベッカリーア公爵家派閥の子飼と見て間違いない。
そういう重要な情報を、あっさり〝ソラータ〟の連中と口に出している時点でどうかとは思うけど、そこはこちらとしては、今回は感謝だ。
それより「王宮に入った」と言うのが、どう考えても不法侵入と盗み聞き。
これは何か聞かれたら「一緒に夕食がとれるか、定時連絡がこちらにも来る事になっていた」とでも言うより他はなさそうだった。
『とりあえず、囮組の三人はそのまま芝居してて貰おうかな。その子爵からもっと上の人間が出て来る可能性あるよね。直接北部封鎖に関係ないかも知れないけど、事前に知っていて、目くらましに利用してる可能性はあるしね』
もしかすると、ベッカリーア公爵家側が起こしている騒動の罪も、まとめて今回の北部封鎖の原因であるイラクシ族に被せてしまえ――と、考えている可能性はある。
それはそのまま、少数民族の血を引くジーノ青年への非難にすり替わる可能性もある。
『その子爵達が、どこから北部封鎖の情報を得たのか――背後を探れたら探って?』
シーグは軽く頭を下げて、すぐさま部屋を出て行った。
それを横目に別テーブルに駆け寄ると『何かあったんですね』と、アンジェス語で声を落として聞いてきたのはウルリック副長だった。
念のため『テオ様が』とぼかした形で、連絡が取れなくなっている事を小声で説明する。
『なっ……』
呻く様な声を発したベルセリウス将軍に対して、マトヴェイ外交部長やウルリック副長は、目を瞠って、テーブルの上に置かれていた拳を握りしめた。
『ギルド長も、シェーヴォラギルドからの情報を報告する義務があるとの事なので、一緒に王宮へ行きます。どうやら封鎖された先に行かれた可能性が高いので、確認も兼ねて』
『……お館様へは?』
こっそり確認してくるウルリック副長に、私もナザリオギルド長に聞こえないように、更に声を落とした。
『連絡が取れない事と、場合によっては明日の帰国に影響があるかもとか、私たちが王宮に軟禁される可能性がある事とは、何とかして知らせないとね』
王宮に軟禁、と聞いたマトヴェイ外交部長が眉根を寄せた。
『確かにアンジェス王宮に、ギリギリまで情報は渡すまいと、我々を閉じ込める可能性はある…か』
『とりあえず、今からギルドに寄って王宮訪問の先触れを出して、シレアンさんも連れて行くらしいので、その時に手紙を出そうと思ってるんです。先触れ書く間に、こっちの手紙も書けるでしょうし』
マトヴェイ外交部長よりも早く「そうですね」と頷いたのは、ウルリック副長だった。
『こうなったら、バルトリとアシェルと双子は遊撃として使いましょう。我々が動けなくなる可能性があるなら、尚更に』
『……しかしそんな事になったら、お館様か陛下が黙っていないだろう。氷漬けか血塗れかと、殿――ゴホン、テオ殿が言っていたではないか』
何気ないベルセリウス将軍の言葉に、アンジェス側の全員が顔色を変えた。
『……すみません。うちの上司が、皆が敢えて言葉にしなかったところを……』
うん。
そうだよね、ウルリック副長。
分かってても、口にしない方が幸せな事ってあるよね。
『その……もともと「遅れたら乗り込む」とは、言われてまして。黙って遅れたら吹雪が倍増しそうな気がしたから、一応途中経過だけでも報告しておこうかなー、と思ってたんですよ』
ね、口にしない方が幸せだったでしょう?
そんな私の視線に、さすがのベルセリウス将軍も、顔色を悪くしていた。
* * *
「あの、私も手紙を書いて良いですか。本当は明日一度アンジェスに帰国して、明後日以降商談があったりしたんですよ。連絡なしに遅れたりすると騒ぎになると思うので、詳しい事は書かずに『帰国が遅れるかも知れない』とだけ書いて出します」
王都商業ギルドに着いてそう言うと、ナザリオギルド長は一瞬考える仕種を見せたものの「なるほど」と、一応は納得してくれた。
「確かに、商談すっぽかして連絡とれないとなったら、今回の件で王家側から箝口令が出たとしても台無しになるよね。うん、そのくらいの文章だったら送っても問題ないと思うよ」
馬車の中で考えた末、私は「日本語で」「ボードリエ伯爵家宛」に手紙を出す事にした。
ギルド長室で覗き見されても、投函前に盗み見る人間がいたとしても、誰にも読めない唯一の言語。
シャルリーヌからエドヴァルドに言付けをして貰えば良いだろう。
就任前とは言え、聖女。
王宮に行って宰相や陛下と話をする事は不自然に見えない筈。
(ごめんね、シャーリー巻き込んで!魚醤とウナギを見つけたから、他にも仕入れた魚介類あるから、帰ったら海鮮BBQやるから!)
私はそれも、もちろん手紙に書いた。
後日シャルリーヌと会った時に、宰相室でまずそれを伝えた際、魔力を抑える為の魔道具を、エドヴァルドが壊したらしいと聞かされる羽目になったけど。
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