聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

463 男役トップスター登場⁉(前)

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 翌朝。
 前夜の内にシーグ経由で、アンジェス組の皆様には、テオドル大公の居場所が分かりそうだから、トーカレヴァを先行して行かせたと伝えておいた。

 さすが、私なんかよりよっぽど修羅場慣れした人達なので、さも「聞いていません」と言ったていで朝から荷馬車の用意に手を貸していた。

 私はと言えば、サラさんが話せそうだと言うので、カゼッリ族長の家の一室でラディズ青年と、ギルド案件もあるだろうと、シレアンさん同席で、面会する事になった。

「やあ、レディの前でこんな格好で申し訳ない」

「⁉︎」

 多少まだ顔色が良くないのは仕方がないにせよ、寝台の上から想定外の言葉をかけられて、私とシレアンさんは一瞬硬直した。

 眠るのに楽な服を貸して貰っている――のは、さておき。

「私の名前はもう、ディ…ラディズから聞いてくれたんだろう?初めまして、私がサラチェーニ・バレスだ。バタバタとしているところ、迷惑をかけて申し訳なかったよ」

 私の大好きな歌劇ミュージカル演目で、某女性ばかりの歌劇団バージョンの死の神サマが、こんな見た目じゃなかっただろうか。

 ちょっと王族衣装のテオドル大公と並んでほしい……なんて妄想は、置いておいて。

 つまりは、見た目にも口調にも男役トップスターの様な印象を醸し出している女性が、硬直する私にクスリと微笑わらいかけた。

「サラちゃんは、行商先の若いお嬢さんや奥様方の間でとっってもモテるのよ?村に居る様な男衆に比べて優しいし、見ての通りカッコイイでしょうー?」

 クスクスと笑いながら水差しとコップを持って来たランツァさん、それで良いんでしょうか……?
 いや、ラディズ青年もか。

「ああ、驚いたかい?行商と言う仕事上、あまり女性らしい恰好や口調をしていると、話を聞いて貰えない事も多々あったからね。だと、特に日用品の購買権限を持っているコトが多いレディ達が喜んでくれるんだよ」

 本当は何と言っているのかはさておき、私の脳内翻訳機能はレディあるいは「子猫ちゃん」と認識されているのは確かだ。

 私はさっきから動揺して沈黙したままだった事を思い出して、慌ててペコリと頭を下げた。

「初めまして、バレス嬢。私がユングベリ商会の商会長レイナです。こちらが、バリエンダール王都商業ギルドのシレアン・メルクリオさん。ギルド長代理であり、北部地域担当の方です」

 私の紹介に、これも動揺していたらしいシレアンさんが「よろしく」と慌てて片手をあげている。

「いやいや、そんな堅苦しい呼び名はやめてくれないか、レディ。サラで構わないよ。もちろん、ギルド長代理も」

「あ…はい、じゃあ私も『レイナ』で構いません。サラさん…で良いですか?」

「レイナ!カワイイ名前だね。私のコトも、別に『さん』は付けなくて大丈夫だよ?むしろ線を引かれているみたいで寂しくなるじゃないか。口調も、もっと普通にしてくれて良いし」

「………」

 困り果てた私は、チラッとラディズ青年に視線を向けてみたけど「サラはコレが通常運転だから」と、ニコニコと躱されてしまった。

 どうやらこっちは、惚れた弱みで何でもアリの状態らしい。

「サラちゃん、まだ本調子じゃないんだから、長話は控えてね?」
「分かったよ。ランツァさんにそう言われると、私としても無視をするのは心が痛む」

 ふふふ…と、楽しそうに微笑わらいながら、ランツァさんは私たちに気を遣う様に部屋を後にして行った。

「あれであの人、怒ると怖いんだよ。伊達に族長夫人はやっていないからね。じゃあ、早速話をさせて貰っても良いかな?」

「あ、はい…じゃなくて、うん、どうぞ」

 ニコニコと微笑わらうサラさんの圧に負けて、私はちょっぴり口調を崩した。
 多分ちょっと年上な筈なんだけど、本人がそうしろと主張している以上は、仕方がないんだろう。

 ラディズ青年もシレアンさんも、諦めた方が早いって表情だし。

「ディ…ああ、彼の事なんだけどね。彼からお酒は受け取ってくれたかな」

「昨日の夕食の時に、商会ウチの酒好きを集めて飲ませて貰ったわ。私そんなにお酒に強くないから、さすがに五本を一人でと言われると無理があったから」

 決して味がどうと言う話ではないと、念押ししておく。

「そうか。よく考えれば、ヴィットなんかは少し強いお酒だったね。ディが何を飲ませてもほとんど顔色を変えないから、私も最近、感覚が麻痺していたようだ。それで、どうだろう。商会長としての正直な意見を聞かせてくれないかな」

「従業員達には、ヴィットが好評だったかな。私は個人的にはエプレとかバートレットとかが好みだった」

「取引としては、どうかな」

「うーん……いくつか聞いても良い?」

「もちろん、私で分かる範囲なら何でも答えるよ!それぞれの村の皆からも頼まれているからね!」

 食い入るようにこちらを見つめてくるサラさんに、ラディズ青年が「サラ、落ち着こうか」と、苦笑しながら宥めている。

 そうやって見ていると、ラディズ青年も懐の広い大人の男――と、見えなくもない。

 どうも私には「運び屋をやらされたヘタレさん」のイメージが抜けきらないけど。

「うん。どのお酒を作っている人たちも、中身には当然こだわりがあると思うんだけど、入れ物の方はどうかと思って」

「入れ物?」

「そう。たとえばこちらから指定する瓶を予め渡して、それに入れて貰う事は可能かな…って」

 私の言葉が完全に想定外だったらしく、サラさんは目を丸くしている。

「別の瓶……」

「もしくは、村で自作している…とかだったら、こちらが指定する様な形状で作って貰えるかどうか」

 瓶やラベルを工夫すれば、自家用だけじゃなく、ちょっとした贈り物としての用途も発生する。
 
 特にイユノヴァ・シルバーギャラリーと併設して売り物を並べるには、多少の見た目の工夫も必要だと思っていた。

「多分どの村も、瓶は近くの少し大きい街から仕入れていたんじゃなかったかな……」

「ユングベリ商会としては、オルミ地方のガラス工房に、諸々一手に委ねるつもりなの。古くからの付き合いがあるとかで、それが難しいとかだったら、指定する形状をせめて作って欲しくて」

「……それだと、取引出来る?」

「すくなくともウチは、五種類全部仕入れさせて貰うよ?バリエンダール王都に出すお店としては、北部地域の品である事を基本にするつもりだけど、本店があるアンジェスには、バリエンダールの名産品であるというくくりで輸出しようと思っているから」

「そうか、家庭用よりも見た目のランクを上げるってコトなんだね」

「味としては十分に通用するだろうって、ウチの酒飲みさん達も言ってたから。仕入れ値はその点を考えての要相談になるとは思うけど。お酒の生産者が頑固一徹な人で、味以外のところも含めて、一片たりとも妥協したくない!とか言われると、さすがにちょっと困るかな。今回はご縁がなかったってコトで――って感じになるかも?」

 もうコレは、バリエンダールの王都商業ギルドからの商法講師派遣は決定的かなぁ……と、私は内心呟いていた。

 輸出候補の品数が増える一方だし、さすがに両国間の関税――と言う概念があるのかも含めて、私自身もまだ詳しくはないからだ。

 シレアンさんを見上げると「ギルドに戻ったら、講師派遣の相談しようか?」と、こちらの実情を見透かしたかの様に笑っている。

「そうですね……」

 ふむ……と口元に手を当てて考えているサラさんを横目に、私は乾いた笑い声をあげた。
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